江南春
	堀景山
多少人家煙水涯， 江天雲暖夕陽遲。 落花飛絮纔吹盡， 但見春風在酒旗。

******

江南の春

多少( た せう)の人家( じ んか)　　煙水(えんすゐ)の涯(はて)，
江天(かうてん)　雲(くも) 暖かにして　　夕陽(せきやう) 遲(おそ)し。
落花(らっくゎ)　飛絮( ひ じょ)　　纔(わづ)かに吹き盡(つ)くして，
但(た)だ見る　春風(しゅんぷう)の　　酒旗(しゅ き )に在(あ)るを。

　　　　　　　　*****************





◎　私感註釈

※堀景山：江戸中期の儒者・医者。元禄元年（１６８８年）〜宝暦七年（１７５７年）。名は正超。通称は禎助。字は彦昭・君燕など。景山は号。京都の人。父玄達のもとで朱子学・医学を修めた。広島藩浅野吉長に仕え、後進の指導に力を尽くした。

※江南春：江南の春。 *晩唐・杜牧の『江南春絶句』に「千里鶯啼�拷f紅，水村山郭酒旗風。南朝四百八十寺，多少樓臺煙雨中。」とあり、北宋・寇準の『江南春』に「杳杳煙波隔千里，白蘋香散東風起。日落汀洲一望時，柔情不斷如春水。」とあり、北宋・寇準の『江南春』（これは詞牌）に「波渺渺，柳依依。孤村芳草遠，斜日杏花飛。江南春盡離腸斷，蘋滿汀洲人未歸。」とある。　・江南：長江下流地帯の南岸部。風光明媚なところ。

※多少人家煙水涯：いくらかの人家が靄（もや）の立ち籠めた水面のはてに（あって）。　・多少：どれほど。いくら。どれくらい。いくらか。多い。少ない。 　・煙水：靄（もや）が立ち籠めた水面。広い水面が煙ったように波立っているさま。晩唐〜温庭筠の『渭上題三首之三』に「煙水何曾息世機，暫時相向亦依依。所嗟白首磻谿叟，一下漁舟更不歸。」とある。

※江天雲暖夕陽遅：川の上の空の雲は暖か（な様子）で、夕陽はゆっくりと（傾いている）（なかなか沈まないで、昼間が長くなった）。　・江天：川と空。天地の間全てを指す。初唐・張若虚の『春江花月夜』「春江潮水連海平，海上明月共潮生。灩灩隨波千萬里，何處春江無月明。江流宛轉遶芳甸，月照花林皆似霰。空裏流霜不覺飛，汀上白沙看不見。江天一色無纖塵，皎皎空中孤月輪。江畔何人初見月，江月何年初照人。人生代代無窮已，江月年年祗相似。不知江月待何人，但見長江送流水。白雲一片去悠悠，青楓浦上不勝愁。誰家今夜扁舟子，何處相思明月樓。可憐樓上月裴回，應照離人妝鏡臺。玉戸簾中卷不去，擣衣砧上拂還來。此時相望不相聞，願逐月華流照君。雁長飛光不度，魚龍潛躍水成文。昨夜�鞨K夢落花，可憐春半不還家。江水流春去欲盡，江潭落月復西斜。斜月沈沈藏海霧，碣石瀟湘無限路。不知乘月幾人歸，落月搖情滿江樹。」とあり、北宋・柳永の『八聲甘州』に「對瀟瀟暮雨灑江天，一番洗�C秋。漸霜風淒慘，關河冷落，殘照當樓。是處紅衰翠減，苒苒物華休。惟有長江水，無語東流。　　　不忍登高臨遠，望故�ｸ渺邈，歸思難收。歎年來蹤迹，何事苦淹留。想佳人、妝樓顒望，誤幾回、天際識歸舟。爭知我、倚闌干處，正恁凝愁。」とある。）　・遅：（進み方が）のろい。（ぐずぐずと）おそい。

