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淮上喜會梁州故人 | |
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唐・韋應物 |
江漢曾爲客,
相逢毎醉還。
浮雲一別後,
流水十年間。
歡笑情如舊,
蕭疏鬢已斑。
何因不歸去,
淮上有秋山。
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淮上に 梁州の故人に喜び會ふ
江漢 に曾 て客と爲 り,
相 ひ逢ひて毎 に醉 ひて還 る。
浮雲 一別の後 ,
流水 十年間。
歡笑 情舊 の如く,
蕭疏 鬢已 に斑 なり。
何に因 りてか 歸去せざる,
淮 上に秋山 有り。
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◎ 私感註釈
※韋応物:中唐の詩人。737年(開元二十五年)~804年頃(貞元年間)。謝霊運、陶淵明の伝統を継ぐ自然派詩人。京兆万年(現・西安)の人。
※淮上喜会梁州故人:淮河(わいが)の畔(ほとり)で、梁州の旧友に(再会を)喜び会って(の詩)。 ・淮上:淮河(わいが)、淮水の畔(ほとり)。現・江蘇省の淮陰一帯。なお、淮河〔わいが;Huai2he○○〕は、華中を流れる河。黄河と長江の間にあって、長江、黄河に次ぎ、中国第三の大河。河南省南端の桐柏山に源を発し、安徽省を流れて、江蘇省の洪沢湖を経て大運河に注ぐ。後世、金と南宋との国境線(地図
)となった川。『中国歴史地図集』第六冊 宋・遼・金時期(中国地図出版社)52-53ページ「金 南京路」、54-55ページ「金 山東東路 山東西路」、62ページ「南宋 淮南東路 淮南西路」に明瞭に画かれている。(地図
) ・喜会:よろこび会う。 ・梁州:現・漢中市。陝西省南部250キロメートルの所、漢水の畔にある都市名。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)52-53ページ「唐 山南東道 山南西道」にある。また、陝西省南部・四川省一帯の古地名。なお、ここを「梁川」ともするが、梁川は不詳。現・陝西省の延安の北方や四川省の瀘州に梁川という地名があるが…。 ・故人:古くからの友人。昔の友達。旧友。故知。また、元の夫や妻。死んだ人。ここは、前者の意。作者・張謂の『同王徴君湘中有懷』に「八月洞庭秋,瀟湘水北流。還家萬里夢,爲客五更愁。不用開書帙,偏宜上酒樓。故人京洛滿,何日復同遊。」
とあり、盛唐・王維の『送元二使安西』に「渭城朝雨浥輕塵,客舍靑靑柳色新。勸君更盡一杯酒,西出陽關無故人。」
があり、盛唐・孟浩然の『過故人莊』「故人具鷄黍,邀我至田家。綠樹村邊合,青山郭外斜。開筵面場圃,把酒話桑麻。待到重陽日,還來就菊花。」
や盛唐・李白の『黄鶴樓送孟浩然之廣陵』に「故人西辭黄鶴樓,煙花三月下揚州。孤帆遠影碧空盡,惟見長江天際流。」
とあり、中唐・劉長卿の『贈崔九載華』に「憐君一見一悲歌,歳歳無如老去何。白屋漸看秋草沒,靑雲莫道故人多。」
とある。
