Huanying xinshang Ding Fengzhang de zhuye
備後三郎題詩桜樹図




 
 
              
       備後三郞題詩櫻樹圖  
                       菅茶山

騎馬撃賊下馬檄,
三郞奇才世無敵。
夜穿虎豹達行在,
衛騎眠熟柝聲寂。
慨然白樹寫幽憤,
行雲不動天亦忿。
中興誰旌首事功,
一門猶懷貫日忠。
金輿再南乾坤變,
五字櫻花千古恨。

        『太平記』 備後三郎高德事呉越軍事

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備後三郞 詩を櫻樹に題するの圖
                       
馬に騎りては 賊を撃ち  馬を下りては檄,
三郞の 奇才  世に敵 無し。
夜 虎豹を穿ちて  行在に 達し,
衛騎 眠り熟して  柝聲 寂たり。
慨然 樹を白
(しら)げて  幽憤を 寫せば,
行雲 動かず  天も亦た 忿
(いか)る。
中興 誰
(たれ)か旌(あらは)す  首事の功を,
一門 猶
(なほ) 懷(いだ)く  貫日の忠。
金輿 再び南して  乾坤 變じ,
五字の 櫻花  千古の恨。

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◎ 私感註釈

※菅茶山:江戸時代後期の儒者。延享五年(1748年)~文政十年(1827年)。備後神辺(かんなべ)の人。姓は菅波、名は晉師(ときのり)、字は礼卿、通称は太仲。茶山は、号になる。菅茶山についてはこちらを参照

※備後三郞題詩櫻樹圖:備後三郞の児島高徳が詩をサクラの木に書きしるしている場面の絵。 ・備後三郞:児島高徳の通称。元弘の変(かつては元弘之乱ともいう)の時、後醍醐天皇を救出しようとし、身近にまで接近するが果たせずに、詩を書いて残す。翌朝、帝がこれを見、尽忠の士のいることを悟られた。その誠忠は万古に伝えられている。南北朝時代の備前の人。この作品は、児島高徳が隠岐に流されてゆく帝を追って、船坂山、杉坂と果たせず、院庄で、夜間に天皇の行在所に忍び入り、
 『太平記』「備後三郎高德事付呉越軍事」の
中のページ。よく見ると「押削テ大文字三句ノ詩ヲ
書付タリケル」とある。「三句?之句?」
  『前賢故實』 備後三郞兒島高德
その庭にある桜の幹を削り、そこに「天莫空勾踐,時非無范蠡」の白桜十字詩のを書き、その義烈を表したことをうたった詠史詩の一。李白に『蘇臺覽古』「舊苑荒臺楊柳新,菱歌淸唱不勝春。只今惟有西江月,曾照呉王宮裡人。」や、五古『越中覽古』「越王勾踐破呉歸,義士還家盡錦衣。宮女如花滿春殿,只今唯有鷓鴣飛。」がある。 ・題詩:詩を書きつける。また、定められた題によって詩を作ること。ここでは、児島高徳が詩を書きつけていることを謂う。 ・櫻樹:サクラの木。この幹を白げて、白桜十字詩を書き記した。 ・圖:絵。この作品は、我が国独特の国史の事柄を伝統的な漢語の語彙を駆使して、正確に表現しきっている。

※騎馬撃賊下馬檄:文武の才があり、実戦に出れば敵を倒し、帷幄の内にあって作戦を練れば、天下に影響を与える組織力を持っている。 ・騎馬撃賊:実戦に出れば敵を倒す武力でもって。 ・下馬檄:馬に乗らないで帷幄の内にあって作戦を練れば、天下に影響を与える組織力という文の力を持っている。 ・騎馬:馬に乗る。戦う。 ・撃賊:賊を撃つ。 ・下馬:馬に乗らないで、帷幄の内にあって文章を天下に回して作戦を立てる。 ・檄:檄文。ふれぶみ。

※三郞奇才世無敵:備後三郞・児島高徳の智略は、天下無敵である。 ・三郞:前出、備後三郞・児島高徳のこと。 ・奇才:優れた才智。ここは、後出『太平記』「三宅荻野謀叛事」にある神出鬼没の才。 ・世無敵:天下無敵である。

