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梅花 |
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尾藤二洲 | ||
此花花中選, 人能儔汝誰。 一從孤山邊, 風情獨自知。 吾愛其淸高, 而未能相隨。 早晩解塵伴, 就汝野水湄。 |
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梅花
此の花 花中より選ばれ,
人 能く 汝を儔とするは 誰ぞ。
孤山の邊 一從,
風情 獨り自ら 知らる。
吾は愛す 其の淸高を,
而して 未だ相ひ隨ふこと 能はず。
早晩 塵伴を 解き,
汝に就かん 野水の湄に。
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◎ 私感註釈
※尾藤二洲:延享二年(1745年)?~文化十年(1813年)。江戸時代中期の朱子学派の儒学者。名は孝肇。字は志尹。通称は良佐。二洲は号。別号に約山。静寄軒。伊予川之江(現・愛媛県四国中央市川之江)の人。伊勢丘人先生の御教示に因れば、その妻は飯岡義斎の娘・梅月で、本サイトで屡々採りあげている頼山陽の叔母に該るとのことである。
※梅花:冬の厳しい環境の中にも負けることなく、一番に春を告げる花。林和靖が妻として愛した花。北宋・林逋(林和靖)の『山園小梅』に「衆芳搖落獨暄妍,占盡風情向小園。疎影橫斜水淸淺,暗香浮動月黄昏。霜禽欲下先偸眼,粉蝶如知合斷魂。幸有微吟可相狎,不須檀板共金尊。」とあることに基づく詩。梅を詠んだ詩には外にも多く、陸游の『卜算子』詠梅「驛外斷橋邊,寂寞開無主。已是黄昏獨自愁,更著風和雨。 無意苦爭春,一任羣芳妬。零落成泥碾作塵,只有香如故。」
や、汪精衞の『臨終詩』「梅花有素心,雪月同一色。照徹長夜中,遂令天下白。」
、毛沢東の『卜算子・詠梅』に「風雨送春歸,飛雪迎春到。已是懸崖百丈冰,犹有花枝
。
也不爭春,只把春來報。待到山花爛漫時,
在叢中笑。」
と詠われる。日本では德川齊昭の『弘道館賞梅花』「弘道館中千樹梅,淸香馥郁十分開。好文豈謂無威武,雪裡占春天下魁。」
がある。 *近年、川之江の尾藤二洲顕彰会が、中国の杭州市西湖にこの詩の碑を建立した。このホームページはそこ(西湖畔の石碑)より伊勢丘人先生が録したもの。
※此花花中選:この(梅の)花とは、(多くの春の)花の中から選ばれた(最も品格が備わったものである)。 ・此花:この花。ここでは、梅花を指す。 ・選:選ばれたもの。
※人能儔汝誰:人では、だれがあなた(=梅)をお連れとすることができるのか。 *「誰人能儔汝」(○○○○●)でいいのだが、これでは平仄上や押韻上で問題があり、「人能儔汝誰」(○○○●○(韻))と変えた。 ・能:よく。…ことができる。 ・儔:〔ちう;chou2○〕ともがら。仲間。つれだつ。ここでは動詞として使われる。 ・汝:なんじ。梅花を指す。 ・誰:(いったい)誰が。
※一從孤山邊:(杭州・西湖の林和靖のいる)孤山の辺りから。 ・一從:…より。…から。ひとたび…してより。後世、毛沢東は、『和郭沫若同志』「一從大地起風雷,便有精生白骨堆。僧是愚氓猶可訓,妖爲鬼 必成災。金猴奮起千鈞棒,玉宇澄萬里埃。今日歡呼孫大聖,只縁妖霧又重來。」とある。 ・孤山:杭州西湖西北部の中にある島の名。林逋(林和靖)が隠棲した地。林和靖は、梅を妻とし鶴を子とした(写真:上、中)。『宋史・列傳・隱逸』に「林逋字君復,杭州錢塘人。結廬西湖之孤山,二十年足不及城市。嘗自爲墓於其廬側(写真:下)。既卒,仁宗嗟悼,賜謚和靖先生」とある。
※風情獨自知:心ばせが自然と(伝わってきて)分かる。(梅をお伴とできる人物は、孤山の林和靖である)。 ・風情:人の様子。風采。心に抱いているおもむき。心ばせ。風月の美。前出・林和靖の『山園小梅』に「占盡風情向小園。」と使い、白居易の『題峽中石上』「巫女廟花紅似粉,昭君村柳翠於眉。誠知老去風情少,見此爭無一句詩。」
や、南唐の李煜は『柳枝詞』で「風情漸老見春羞,到處消魂感舊遊。多謝長條似相識,強垂煙穗拂人頭。」
と詠い、北宋・柳永の『雨霖鈴』に「寒蝉淒切,對長亭晩,驟雨初歇。都門帳飮無緒,留戀處,蘭舟催發。執手相看涙眼,竟無語凝噎。念去去千里煙波,暮靄沈沈楚天闊。 多情自古傷離別,更那堪、冷落清秋節。今宵酒醒何處?楊柳岸、曉風殘月。此去經年,應是良辰好景虚設。便縱有千種風情,更與何人説。」
とある。 ・獨自:自然と。 ・知:分かる。
※吾愛其淸高:わたしは、その清らかですぐれているところを、めでいつくしもう。 ・吾:わたし(は)。主格によく使われる。 ・愛:めでる。肉親が互いにかわいがり、いつくしみあう心。いつくしみ。いとおしみ。蛇足になるが、男女間恋愛感情を表すのは、明治以降の西洋文化・言語の影響か。 ・其:その。指示詞だが実質上、語調を整える働きをする。散文でよく使われる。 ・淸高:清らかですぐれている。高潔である。
※而未能相隨:しかしながら、(今はまだ)付き随っていくことはできない。 ・而:そうして。しかし。しこうして。しかして。順接、逆接の接続。散文でよく使われる。 ・未能:…することはできない。 ・相隨:従っていく。 ・相:…ていく。動作の及ぼす方向を表す。
※早晩解塵伴:やがては、この俗世の(夫婦の)縁も解ける(ときが来ようが)。 ・早晩:おそかれはやかれ。やがて。早いこととおそいこと。朝と夕。 ・解:とく。ほどく。 ・塵伴:俗世間のつれあい。林和靖は、梅を妻としたということに基づこうが、そうすると「塵伴」とは、作者・尾藤二洲の現在の妻?
※就汝野水湄:(その時には)田舎の池のほとりであなたに寄り添っていこう。 ・就:(寄り添って)つく。身を寄せる。 ・野水:田舎の川や池。 ・湄:〔び;mei2○〕ほとり。みぎわ。岸。水辺の地。
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◎ 構成について
韻式は「AAAA」。韻脚は「誰知隨湄」で、平水韻上平四支。次の平仄はこの作品のもの。律詩ではない。五言詩。五言古詩。
○○○○●,
○○○●○。(韻)
●◎○○○,
○○●●○。(韻)
○●○○○,
○●○○○。(韻)
●●●○●,
●●●●○。(韻)
平成19.12.10 12.11 12.12 |
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