「いいじゃない。ちゃんと『精霊使い』になれたんだから。お説教はいやよ。」
「颯樹(さき)、お前は確かに強い。精霊達の信頼を勝ち得たお前の力、認めなければなるまい。 だが、この世にはお前など簡単に倒せるほどの使い手が無数に存在するのだぞ。 その事を忘れ、奢り高ぶっていると後で悔やんでも悔やみきれない目に遭うことになるぞ。 私は、冒険者生活をしていた時、そういった輩を数え切れないほど見てきたのだからな。」 「あー、はいはい。どうせ私はまだまだ未熟者ですよーだ。ふん!」 颯樹(さき)は、ポーズだけは確かにいつもと変わらぬ口答えをしてみせたが、 内心では重樹(しげき)の言葉の正しさを身にしみて感じていた。恐らくサラマンダーや シルフィードが本気を出していたら、自分は今ごろとっくに命を落としていただろう。 ノームの力だけはいまだによく分からないのだが……。 「お前がこれから立ち向う事になるはずの敵は私達の想像を遥かに超えて強力なはずだ。 彼女たちの助けがあったとしても、命を落とす事になるかもしれん。 命を粗末にしたくないのなら、常に己を磨く事を忘れずにな。」 重樹(しげき)のいかにも父親らしい説教を耳にし、シルフィードがぼそっと呟く。 「(……全く、心配なら心配だって素直に言えばいいのに。何で人間ってこう 素直じゃないのかしら。あたしにはよく分からないわ。)」 「颯樹(さき)、今のお前ならかつて私の使っていた武具も使いこなせるはずだ。 私の使っていた武具はそんじょそこらの武具屋で売っているものとはモノが違うぞ。」 「うそつき!前に見せてもらった時はあの剣錆びてぼろぼろだったじゃない!」 颯樹(さき)は、たった一度だけかつて重樹(しげき)が使っていたという剣のうちの一本を 見せてもらった事がある。かつては「草薙の剣」と呼ばれた名刀だったらしいのだが、 颯樹(さき)が見た時にはその剣は刀身全体が既に錆に覆われ、とても役に立つような シロモノではなかったように見えた。 「えっ!?あ、そうだったっけ?」 「すっとぼけないでよ!!そんなんだからモウロク坊主なんて言われるのよ!!」 「誰がそんなこと言ったんだ……。」 「主に私よ!!」 「お前が言ってるんじゃないかあああああ!!この親不孝者がああああ!!」 「(だって、本当の事だもんねぇ……。)」 「(かも……。)」 シルフィードとノームがこそこそ影で勝手な事をしゃべっているが、 頭に血が上った重樹(しげき)にはそんな言葉は聞こえない。 「いくら本当のことだからっていっても、言っていいことと悪いことがあるだろうが。」 重樹(しげき)は自分の形勢不利と見るやすぐに語調を弱めてしまった。重樹(しげき)は、 亡夫人にも一度も口喧嘩で勝ったことはなかった。そして、颯樹(さき)は、その容姿だけでなく 性格もその亡夫人にとてもよく似ていたのだ。 (18) |
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