※夜穿虎豹達行在:夜間に難関を突破して、天皇の寝所にまで来た。 ・夜穿虎豹:夜間に、万難を排して。夜陰に乗じて、よりも強い語調になる。杜甫に「曾驚陶侃胡奴異,怪爾常穿虎豹群。」とある。  ・穿:うがつ。とおす。つらぬく。 ・虎豹:岩石の形容。勇猛な者の譬え。魚龍や熊羆などに対応するもの。 ・達:達する。 ・行在:(あんざい)。行在所。ここでは後醍醐帝の寝所。

※衛騎眠熟柝聲寂:警固の兵士は熟睡して、警戒のために打ち鳴らす拍子木の音もひっそりとしずかである。 ・衛騎:警固の兵士。 ・眠熟:熟睡している。 ・柝聲:拍子木の音。 ・柝:〔たく;tuo4●〕拍子木。警戒のために打ち鳴らす二本一組の木。 ・寂:ひっそり。しずかである。さびしげである。

※慨然白樹寫幽憤:憤り嘆いて、木(の幹)を削り、(そこに)人知れぬいきどおりの詩句(「天莫空勾踐,時非無范蠡」という白桜十字詩と伝えられるもの)を書いた。 ・慨然:憤り嘆くさま。悲しみ嘆くさま。『晋書』巻三十四列伝第四羊」に「(羊)樂山水,毎風景,必造(造:いたる。行く。)山,置酒言詠,終日不倦。
慨然歎息,顧謂從事中郞鄒湛等曰:『自有宇宙,便有此山。由來賢達勝士,登此遠望,如我與卿者多矣!皆湮滅無聞,使人悲傷。如百歳後有知,魂魄猶應登此也。』」など、本サイト内での用例も多い。 ・白樹:木(の幹)を削る。木(の幹)を白(しら)げる。 ・寫:書く。うつす。 ・幽憤:人知れぬいきどおり。

※行雲不動天亦忿:(慨然として桜樹に書かれた幽憤の詩句に、天も共感して)流れゆく雲は動こうとしないで、天もまた怒っている。 ・行雲:流れゆく雲。 ・不動:動こうとしない。動かない。意思の否定。 ・天亦:天ですらも。李賀に「天若有
『日本外史』白櫻樹書二句
天亦がある。 ・忿:いかる。この字は『太平記』「三宅荻野謀叛事」でも「…君勾踐ニ被亡いテ。死刑ニ赴キ給ハンヲ見。一笑ヲ快クセント申ケレハ呉王彌忿テ。即チ伍子胥ヲ*被誅。(*「フ」字となっているが、おそらく「ヲ」字の摩滅か誤になろう)」にもある。この段は児島高徳の活躍を描いたページでもある。

※中興誰旌首事功:建武の中興は、誰が第一等の手柄をあらわしたのか。(それは「一門猶懷貫日忠」である児島高徳一族であろう)。 ・中興:一旦衰えたことを再び盛んにする。ここでは、建武の中興(1333年)のこと。蛇足になるが、「建武中興」は、後漢の初代皇帝である光武帝の建武の中興の事業からきている。 ・誰:だれ。だれが一体。 ・旌:あらわす。表彰する。見分ける。ここは、動詞として使われている。 ・首事功:第一等の手柄。 ・首事:第一等の。 ・功:てがら。功績。

※一門猶懷貫日忠:児島高徳の一族は忠義は、白い虹が日をつらぬき、精誠が天に感応して現れてくるような忠義の心をいだいている。 ・一門:児島高徳の一族。 ・猶:なお。 ・懷:いだく。 ・貫日:太陽を貫く白い虹。素霓のこと。白い虹が日をつらぬくことで、精誠が天に感応して現れることや、兵乱の予兆を謂う。文天祥の『正気歌』「是氣所磅,凜烈萬古存。當其
貫日,生死安足論 」や西晉の張華の『「壯士篇』「天地相震蕩,回薄不知窮。人物稟常格,有始必有終。年時俯仰過,功名宜速崇。壯士懷憤激,安能守虚沖。乘我大宛馬,撫我繁弱弓。長劍橫九野,高冠拂玄穹。慷慨成素霓,嘯咤起淸風。」 本来は『戰國策・卷二十五』の「魏策四・秦王使人謂安陵君」に「唐且曰:『此庸夫之怒也,非士之怒也。夫專諸之刺王僚也,彗星襲月;聶政之刺韓傀也,白虹貫日;要離之刺慶忌也,蒼鷹撃於殿上。』」に出てきており、荊軻の義挙を詠うときに、この「貫日」が使われる。 曹丕の『黎陽作』の「白旄若素霓,丹旗發朱光。」から来ているする場合は、意気軒昂としているさまになる。