※江漢曽為客:(わたしが)かつて、長江と漢水一帯に、滞在していた際に。 ・江漢:梁州中の地名。長江と漢水。江水。前漢・蘇武の『(蘇武與李陵)詩』其四に「燭燭晨明月,馥馥秋蘭芳。芳馨良夜發,隨風聞我堂。徴夫懷遠路,遊子戀故鄕。寒冬十二月,晨起踐嚴霜。俯觀江漢流,仰視浮雲翔。良友遠別離,各在天一方。山海隔中州,相去悠且長。嘉會難再遇,歡樂殊未央。願君崇令德,隨時愛景光。」とあり、盛唐・李白の『永王東巡歌』其一に「永王正月東出師,天子遙分龍虎旗。樓船一舉風波靜,江漢翻爲雁鶩池。」
とある。また、盛唐・劉長卿の『送李中丞之襄州』「流落征南將,曾驅十萬師。罷歸無舊業,老去戀明時。獨立三邊靜,輕生一劍知。茫茫江漢上,日暮欲何之。」
の意では、 漢水が長江に注ぎ込むところ。漢陽のことを指す。 ・曽:かつて…したことがある。 ・為:…となる。 ・客:旅人。
※相逢毎酔還:(その友人と)出逢えば、毎回(酒を飲んで)、酔っぱらって帰っていたものだった。 ・相逢:出逢う。(思いがけなく)逢う。でくわす。後世、両宋・陳與義に『和張矩臣水墨梅五絶』其三「粲粲江南萬玉妃,別來幾度見春歸。相逢京洛渾依舊,唯恨緇塵染素衣。」がある。 ・相-:「相」は、動作が対象に及んでくる時に使う。「…てくる」「…ていく」の意。また、「相互に」の意。白居易の『勸酒』「昨與美人對尊酒,朱顏如花腰似柳。今與美人傾一杯,秋風颯颯頭上來。年光似水向東去,兩鬢不禁白日催。東鄰起樓高百尺,
題照日光相射。」
、李白に『把酒問月』「靑天有月來幾時,我今停杯一問之。人攀明月不可得,月行卻與人相隨。皎如飛鏡臨丹闕,綠煙滅盡淸輝發。但見宵從海上來,寧知曉向雲閒沒。白兔搗藥秋復春,
娥孤棲與誰鄰。今人不見古時月,今月曾經照古人。古人今人若流水,共看明月皆如此。唯願當歌對酒時,月光長照金樽裏。」
や、陶潜の『飮酒二十首』其一「衰榮無定在,彼此更共之。邵生瓜田中,寧似東陵時。寒暑有代謝,人道毎如茲。達人解其會,逝將不復疑。忽與一觴酒,日夕歡相持。」
、陶淵明の『雜詩十二首』其七の「日月不肯遲,四時相催迫。寒風拂枯條,落葉掩長陌。弱質與運頽,玄鬢早已白。素標插人頭,前途漸就窄。家爲逆旅舍,我如當去客。去去欲何之,南山有舊宅。」
や張説の『蜀道後期』「客心爭日月,來往預期程。秋風不相待,先至洛陽城。」
、杜甫の『
州歌十絶句』其五に「
東
西一萬家,江北江南春冬花。背飛鶴子遺瓊蕊,相趁鳧雛入蒋牙。」
とある。李煜『柳枝詞』「風情漸老見春羞,到處消魂感舊遊。多謝長條似相識,強垂煙穗拂人頭。」
、范仲淹の『蘇幕遮』「碧雲天,黄葉地,秋色連波,波上寒煙翠。山映斜陽天接水,芳草無情,更在斜陽外。 黯鄕魂,追旅思,夜夜除非,好夢留人睡。明月樓高休獨倚,酒入愁腸,化作相思涙。」
、晩唐・韋莊の『浣溪沙』「夜夜相思更漏殘。」
など、下図のように一方の動作がもう一方の対象に及んでいく時に使われる。
もっとも、李白の『古風』「龍虎相啖食,兵戈逮狂秦」、「遠別離」の「九疑聯綿皆相似,重瞳孤墳竟何是。」や『長相思』「長相思,在長安」や王維の「入鳥不相亂,見獸皆相親。」などは、下図のような相互の働きがある。
A B
これらとは別に言葉のリズムを整える働きのために使うことも詩では重要な要素の一。 ・逢:出逢う。(思いがけなく)逢う。でくわす。 ・毎:いつも。…たびごとに。 ・還:(行った者がくるりと)かえる。
A B
