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題桃花源圖 | ||
友野霞舟 |
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桃溪風暖落花繁, 照地紅霞擁洞門。 耕稼猶諳秦歳月, 版圖未入漢乾坤。 數聲鷄犬知何處, 十畝桑麻別有邨。 一自漁郞停棹後, 長敎塵世説僊源。 |
桃溪 風 暖かくして 落花繁 く,
地を照らす紅霞 は 洞門を擁 す。
耕稼 猶 ほ諳 んず 秦の歳月,
版圖未 だ入 らず 漢の乾坤 。
數聲の鷄犬 何 の處かを知り,
十畝 の桑麻 別に邨 有り。
一たび 漁郞の棹 を停めてより後 ,
長 へに塵世 をして 僊源を説かしむ。
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◎ 私感註釈
※友野霞舟:江戸時代後期の詩人、儒者。寛政三年(1791年)~嘉永二年(1849年)。名は。字は子玉。通称は雄助。号して霞舟。
※題桃花源図:『桃の花の咲く源(みなもと)の世界の絵』について詩を作る。 ・題-:…を詩題にして詩を作る。 ・桃花源:晉・陶潛の『桃花源記』の画く世界(『桃の花の咲く源(みなもと)の世界についての記録』)のことで、俗世間を離れた平和な別天地のこと。晉・陶潛の『桃花源記』に「晉太元中,武陵人捕魚爲業,縁溪行,忘路之遠近,忽逢桃花林。夾岸數百歩,中無雜樹。芳草鮮美,落英繽紛。漁人甚異之,復前行,欲窮其林。林盡水源,便得一山。山有小口。髣髴若有光。便舎船從口入。初極狹,纔通人。復行數十歩,豁然開朗。土地平曠,屋舍儼然,有良田美池桑竹之屬。阡陌交通,鷄犬相聞。其中往來種作,男女衣著,悉如外人。黄髮垂髫,並怡然自樂。見漁人,乃大驚,問所從來。具答之,便要還家。設酒殺鷄作食。村中聞有此人,咸來問訊。自云:先世避秦時亂,率妻子邑人來此絶境,不復出焉。遂與外人間隔。問今是何世,乃不知有漢,無論魏晉。此人一一爲具言所聞,皆歎惋。餘人各復延至其家,皆出酒食。停數日,辭去。此中人語云:不足爲外人道也。既出,得其船,便扶向路,處處誌之。及郡下,詣太守,説如此。太守即遣人隨其往,尋向所誌,遂迷不復得路。南陽劉子驥,高尚士也。聞之欣然規往。未果,尋病終。後遂無問津者。」とある。同・陶淵明の『桃花源詩』には「嬴氏亂天紀,賢者避其世。黄綺之商山,伊人亦云逝。往跡浸復湮,來逕遂蕪廢。相命肆農耕,日入從所憩。桑竹垂餘蔭,菽稷隨時藝。春蠶收長絲,秋熟靡王税。荒路曖交通,鷄犬互鳴吠。俎豆猶古法,衣裳無新製。童孺縱行歌,斑白歡游詣。草榮識節和,木衰知風厲。雖無紀歴志,四時自成歳。怡然有餘樂,于何勞智慧。奇蹤隱五百,一朝敞神界。淳薄既異源,旋復還幽蔽。借問游方士,焉測塵囂外。願言躡輕風,高舉尋吾契。」
とある。 ・図:絵。
※桃溪風暖落花繁:桃の花が咲く谷(=桃源郷の入口)では、風が暖かで、花の散ることが盛んで。 ・桃溪:桃の花が咲く谷。桃源郷の入口。 ・繁:さかんである。いそがしい。しげし。
※照地紅霞擁洞門:赤い霞(かすみ)(のように見える)桃の花は、トンネル(の入口)を掩(おお)っている。 ・紅霞:赤い夕焼け。赤い霞(かすみ)。ここでは、桃の花を指す。 ・擁:〔よう;yong1●〕おおう。とりかこむ。まもる。また、いだく。だきかかえる。 ・洞門:トンネル。
※耕稼猶諳秦歳月:耕して、穀物を植え付けるのには、秦朝の暦をそらんじて行い。 ・耕稼:耕して、穀物を植え付ける。 ・猶:ちょうど…のようだ。なお…ごとし。 ・諳:そらんじる。諳(そら)んじている。 ・秦歳月:秦朝の暦。「暦をそらんじている」ということは、その「暦の国に服属している」ということ。つまり、そこはまだ、秦朝の統治が続いているということ。
※版図未入漢乾坤:戸籍と地図は、まだ漢朝の天地とは、なっていない。 ・版図:領地。領地の戸籍と地図。 ・版:戸籍。 ・図:地図。 ・漢乾坤:漢朝の天地。 ・乾坤:〔けんこん;qian2kun1○○〕天地。
※数声鷄犬知何処:幾声かだけ鳴いた鶏や犬は、どこだかを知っていようか。『桃花源詩』「桑竹垂餘蔭,菽稷隨時藝。春蠶收長絲,秋熟靡王税。荒路曖交通,鷄犬互鳴吠。」に拠る。 ・数声:幾声か。あまり大きい数は該当しない。 ・何処:どこ。いづこ。
※十畝桑麻別有邨:十畝:(じっぽ)(約60アール)ばかりの桑(くわ)と麻(あさ)の田園の外に、村がある。 ・十畝:10畝(ほ(10ぽ))。約60アール。「畝」:〔ほ;mu3●〕耕地の面積の単位。1畝(ぽ)は約1.82アール。なお「畝」を「せ」と読む場合は、日本の耕地の面積の単位の時。 ・桑麻:〔さうま;sang1ma2○○〕桑(くわ)と麻(あさ)。農業・養蚕業の対象となる植物(桑麻を植える所の意で、)田園。前出・陶潛の『歸園田居』五首其二「相見無雜言,但道桑麻長。桑麻日已長,我土日已廣。」とある。 ・別有:…とは別に…がある。別に…の…あり。 ・邨:〔そん;cun1○〕=村〔そん;cun1○〕。
※一自漁郎停棹後:ひとたび、漁師が棹(さお)を停(と)めてより後は。 ・一自-:ひとたび…(してより。(これ)より。(これ)から。=一從。=自從。尾藤二洲の『梅花』に「此花花中選,人能儔汝誰。一從孤山邊,風情獨自知。吾愛其淸高,而未能相隨。早晩解塵伴,就汝野水湄。」とあり、友野霞舟の『從軍行』に「一從辛苦戍天涯,有夢何由亦到家。今日更知鄕國遠,山城五月見桃花。」
とある。作者が「一自漁郎停棹後」として、「一從漁郎停棹後」としなかったのは、平仄の関係。「自」:●、「從」:○。 ・漁郎:漁師。前出・『桃花源記』
や『桃花源詩』
の主人公。 ・停棹:棹(さお)を停(と)める。
※長教塵世説僊源:とこしえに俗世間に向けて、仙境のことを伝えさせている。 ・長教-:ずっと…に…をさせる。とこしえに…をして…しむ。 ・塵世:俗世間。 ・説:とく。言う。 ・僊源:〔せんげん;xian1yuan2○○〕仙人の住むところ。≒仙源〔せん;xian1yuan2○○〕。
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◎ 構成について
韻式は、「AAAA」。韻脚は「繁門坤邨源」で、平水韻上平十三元。この作品の平仄は、次の通り。
○○○●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
○●○○○●●,
●○●●●○○。(韻)
●○○●○○●,
●●○○●●○。(韻)
●●○○○●●,
○○○●●○○・(韻)
令和3.9. 9 9.10 9.11 9.12 |
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