※金輿再南乾坤變:天皇の乗り物は再び南を目指し、天地は変わってしまった。 ・金輿:天皇のこし。帝の乗り物。 ・再南:再び南の方へ向く。「南」は、動詞。「再南」は、後醍醐天皇の動きで追うと、元弘の変=京⇒隠岐配流・
隠岐脱出⇒京都・建武中興の新政の開始⇒光明天皇即位・北朝成立・京都⇒吉野・崩御、という流れの中では赤字部分のことになる。  ・乾坤:天地。ここでは、世の中の意で使われている。 ・變:変化する。白居易の『長恨歌』「天旋地轉迴龍馭」に似たもの。

※五字櫻花千古恨:五字句が書かれた桜の花には、とこしえに尽きない恨みがこもっている。 ・五字:五字句。前出『白櫻十字詩』のこと。「天莫空勾踐,時非無范蠡」は五言詩であり、この「五字」は「五字句」「五言詩の意になろう。ただ、気になるのは、頼山陽の『日本樂府』にある『十字詩』には「君勾踐 臣范蠡,一樹花 
十字詩。」とあり、寺坂象雲齋は「削幹題櫻十字歌」、西郷隆盛は、「熱血灑成十字句」、野口寧齋は、「十字題詩代密疎」、榛葉竹庭「十字堪留萬世名」と、すべて「十字」なのだが……。まさか、「五字」は「十字」の誤、ということはあるまいが…。このような疑念を持っていたところ、読者の方から「この部分は誤植ではなく、『黄葉夕陽村舎詩集』で確認したたところ、「五」であって「十」ではない。」とのご指摘を賜りました(『黄葉夕陽村舎詩集』:菅茶山の詩集名)。『日本外史』の「白櫻樹書二句」の「二句」にこだわれば、「五字句が二句」、「五言句が二句」になる。十字問題については、頼山陽の『日本樂府』『十字詩』の影響が大。ふと、思ったのだが、現代人の作品では、頼山陽の『日本樂府』『十字詩』の影響が大であるとともに、大正三年に発表された文部省唱歌『兒島高德』「船(舟)坂山や杉坂と 御あと慕ひて 院の庄 微衷をいかで 聞えんと 櫻の幹に 十字の詩 『天 勾踐を空しうする莫れ  時 范螽 無きにしも非ず』」の影響も、或いはあるのではないか。悪く言うのではなく、戦前の文部省唱歌は、頼山陽の『日本樂府』そのものでもあったと謂える。 ・櫻花:第一義的には、児島高徳が「天莫空勾踐,時非無范蠡」と五字句を書いた院庄の桜の樹であり、次いで、後醍醐帝が吉野に逃れていき、魂魄となっても北闕を望み続けた、延元の恨みの籠もっている吉野山の桜。 ・千古:とこしえに。悼む時にも使う。 ・恨:うらみ。残念に思う。心に残りうらみの極めて深いこと。





◎ 構成について

換韻。韻式は「aaabbCCdd」。韻脚は「檄敵寂 憤忿 功忠 變恨」で、それぞれ平水韻入声十二錫(敵檄寂)、上声十二吻(憤忿)、上平一東(忠功)、去声十四願(恨)。次の平仄はこの作品のもの。「騎馬」の「騎」と「衛騎」の「騎」とは、平仄が異なる。前者は
で、後者はになる。「中興」の「興」は、になる。

○●●●●●●,(韻)
○○○○●○●。(韻)
●○○●●○●,
●●○●●○●。(韻)
●○●●●○○,(韻)
○○●●○●●。(韻)
○○○○●●○,(韻)
●○○○●●○。(韻)
○○●○○○●,(韻)
●●○○○●●。(韻)


平成16.3.18
      3.19
      3.20完
      3.21補
      4.16
平成25.4.11



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