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  この寺の主人である日下重樹(ひのした しげき)は悩んでいた。

  確かに危険極まる宝物が流出してしまった事も、彼の心に暗い影を落としていたが、

正直なところ、娘の颯樹(さき)が突然旅に出るなどと言い出した事に若干の動揺を覚えているのだ。

  重樹(しげき)自身も、若いころは世界中を旅して回った事があったが、

やはり自分の愛しい娘がそんな危険な旅に出るなどというのは親としては認めがたいものがある。

  確かに、誰かがあの呪われた剣の封印(それが出来なかった時は破壊するしかないのだが

……こっちの方が遥かに難しいと思われる)は誰かがやらなければいけない。

あの剣は、本来この世に存在していけない、とか、

悪魔のための武器だとか言われているいわくつきの品物だ。

  最も、さすがに「悪魔のための武器」とかいうのは大げさ過ぎるような気もするが……、

何せ実物を見た人間の数があまりにも少なく(実物を見た人間はことごとく死んでいるので)、

その比類なき破壊力のみが噂や伝説となって伝えられているのみという魔剣なのだから、

多少話が誇張されて伝わるのも仕方がないだろう。

  だが、話が誇張されているという事は、思わず誇張したくなるほどの事実があったということだ。

そして、実物を見た人間の少なさは、その剣の恐ろしさを如実に物語っていた。

  そんな危ないものを、かわいい娘に追わせて、ひょっとしたら娘が命を落としてしまうのではないか、

という悪夢にも似た妄想に重樹(しげき)はとらわれかけていたのだ。

「……我が召喚に応えよ、我が下僕にして世界の規律を守るもの達よ!!」

「相変わらず召喚の言葉が古めかしいな。」

「そうそう、重樹(しげき)ってば、あたし達よりも長生きしてるみたいな言葉づかいだからねー。」

  どこからともなく、女達の声が聞こえてきた。

  その瞬間、重樹(しげき)の目の前に、まるで風景からにじみ出るように3人の女が姿を現した。

3人とも、日紫の一般的な服装からは程遠い異国風(具体的に、どの国かは分からないが)の

不思議なデザインの服をそれぞれ身にまとっている。

「して、我が主たる資格を持つものよ、一体何の用事だ??まさか、世間話がしたいなどというのでは

あるまい?」

「サラマンダー、お前何か私の事を勘違いしていないか!?」

  この3人、確かに見た目はただの人間の美人だが、この世界を構成する4つの元素

「火」、「水」(ここにはいないが)、「風」、「土」の力をそれぞれ司る、神とも思われているほどの力の

持ち主達……世間では「精霊」と呼ばれている者達……なのだ。

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