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「何事も焦りは禁物だ。まずは腰を落ち着けてから行動するのが、生き残るコツだ。」

「……って、腰を落ち着けてる場合じゃないんじゃないの……?」

「颯樹(さき)はそう言うが、そもそも、もう城門が閉まっている時間じゃないのか?」

  颯樹(さき)は無論一般人であった。一般人が町の外を出歩くような事は殆ど皆無といって

よかったので、これまで颯樹(さき)が「城門」の存在を気にせず生きてきたのも当然の事だった。

「城門って、夜閉まってるの??」

「当たり前だろう。何のために城門があると思っているんだ。」

  ちなみに、ここで言う『城門』とは、城や領主の館の入り口についているものではない。

街の外と中を隔てる城門だ。基本的にこの門は夜間は閉じられ、開くことはない。

  もちろん魔物達の侵入を阻むためである。

  夜は魔物達の時間だ。そんな時間に街の外にいるのは、よほど大事な用事を持った者か、

ただの愚か者か、それとも、旅のエキスパートたる冒険者ぐらいのものだった。

  もちろん、颯樹(さき)はたった今までは今挙げた3つのどれにも当てはまらなかったので、

城門のことなど気にせずに生きてきたのだ。人間とは不思議なもので、

在っても無くても意味の無いもののことは、まるで見えないかのように無視できるものだ。

「そう言えばそうだったわね。表には恐ろしい魔物達がうろついてるんだったわ。」

  何とも間抜けな話だが、一般人は街の外には危険な魔物達が存在する、ということをしばしば忘れがちだ。特

に、長く平和が続いた街の住人は。

  ……ここ「東方都市」は、ここの所長い平和の期間にあった。

  その平和にかげりが見え始めていることを一部の人間だけは知っていたのだが。

「とにかく、今夜はゆっくりしていきなさい。」
 
 
 

  颯樹(さき)は、なんだか眠れなかった。まあ、明日からとてつもなくハードな日々が

始まるというのに緊張もせずにぐっすり眠れる人はそういないだろうが。

  颯樹(さき)は、眠れないので布団(もちろんベッドではない)を抜け出した。

「さて、と。」

  彼女の家は、さっきも言ったように、寺である。寺と言っても、うらびれた寺ではなく、

「日紫国」公認の冒険者達もよく利用するしっかりとした寺院(※3)なので、

本堂の中はかなり広い。颯樹(さき)は、本堂の中でよく剣の練習をしていた。

……最も、親には禁止されていたが。

  颯樹(さき)は自分の部屋を出て、本堂に向かって歩き出した。その手には鉄の剣が握られている。

  鉄の剣と言っても、刃はなく人を斬ることはできない。

  練習用に鍛えられた剣だ。

  颯樹(さき)は、その鉄の剣を見ながら昔の頃のことを思い起こしていた。

「(師匠……。)」

  颯樹(さき)は、子供の頃から自分で削った木刀をいつも振り回していた

……そのせいでろくな友達ができなかった、という苦い思い出もあるが……

何が彼女に剣への思いを掻き立てたのかは、全く本人にも分からないのだが、

とにかく彼女は剣の修行を欠かしたことはなかった(我流だが)。

  そんな彼女には、近所の子供……どころか、大人さえも勝てなかった。

  そんなこんなで気がつくと、颯樹(さき)は「手のつけられない暴れん坊」という

不本意なレッテルを貼られていた。

  そんな颯樹(さき)を見かねた重樹(しげき)は(この頃は現役の冒険者だった)、

彼の仲間の冒険者に、颯樹への教育を頼んだ。その「仲間の冒険者」というのが、

颯樹(さき)の剣の師であり、人生の師であったのだが、その男に木刀ではなく鉄の剣を使って

修行するように指南されて以来、颯樹(さき)は鉄の剣を使って修行するようになった。

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