※浮雲一別後:(安禄山の乱で)浮いて漂っている雲(のように流浪の)別れをして後。 ・浮雲:空に浮いて漂っている雲。空に浮く雲のように、遠く離れていて、何の関係もないこと。あてにならないこと。漂泊や別離を表す情景では、しばしば使われる語。前出・蘇武の『(蘇武與李陵)詩』其四に「燭燭晨明月,馥馥秋蘭芳。芳馨良夜發,隨風聞我堂。徴夫懷遠路,遊子戀故鄕。寒冬十二月,晨起踐嚴霜。俯觀江漢流,仰視浮雲翔。」とあり、『古詩十九首』之一『行行重行行』に「行行重行行,與君生別離。相去萬餘里,各在天一涯。道路阻且長,會面安可知。胡馬依北風,越鳥巣南枝。相去日已遠,衣帶日已緩。浮雲蔽白日,遊子不顧返。思君令人老,歳月忽已晩。棄捐勿復道,努力加餐飯。」
とある。 ・一別:ひとたび別れる。作者・韋応物は、安禄山の乱に遭って後、各地を流浪した。中唐・白居易の『長恨歌』に「風吹仙袂飄飄舉,猶似霓裳羽衣舞。玉容寂寞涙闌干,梨花一枝春帶雨。含情凝睇謝君王,一別音容兩渺茫。昭陽殿裡恩愛絶,蓬莱宮中日月長。回頭下望人寰處,不見長安見塵霧。唯將舊物表深情,鈿合金釵寄將去。釵留一股合一扇,釵擘黄金合分鈿。但敎心似金鈿堅,天上人間會相見。臨別殷勤重寄詞,詞中有誓兩心知。七月七日長生殿,夜半無人私語時。在天願作比翼鳥,在地願爲連理枝。天長地久有時盡,此恨綿綿無絶期。」
とある。
※流水十年間:流れる水(のように)、十年間(は過ぎてしまった)。 ・流水:流れる水。水の流れ。川の水の流れ去って再び帰らないことを謂い、歳月等の時間で一度去れば再び帰らないものを謂う。『論語・子罕』に「子在川上曰:『逝者如斯夫!不舍晝夜。』」。(子 川上に在りて曰く:逝く者は斯くの如きか! 昼夜を舎かず)とある。 ・十年間:。
※歓笑情如旧:うちとけて笑うありさまは、むかしのままである(が)。 ・歓笑:よろこび笑う。うちとけて笑う。 ・情:ありさま。おもむき。また、こころ。なさけ。思いやり。ここは、前者の意。 ・如旧:〔じょきう;ru2jiu4○●〕元のままである。むかしのまま。
※蕭疏鬢已斑:(容貌は年老いてしまって、髪の毛が)が落ちてさびしくまばらで、耳ぎわの髪の毛は、とっくに白髪(しらが)混じりのまだらとなっている。 ・蕭疏:〔せうそ;xiao1shu1○○〕木の葉などが落ちてさびしくまばら。 ・鬢:〔ひん(びん)〕耳ぎわの髪の毛。頭髪の左右側面の部分。びん。 ・已:とっくに。すでに。 ・斑:まだら。斑髪(しらが混じりの髪の毛)の意。
※何因不帰去:(わたしが)どうして故郷へ帰らないのか(ということ)のわけは。 ・何因:どうして。何が原因で。 ・不:意志の否定。ここは「北」ともする。 ・帰去:故郷へ帰る。
※淮上有秋山:(ここ、)淮河の畔には(素晴らしい)秋の山があるだろう。(それで、なかなか故郷へは帰ることが出来ないんだ)。 ・有:++ここは「對」ともする。 ・秋山:浮き世のこだわり、を謂うか。
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◎ 構成について
韻式は、「AAAA」。韻脚は「還間斑山」で、平水韻上平十五刪。この作品の平仄は、次の通り。
○●○○●,
○○●●○。(韻)
○○●●●,
○●●○○。(韻)
○●○○●,
○○●●○。(韻)
○○●○●,
○●●○○。(韻)
2013.6.23 6.24 6.25 |
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