鵲橋仙
            

            
        宋 陸游


一竿風月,
一蓑煙雨,
家在釣臺西住。
賣魚生怕近城門,
況肯到、紅塵深處。


潮生理櫂,
潮平繋纜,
潮落浩歌歸去。
時人錯把比嚴光,
我自是、無名漁父。



    **********************

            鵲橋仙
          


一竿の 風月,
一蓑の 煙雨,
家は 釣臺の西に 在って 住む。
魚を 賣るに  城門に近くを 生怕
(おそ)る,
(いは)んや 肯て、 紅塵の深き處に 到るをや。


潮 生ずれば  櫂
(かい)を理(ととの)へ,
潮 平けくなれば  纜
(ともづな)を繋ぐ,
潮 落つれば  浩歌して 歸去す。
時の人  錯ちて 把
(も)って 嚴光と 比さんも,
我 自らは 是れ、 無名の 漁父なり。

             ******************

◎ 私感訳註:

※淸商怨:詞牌の一。詳しくは「構成について」を参照。

※一竿風月:(漁父が)人里離れた自然の中で、独り釣り竿を垂れている。 ・一竿:釣り竿一本。漁父の持ち物。南唐後主・李煜の『漁父』「一櫂春風一葉舟,一綸繭縷一輕鉤。花滿渚,酒滿甌,萬頃波中得自由。」 を想起させる。 ・風月:清風と明月。自然界の景色。風流を楽しむこと。

※一蓑煙雨:簑で煙雨を防ぎながら。 ・一蓑:ミノ一つ。漁父の出で立ち。北宋・黄庭堅の『絶句』に「半篙春水
一蓑煙,抱月懷中枕斗眠。説與時人休問我,英雄囘首卽神仙。」とある。 ・蓑:=簑(俗字。竹の小枝で作ったもの)。 ・煙雨:煙るように降る雨。霧雨(きりさめ)。「一竿風月,一簑煙雨」で、漁父が人里離れた自然の中で、簑で煙雨を防ぎながら、独り釣り竿を垂れているという、俗塵を超越した絵画的な世界を描く。漁父は、隠遁している陸游自身の仮託した姿でもあろう。柳宗元『江雪』「千山鳥飛絶,萬徑人蹤滅。孤舟簑笠翁,獨釣寒江雪。」の世界である。唐・韓偓の『夜深』に「惻惻輕寒翦翦風,小梅飄雪杏花紅。夜深斜搭鞦韆索,樓閣朦朧煙雨。」とある。

※家在釣臺西住:すみかは厳子陵釣台の西側にある。

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・家在:すみかは…に(ある)。 ・釣臺:(現在は)地名。浙江省の錢塘江上流の富春江岸、桐廬の南20キロメートルのところにある。現在、「富春江風景区」として開発され、沿岸の鸛山、天子網、桐君山、厳子陵釣台(東台)…とある、その厳子陵釣台を指す。「厳子陵が釣りをした岩頭」の意で、厳子陵とは後出の隠者・嚴光のこと。『中国歴史地図集』第六冊 宋・遼・金時期(中国地図出版社)59-60ページ「南宋 両浙西路 両浙東路 江南東路」に釣台とすぐ西隣に厳陵山(山)がある。 ・西住:…の西に住んでいる。ここは「…在…住」の形で、「…は…に 住んでいる」。

