憲法U 統治機構論 |
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講義要項 |
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年間講義計画 |
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1 憲法学体系における統治機構論の意義
わが国現行憲法の基本原理として、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の三つがいわれることがある。統治機構論は、それを基準にすれば、まるで憲法の重要な領域ではないかのように思える。しかし、誤解しないで欲しい。統治機構論こそが憲法の中核概念なのである。例えば、世界最初の憲法である米国憲法やフランス憲法には、主権論や基本的人権に関する規定はない。あるのは、統治機構に関する規定だけなのである。すなわち、憲法とは統治機構に関する基本的規範というのが、オーソドックスな定義になる。冒頭に述べた現行憲法の三大原理とは、まさにこのようなオーソドックスな憲法に対する現行憲法の特徴を述べたものなのである。
実際、現行憲法において、三大原理について述べている規定は、少数派である。憲法前文を度外視すれば、国民主権を明確に宣言している規定は第1条のみであるし、平和主義を宣言しているのは第9条のみである。そして、基本的人権にしても、第11条から40条までの30条に過ぎない。残りの規定はすべて統治機構論に属するものである。さらにいえば、第1条や第9条も統治機構論の一環として理解される。現実の憲法を理解していくにあたって、統治機構論の持つ重要性は、この現行憲法における圧倒的な比重一つを見てもきわめて明白であろう。
2 統治機構論を学ぶ際の難しさ
統治機構論を正確に理解するには、その名の通り、わが国統治機構がいかなる形態をとっているかを理解する必要がある。ところが、現実の統治機構は、憲法そのものというよりも、その憲法を一段と具体化した法律以下の法規範によって構成されている。例えば、国会に関する憲法41条以下の規定を理解するには、単に憲法の文言だけを見るだけでは不十分で、さらに国会法や衆参両院の議院規則を知っている必要がある。あるいは、国会議員の選挙に関する規定を理解するには公職選挙法の知識が不可欠である。内閣の場合にも同じことで、憲法65条以下の規定だけを覚えても役には立たず、最低限にみても内閣法、内閣府設置法、国家行政組織法、国家公務員法等は把握していないと、それを真に理解することはできない。以下同様に、司法府の活動に関しては裁判所法や民事訴訟法に代表される訴訟法、財政に関しては、財政法や会計法、地方自治に関しては地方自治法や地方財政法等の理解が必須のものとなるのである。
要するに、統治機構論を学ぶということは、ただちに行政組織法を学ぶということを理解しなければ、いかに努力しようとも、真の理解には到達しないことになるのである。 特に、平成18年度から実施が予定されている新司法試験においては、憲法と行政法の融合した「公法」という形で出題されるから、こうした関連諸法規の学習は、いよいよ重要なものとなるということができる。
3 履修上の留意点
教科書は使用しない。参考書として次の書を推薦する。
芦部信喜『憲法』第3版(高橋和之補訂・岩波書店)、
佐藤幸治『憲法』第3版(青林書院)、
伊藤正己『憲法』第3版(弘文堂)、
辻村みよ子『憲法』新版(日本評論社)、
浦部法穂『全訂憲法学教室』(日本評論社)
長谷部恭男『憲法』第3版(新世社)
松井茂記『日本国憲法』第2版(有斐閣)
いずれか(できるだけ多く)の本を、受講者が事前に十分に読み込んでいることを期待する。
甲斐素直『憲法ゼミナール』(信山社)
は、諸君が国家試験で短答式や論文式の勉強をするにあたっての最善の参考書であり、是非購入して欲しい。
毎回、レジュメを配付し、それに基づいて講義する。
できるだけ具体的に憲法を理解して貰うため、講義中随時関係法律の条文や事件を紹介するので、六法及び判例集を必ず持参すること。一応次のものを指定する。
『別冊ジュリスト=憲法判例百選』T&U 有斐閣
しかし、自分の任意のものを持ってきてよい。指定したものは、講義中に頁を紹介するという意味に過ぎない。特に、六法の場合、ある程度六法になれてきたら、是非判例付き立法を買って、日頃それになれることが、国家試験を目指す場合には必要である。
(これらの本の内容については「国家試験に直結する本の読み方」参照)
双方向型の講義を目標とし、諸君からの質問や論文の提出も可能な限り、メイルを通じて行いたい。したがって、インターネットにつながるパソコンを持っていてほしい。
4 評価方法
評価は原則として期末試験による。試験は、現実の国家試験に準じ、短答式と論文式を組み合わせたものとする。このほか、ウィークリー・クイズの結果を若干加味する。