李白觀瀑圖 | ||
大正天皇 | ||
一道銀河落九天, 香爐飛瀑帶晴煙。 何人至此傳佳句, 唯有風流李謫仙。 |
一道 の銀河 九天より落ち,
香爐 の飛瀑 晴煙を帶 ぶ。
何人 か此 に至りて佳句 を傳ふ,
唯 だ有り 風流の李謫仙 。
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◎ 私感註釈
※大正天皇:第百二十三代天皇。明治十二年(1879年)〜大正十五年(1926年)。幼称は明宮(はるのみや)。諱は嘉仁(よしひと)。第百二十二代天皇・明治天皇の子で、第百二十四代天皇・昭和天皇の父。
※李白觀瀑圖:李白が滝を見物する絵(を見て作る)。 *盛唐・李白の『望廬山瀑布』に「日照香爐生紫煙,遙看瀑布挂前川。飛流直下三千尺,疑是銀河落九天。」とある。 ・李白:盛唐の詩人。字は太白。自ら青蓮居士と号する。世に詩仙と称される。701年(嗣聖十八年)〜762年(寶應元年)。西域・隴西の成紀の人で、四川で育つ。若くして諸国を漫遊し、後に出仕して翰林供奉となる。後に高力士の讒言に遭い、退けられる。安史の乱では、永王が謀亂を起こしたのに際し、幕僚となっていたため、罪を得て夜郎にながされたが、やがて赦された。 ・觀:眺める。見物する。 ・瀑:〔ばく;pu4●〕滝。 ・圖:絵。
※一道銀河落九天:一筋の天の川が、天の最も高いところから落ちてきて。 ・一道:一筋の。一本の。 ・道:川や細長いものを数える量詞(=助数詞)。 ・銀河:天の川。前出・・李白の『望廬山瀑布』に「疑是銀河落九天。」とある。 ・九天:天の最も高いところ。おおぞら。九霄。九重天。
※香炉飛瀑帯晴煙:香炉峰の高い所から落ちる滝は、うららかな日の春霞を帯びている。 ・香炉:香炉峰のこと。廬山の北西部の峰。 ・飛瀑:高い所から落ちる滝。前出・・李白の『望廬山瀑布』に「日照香爐生紫煙,遙看瀑布挂前川。」とある。 ・帯:あらわれている。おびる。 ・晴煙:うららかな日の春霞。唐末〜・韋莊の『古別離』に「晴煙漠漠柳毿毿,不那離情酒半酣。更把玉鞭雲外指,斷腸春色在江南。」とある。
※何人至此伝佳句:いかなる人がここに来て、よい詩句を伝えたのか(といえば)。 ・何人:どういう人。いかなる人。何者。なんぴと。 ・佳句:よい詩句の意。
※唯有風流李謫仙:ただ風雅な趣を持つ李白だけである。 ・唯有:ただ…だけがある。=惟有。曹操の『短歌行』に「對酒當歌,人生幾何。譬如朝露,去日苦多。慨當以慷,憂思難忘。何以解憂,唯有杜康。」や、唐の劉希夷『白頭吟(代悲白頭翁)』に「洛陽城東桃李花,飛來飛去落誰家。洛陽女兒惜顏色,行逢落花長歎息。今年花落顏色改,明年花開復誰在。已見松柏摧爲薪,更聞桑田變成海。古人無復洛城東,今人還對落花風。年年歳歳花相似,歳歳年年人不同。寄言全盛紅顏子,應憐半死白頭翁。此翁白頭眞可憐,伊昔紅顏美少年。公子王孫芳樹下,C歌妙舞落花前。光祿池臺開錦繍,將軍樓閣畫~仙。一朝臥病無人識,三春行樂在誰邊。宛轉蛾眉能幾時,須臾鶴髮亂如絲。但看古來歌舞地,惟有黄昏鳥雀悲。」とあり、李白の『將進酒』に「君不見黄河之水天上來,奔流到海不復回。君不見高堂明鏡悲白髮,朝如青絲暮成雪。人生得意須盡歡,莫使金尊空對月。天生我材必有用,千金散盡還復來。烹羊宰牛且爲樂,會須一飮三百杯。岑夫子,丹丘生。將進酒,杯莫停。與君歌一曲,請君爲我傾耳聽。鐘鼓饌玉不足貴,但願長醉不用醒。古來聖賢皆寂寞,惟有飮者留其名。陳王昔時宴平樂,斗酒十千恣歡謔。主人何爲言少錢,徑須沽取對君酌。五花馬,千金裘。呼兒將出換美酒,與爾同銷萬古愁。」とあり、劉長卿は『尋盛禪師蘭若』で「秋草黄花覆古阡,隔林何處起人煙。山僧獨在山中老,唯有寒松見少年。」とあり、中唐・白居易の『闍瘁xに「自從苦學空門法,銷盡平生種種心。唯有詩魔降未得,毎逢風月一闍瘁B」とあり、後世、北宋・蘇軾の『江城子』乙卯正月二十日夜記夢には「十年生死兩茫茫,不思量。自難忘。千里孤墳,無處話淒涼。縱使相逢應不識,塵滿面,鬢如霜。 夜來幽夢忽還ク。小軒窗,正梳妝。相顧無言,惟有涙千行。料得年年腸斷處,明月夜,短松岡。」とあり、司馬光『居洛初夏作』「四月清和雨乍晴,南山當戸轉分明。更無柳絮因風起,惟有葵花向日傾。」とある。 ・李謫仙:李白のこと。李白は(賀知章から)「謫仙人」とも呼ばれた。天上界から罪によって人間界に追放されたという仙人。非凡な才能の持ち主、大詩人等の喩え。盛唐・李白の『對酒憶賀監』に「四明有狂客,風流賀季真(=賀知章)。長安一相見,呼我謫仙人。昔好杯中物,今爲松下塵。金龜換酒處,卻憶涙沾巾。」とある。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「天煙仙」で、平水韻下平一先。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○,(韻)
○○○●●○○。(韻)
○○●●○○●,
○●○○●●○。(韻)
平成28.9.14 9.15 |
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