※落花飛絮纔吹尽：（春の風物である）落花と雪のように舞う柳絮が、やっと飛び尽くして（視界に動く物は見えなくなったが）。　・飛絮：雪のように舞う柳絮のこと。「柳絮」：〔りうじょ；liu3xu4●●〕柳の綿毛。柳の実の綿毛。柳の花が咲いた後の風に舞う綿毛のある種子。春の風物の一。風に従って動くものの譬喩。流離（さすら）うもの。政治的な節操もなく情況に流されて揺れ動く者。南唐後主・李�Uの『望江梅』に「閑夢遠，南國正芳春。船上管絃江面淥，滿城飛絮輥輕塵。忙殺看花人。　　　閑夢遠，南國正�C秋。千里江山寒色暮，蘆花深處泊孤舟。笛在月明樓。」とあり、北宋・蘇軾の『和孔密州五絶　東欄梨花』に「梨花淡白柳深��，柳絮飛時花滿城。惆悵東欄一株雪，人生看得幾�C明。」とあり、北宋・司馬光の『居洛初夏作』に「四月�C和雨乍晴，南山當戸轉分明。更無柳絮因風起，惟有葵花向日傾。」と使う。朱淑眞の『蝶戀花』送春「樓外垂楊千萬縷，欲系青春，少住春還去。猶自風前飄柳絮，隨春且看歸何處。　　　�此ﾞ山川聞杜宇，便做無情，莫也愁人苦。把酒送春春不語，黄昏卻下瀟瀟雨。」とある。　・纔：やっと。ようやく。わずかに。

※但見春風在酒旗：ただ、春の風が酒屋（の看板）の旗に（吹いてはためいているの）だけが見えている。　・但見：ただ…だけが見える。前出・張若虚の『春江花月夜』に「春江潮水連海平，海上明月共潮生。灩灩隨波千萬里，何處春江無月明。江流宛轉遶芳甸，月照花林皆似霰。空裏流霜不覺飛，汀上白沙看不見。江天一色無纖塵，皎皎空中孤月輪。江畔何人初見月，江月何年初照人。人生代代無窮已，江月年年祗相似。不知江月待何人，但見長江送流水。白雲一片去悠悠，青楓浦上不勝愁。誰家今夜扁舟子，何處相思明月樓。可憐樓上月裴回，應照離人妝鏡臺。玉戸簾中卷不去，擣衣砧上拂還來。此時相望不相聞，願逐月華流照君。雁長飛光不度，魚龍潛躍水成文。昨夜�鞨K夢落花，可憐春半不還家。江水流春去欲盡，江潭落月復西斜。斜月沈沈藏海霧，碣石瀟湘無限路。不知乘月幾人歸，落月搖情滿江樹。」とある。　・在：…にある。　・酒旗：酒屋のかんばんとした旗。中唐・白居易の『楊柳枝』其四に「紅板江橋青酒旗，館娃宮暖日斜時。可憐雨歇東風定，萬樹千條各自垂。」とあり、晩唐・杜牧の『江南春絶句』に「千里鶯啼�拷f紅，水村山郭酒旗風。南朝四百八十寺，多少樓臺烟雨中。」とあり、 清・王士�モﾌ『眞州絶句六首之二』に「白沙江頭春日時，江花江草望參差。行人記得曾游地，長板橋南舊酒旗。」とある。

　　　　　　　　　　　　　　　***********






◎　構成について

韻式は、「ＡＡＡ」。韻脚は「涯遲旗」で、平水韻上平四支（遲旗）、上平九佳（涯）。この作品の平仄は、次の通り。

○●○○○●○，（韻）
○○○●●○○。（韻）
●○○●○○●，
●●○○●●○。（韻）

平成２８．３．１４

次の詩へ 前の詩へ 『日本漢詩選』メニューへ 　　　　************ 詩詞概説 唐詩格律　之一 宋詞格律 詞牌・詞譜 詞韻 唐詩格律　之一 詩韻 詩詞用語解説 詩詞引用原文解説 詩詞民族呼称集 花間集 李�U詞 婉約詞：香残詞 李�C照詞 陸游詩詞 辛棄疾詞 唐宋・碧血の詩編 秋瑾詩詞 毛澤東詩詞 先秦漢魏六朝詩歌辭賦 陶淵明集 玉臺新詠 唐宋抒情詩選 竹枝詞 陽光燦爛之歌 天安門革命詩抄 扶桑櫻花讚 読者の作品 碇豐長自作詩詞 漢訳和歌 参考文献（詩詞格律） 参考文献（宋詞） 本ホームページの構成・他

わたしのおもい

トップ