呉港 | ||
鈴木東溟 |
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旅懷寂寞上江樓, 目斷浮雲落日頭。 一鳥冥冥天水合, 漁歌聲冷海陬秋。 |
旅懷 寂寞として江樓 に上 れば,
目斷 す浮雲 落日の頭 を。
一鳥 冥冥 たり天水 合 するところ,
漁歌 聲冷 やかなり海陬 の秋。
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◎ 私感註釈
※鈴木東溟:本名は虎十郎。海軍軍人。遠州掛川の人。明治二十八年(1895年)、日清戦争で戦死。三十歳。*この作品は『漢詩と石碑』(漢文の世界)の『漢詩に見る呉とその周辺の風景』のサイト主様より同意を得まして、こちらへ転載致しました。なお、読み下しはわたしも致しました。
※呉港:広島県呉 市にある港湾で、水軍・帝国海軍・海上自衛隊の重要拠点。明治十九年(1886年)以降は、第二海軍区鎮守府が設置されて帝国海軍の拠点となり、今日の繁栄を見せるに至った。
※旅懐寂寞上江楼:旅情はひっそりとしてものさびしく、川のほとりのたかどのに登り。 ・旅懐:旅人としての思い。旅情。旅思。また、旅愁。 ・寂寞:〔せきばく、じゃくまく;ji4mo4●●〕ひっそりとしてものさびしいさま。盛唐・高適の『宋中』に「梁王昔全盛,賓客復多才。悠悠一千年,陳迹惟高臺。寂寞向秋草,悲風千里來。」とあり、 盛唐・劉方平の『春怨』に「紗窗日落漸黄昏,金屋無人見涙痕。寂寞空庭春欲晩,梨花滿地不開門。」とあり、南宋・陸游の『書事』に「關中父老望王師,想見壺漿滿路時。寂寞西溪衰草裏,斷碑猶有少陵詩。」とある。 ・江楼:大きな川のほとりのたかどの。川や入江に臨んで建っているたかどの。
※目断浮雲落日頭:ながめやる果てには、夕日のほとりに空中に浮かび漂う雲(がある)。 ・目断:ながめやる果て。視力が届かない。北宋・徽宗の『在北題壁』に「徹夜西風撼破扉,蕭條孤館一燈微。家山回首三千里,目斷天南無雁飛。」とあり、北宋・柳永の『少年遊』に「長安古道馬遲遲,高柳亂蝉棲。夕陽島外,秋風原上,目斷四天垂。 歸雲一去無蹤迹,何處是前期?狎興生疏,酒徒蕭索,不似去年時。」とある。 ・浮雲:空中に浮かび漂う雲。うきぐも。『古詩十九首之一・行行重行行』に「行行重行行,與君生別離。相去萬餘里,各在天一涯。道路阻且長,會面安可知。胡馬依北風,越鳥巣南枝。相去日已遠,衣帶日已緩。浮雲蔽白日,遊子不顧返。思君令人老,歳月忽已晩。棄捐勿復道,努力加餐飯。」とあり、盛唐・祖詠の『終南望餘雪』に「終南陰嶺秀,積雪浮雲端。林表明霽色,城中摯驫ヲ。」とある。 ・頭:ほとり。明治・石田魚門の『大阪繁昌記・松島』に「狂蝶尋芳松嶋頭,春花爛漫客登樓。北山雲雨西山雨,付與蕩カ促好遊。」とある。
※一鳥冥冥天水合:一羽の鳥が、奥深くの空と海とが合わさっているところに(飛んでおり)。 ・冥冥:〔めいめい;ming2ming2○○〕暗いさま。奥深いさま。見えないさま。遙かで遠い。漢魏・蔡文姫の『悲憤詩』其一に「馬邊縣男頭,馬後載婦女。長驅西入關,迥路險且阻。還顧邈冥冥,肝脾爲爛腐。所略有萬計,不得令屯聚。或有骨肉倶,欲言不敢語。失意機微閨C輒言斃降虜。要當以亭刃,我曹不活汝。豈復惜性命,不堪其詈罵。」とあり、初唐・王梵志の『我昔未生時』に「我昔未生時,冥冥無所知。天公強生我,生我復何爲。無衣使我寒,無食使我饑。還你天公我,還我未生時。」とある。 ・天水:空と水。空と海。水天。 ・合:合わさる。一つになる。一緒になる。
※漁歌声冷海陬秋:漁夫のうたう歌声は、海辺にある片いなかの秋に冷ややかに(響いている)。 ・漁歌:漁夫のうたう歌。 ・冷:ひややかである。 ・海陬:〔かいすう;hai3zou1●○〕海辺にある片いなか。岬。海のすみ。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「樓頭秋」で、平水韻下平十一尤。この作品の平仄は、次の通り。
●○●●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
●●○○○●●,
○○○●●○○。(韻)
平成25.5.19 5.20完 平成27.3.21補 |
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