「しかも?」
「あの剣は、殺したものの生き血を奪うばかりでなく、使うものを操ってより多くの生き血を得ようとする。 あの剣の刀身を見た者は、あの剣の呪いの虜となってしまい、みずからが望もうと望むまいと、 殺人鬼になるしかないのだ。」 「その呪いからは逃れられないの?」 「おそらく、人間の器でその呪いから逃れるのは不可能だろう。神か、 神に匹敵するほどの強靭な精神力がない限り…………。」 「ふうん。」 颯樹にしてみれば、あまりにも突拍子もない話だったので、 完全には理解できなかったのだろう。無理もないことだ。 「神」などという存在は遥か遠くのものだと思っていたから。 「その剣を造った人、何でそんな危なっかしい剣を造っちゃったんだろう……?」 「それは私には分からない。しかし、あの剣を造った人間が、何を考えていたか分からなくても、 我々のしなければならないことは分かっている。あの呪われた剣を封印し、 二度と人目に触れないようにすることだ。」 「で、前は、封印したのはいいんだけど、鼠にかじられて封印が解けたの?」 「うむ、まあ、そういうことだ。って、颯樹(さき)、目が恐いんだが、いったい今度は何をするつもりだ………?」 「なにがいい?」 「うーん………。って聞くなよ、おい!!」 「まあ、そうよね。というわけで、このドアホがああああぁぁぁぁっ!!」 再び実の娘に思いっきり蹴り飛ばされ(しかも顔面にもろに当たった)、 三途の川に行きかける父重樹(しげき)。 「そんな危なっかしいものなら、なおさらしっかり封印しとかなきゃ駄目じゃないの!!」 「ま、まあ、お前の言うことにも一理あるんだが……実の親を全力で蹴り飛ばすような子に 育てた覚えはないぞ…………。」 顔を濡らしているのが、目から流れる涙なのか、それともいたるところから 流れ出している血なのか既に分からない状態になりながらも、 とりあえず重樹(しげき)は何とか立ち上がりながら続けた。 「と、とにかく、あの剣をなんとしてももういちど見つけ出し、再び封印を施さねばならない。 という訳で、私はしばらくこの寺を空けなければならん。 その間、この寺のことはお前に任せようかと思っている。」 颯樹(さき)は、父重樹(しげき)から、僧侶としての訓練を受けていたのだ。 |
ページ選択
「1」「2」「3」「4」「5」「6」「7」「8」「9」「10」
「11」「12」「13」「14」「15」「16」「17」「18」「19」「20」「21」「22」