※賣魚生怕近城門:魚を売ることは、町の入り口の門の近くでさえもおそれいるのに。 ・生怕:〔白話〕ひたすら怖がる。大変恐れる。 ・近城門:町の入り口の門。

※況肯到、紅塵深處:ましてや町中の俗塵のまっただ中にはどうして行けようか。 ・況:ましてや。いわんや。 ・肯:あえて。すすんで。 ・紅塵:繁華な市街地。また、市街地に立つ土ぼこり。また、空が赤茶けて見えるほどの土ぼこり。また、浮き世の塵。俗塵。中唐・劉禹錫は『元和十一年自朗州召至京戲贈看花諸君子』で「紫陌紅塵拂面來,無人不道看花回。玄都觀裏桃千樹,盡是劉郎去後栽。」とあり、晩唐・杜牧の『過華清宮絶句』に「長安回望繍成堆,山頂千門次第開。一騎紅塵妃子笑,無人知是茘枝來。」とし、南宋・陸游は『鵲橋仙』で「一竿風月,一蓑煙雨,家在釣臺西住。賣魚生怕近城門,況肯到、紅塵深處。   潮生理櫂,潮平繋纜,潮落浩歌歸去。時人錯把比嚴光,我自是、無名漁父。」とする。なお「黄塵」は、王昌齡の『塞下曲』「飮馬渡秋水,水寒風似刀。平沙日未沒,黯黯見臨洮。昔日長城戰,咸言意氣高。黄塵足今古,白骨亂蓬蒿。」や高適の『別董大』「十里黄雲白日曛,北風吹雁雪紛紛。莫愁前路無知己,天下誰人不識君。」や「黄埃散漫風蕭索」等と、荒野で黄砂が舞い上がるさまになり、言葉の雰囲気が大きく異なる。 ・内:うち。「外」の対。ある仕切りがあってその内側。後出・「裏」と通じる。 ・深處:深い場所。「賣魚生怕近城門,況肯到、紅塵深處」:魚を売ることは、町の入り口の門の近くでさえもおそれいるのに、ましてや町中の俗塵のまっただ中にはどうして行けようか。

※潮生理櫂:潮が満ちてくれば、カイで舟をこぎ。 ・潮生:潮が満ちてくる。 ・理櫂:カイで舟をこぐ。カヂを操作する。唐・張志和の『浣溪沙』「釣臺漁父褐爲裘,兩兩三三舟。能縱棹,慣乘流,長江白浪不曾憂。」 を聯想させる。

※潮平繋纜:満潮になれば、ともづなを繋ぐ。 ・潮平:満潮になる。 ・繋纜:ともづなを繋ぐ。舟を繋留する。

※潮落浩歌歸去:潮が引けば、高らかに唱いながら帰っていく。 ・潮落:干潮になる。潮が引く。 ・浩歌:大声で歌う。浩唱。『楚辞』の『漁父』で「屈原既放,游於江潭,行吟澤畔,顏色憔悴,形容枯槁。漁父見而問之曰:「子非三閭大夫與?何故至於斯?」屈原曰:「舉世皆濁我獨淸,衆人皆醉我獨醒,是以見放。…漁父莞爾而笑,鼓枻而去。」での漁父が歌った「滄浪之水淸兮,可以濯我纓,滄浪之水濁兮,可以濯我足。」を想起させようとしている。 ・歸去:帰っていく。

※時人錯把比嚴光:当代の人はあやまって、厳光に比しているが。 ・時人:その当時の人。時代の人。当代の人。 ・錯:あやまって。間違って。 ・把〔白話〕…を。…をもって。 ・比:くらべる。 ・嚴光:前出・後漢の厳子陵のこと。子陵は字。嚴光は、嘗て即位前の光武帝と共に学び、共に過ごしたことがあったが、光武帝に即位後は、身を隠して、どうしても出てこなかった。『後漢書・巻八十三・逸民列伝・嚴光』に「嚴光字子陵,一名遵,會稽餘姚人也。少有高名,與光武同遊學。及光武即位,乃變名姓,隱身不見。帝思其賢,乃令以物色訪之。」とある。陸游は作品の文字面では厳光と比してはいないと云っているが、勿論大いに意識しているのでここで使っている。

※我自是、無名漁父:私自身は、無名の漁師である。 ・我自:私自身。 ・是:…は…である。これ。主語と述語の間にあって述語の前に附き、述語を明示する働きがある。〔A是B:AはBである〕。 ・無名漁父:名もなき漁師。





◎ 構成について

      双調。五十六字。 仄韻一韻到底。 過片だけがわずかに異なる。韻式は「aa aa」。韻脚は「住處去父」で、第四部六御

    ●,
    ●,
    ●。(韻)
    ●●○○,
    ●、●。(韻)
    

    ●,
    ●,
    ●。(韻)
    ●●○○,
    ●、●。(韻)
    
2002. 7.20
      7.21
      7.22完
2004. 6.19補
2005.11.23
2011. 2.20
2016.11.10

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