るのだった(そう、町の中にいる限りは)。 そして、そんな暮らしにもう嫌気が差している一人の若者がいた。 その名は、「日下 颯樹(ひのした さき)」………彼女は、今日も何とはなしに町中をぶらぶらしていた。 「あーあ、何か面白いことないかなあ。」 そう。彼女は変化のない生活にもう飽き飽きしていたのだ。 「よう、ねーちゃん。この前は、よくもやってくれたな。」 いきなり目の前に現れるチンピラに因縁をつけられるのも、いつものこと。そして、この後の結果も、いつもと何ら 変わらない。 「何よ、あんた、まだ痛い目に会い足り無いの!?」 「へへへ……今度痛い目に会うのは、あんただぜ、ねーちゃん。今回は俺が勝つ!! あんたにやられっぱなしじゃあ、俺のメンツがたたねえんでな。」 このチンピラ、かなり体格はいい。背は、颯樹より頭二つ分は大きいし、 どこで鍛えたのか、立派な肉体を持っていた。 「女相手にむきになって、随分情けないわね。」 颯樹(さき)が心底あきれた様子でそう言うと、 「う、うるせえっ!!俺は、勝負に負けるのが大嫌いなんだ!!とにかく、俺と勝負しろっ!!」 颯樹(さき)は、うんざりした。この後の結果ももう分かり切っていたから。 「しょうがないわねえ、じゃあ、行くわよ。」 瞬間、颯樹(さき)はとても和服を着ているとは思えないような 素早さでチンピラの懐に飛び込んでいった。そして、極めて強力な攻撃を脇腹に叩き込む。 あまりに素早すぎてチンピラには防御する暇も無かった。 「グエッ!?」 チンピラは奇声を上げその場にあっさりと倒れ伏す。それっきりまるで動かなくなる。 さすがにやりすぎたかと思った颯樹(さき)が近寄っても、チンピラはピクリとも動かなかった。 「全く、手間がかかるわねえ。」 颯樹(さき)は神経を研ぎ澄ませていった。そして、「呪文」を唱える。そう、颯樹(さき)は魔法も使えるのだ。 「『天帝の慈悲よ、傷つきしものに御手を』(※2)!!!」 今の魔法には、人の怪我を癒す効果がある。チンピラのキズはあっという間に消えてなくなった。 「あいつ、いつもいつもなんで私に叩きのめされに来るのかしら。不思議よねえ。 私には分からないわ。ああいう人は。さ、早く帰らなくちゃ。」 颯樹の家は、お寺。いわゆる、「寺院」という奴だ。門限は厳しい。 チンピラとケンカしている間に何時の間にか外は暗くなっていた。ただでさえ、 彼女の父親………無論お寺の住職である………は、彼女がむやみやたらと表を ぶらぶらするのを好まない。典型的な過保護な親という奴である。 しかし、そういう家に生まれた子供に限って、どういう訳か自由奔放な遊び人タイプ だったりすることは少なからずある。颯樹(さき)もその例に漏れることはなかった。門 限はとっくに過ぎている。だが、いつものことなので彼女は気にしたことはない。 父親の小言も、いつもの儀式のようなものだ、とすら思っている。 しかし、今日は様子が違った。 「無い!!無い!!無いいいいっ!!」 父親の悲鳴が聞こえてくる。父が何かものを無くすのはいつものことなので、 当然颯樹(さき)はまだこの時気付かなかった。この瞬間に、みずからの運命の歯車が大きく狂い出したのを。 |
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