阿部野
廣瀨旭莊
興亡千古泣英雄， 虎鬪龍爭夢已空。 欲問南朝忠義墓， 蕎花秋仆野田風。  平成十七年三月二十七日 北畠顕家卿之墓 |
******
阿部野
興亡 千古 英雄を 泣かしめ，
虎鬪 龍爭 夢 已（すで）に空（むな）し。
問（と）はんと欲（ほっ）す 南朝 忠義の墓，
蕎花（けうくゎ） 秋に仆（たふ）る 野田の風。
◎ 私感註釈 *****************
※広瀬旭荘：江戸後期の儒者。漢詩人。豊後国（大分県）の人。名は謙。字は吉甫。旭莊は号になる。廣瀨淡窓の弟。兄・淡窓の没後、代わって家塾の咸宜園を継ぐ。文化四年（１８０７年）～文久三年（１８６３年）。
※阿部野：南朝の忠臣北畠顕家が奮戦し、その墓所のある地名。現・大阪市阿倍野区王子町北畠公園の一角
『日本外史』安倍野 現在の阿倍野（平成１８．４．２８） を占め、墓所は、街中ではあるが、冬なお緑の楠の樹木に囲まれてある。「阿部野」の名称は、近畿日本鉄道の駅名「阿部野（橋）」として残っている。なお、「阿倍野」は現在の行政区劃名。『日本外史』では「安倍野」（右下写真）「逢賊兵逆撃顯家敗走。乃使兩親王赴行宮。自收敗兵。軍安倍野。」とする。『太平記』では「安部野」とする。『太平記』第十九卷「青野原軍事付嚢沙背水事」では「顯家卿の官軍共、疲れて而も小勢なれば、身命を棄て支戰ふといへども、軍無利して諸卒散々に成しかば、顯家卿立足もなく成給て、芳野へ參らんと志し、僅に二十餘騎にて、大敵の圍を出んと、自破利碎堅給ふといへども、其戰功徒にして、五月二十二日和泉の堺安部野にて討死し給ければ、相從ふ兵悉く腹切疵を被て、一人も不殘失にけり。」となっている。阿倍野は、安倍晴明を祀った神社が近くにあることと関係があるのか。この作品は、菅茶山の『宿生田』「千歳恩讐兩不存，風雲長爲弔忠魂。客窗一夜聽松籟，月暗楠公墓畔村。」
に、その趣を同じくしている。
※興亡千古泣英雄：興亡の歴史の中で、英雄に涙を流す（辛い思いを）させてきた（が）。 ・千古興亡：悠久の時の流れの中で、興っては亡び、興っては亡んでいった国や王朝の命運、歴史を謂う。唐・薛塋の『秋日湖上』「落日五湖遊，烟波處處愁。浮沈千古事，誰與問東流。」、両宋・辛棄疾の『南鄕子』「登京口北固亭有懷」に「何處望神州？滿眼風光北固樓。千古興亡多少事？悠悠。不盡長江滾滾流。」
英雄涙。」
※虎鬪龍爭夢已空：天下制覇の死闘も、すでに空（むな）しいものとなった。 ・虎鬪龍爭：〔ことうりゅうさう；hu3dou4long2zheng1●●○○〕〔S1V1S2V2〕構文で、激しい闘争のさまの形容。死闘を繰り広げる。竜虎相争う。≒龍爭虎鬪。 ・夢：ここでは､天下制覇のことになる｡ ・已空：とっくに無駄なこととなった。すでにむなしいものとなっている。
※欲問南朝忠義墓：吉野朝の忠臣北畠顕家の墓所をたずねようとするのだが。 ・欲問：訊ねようとする。尋ねたい。≒試問。 ・南朝：吉野朝。南北朝時代の南朝。 ・忠義墓：忠義者の墓。忠臣の墓所。ここでは､南朝の忠臣北畠顕家の墓所。墓は享保年間（１７２０年）に並川誠所によって建てられた。北畠顕家は南北朝時代の貴族、武将。文保二年（１３１８年）～延元三年（１３３８年）。陸奥守に任じられ、義良親王を奉じて、任地へ下向。 足利尊氏を追って上洛。後醍醐天皇の勅を奉じて転戦。高師直軍と和泉国石津浜で戦死。父は『神皇正統記』を著した北畠親房。
※蕎花秋仆野田風：蕎麦（そば）の花が、秋になって、田野（を吹き抜ける）風に仆（たお）されている（のが見えるだけである）。碧血は洗い流され、その痕はなくなり、原野となったが、『麥秀』
◎ 構成について
韻式は「ＡＡＡ」。韻脚は「雄空風」で、平水韻上平一東。次の平仄はこの作品のもの。
○○○●●○○，（韻）
●●○○●●○。（韻）
●●○○○●●，
○○○●●○○。（韻）
| 平成１７．３．１２完 ３．２７補 |
 次の詩へ前の詩へ『日本漢詩選』メニューへ************  詩詞概説唐詩格律 之一宋詞格律詞牌・詞譜詞韻唐詩格律 之一詩韻詩詞用語解説詩詞引用原文解説詩詞民族呼称集 花間集李煜詞婉約詞：香残詞李淸照詞陸游詩詞辛棄疾詞唐宋・碧血の詩編秋瑾詩詞毛澤東詩詞先秦漢魏六朝詩歌辭賦陶淵明集玉臺新詠唐宋抒情詩選竹枝詞陽光燦爛之歌天安門革命詩抄扶桑櫻花讚読者の作品碇豐長自作詩詞漢訳和歌 参考文献（詩詞格律）参考文献（宋詞）本ホームページの構成・他 |
わたしのおもい メール |
 トップ |
