述懷 | ||
雲井龍雄 |
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慷慨如山見死輕, 男兒生世貴成名。 時平空瘞英雄骨, 匣裡寶刀鳴有聲。 |
慷慨 山の如く 死を見るは輕 し,
男兒 世に生れて 名を成すを貴 ぶ。
時 平 らかにして 空しく瘞 む 英雄の骨,
匣裡 の寶刀 鳴って聲 あり。
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◎ 私感註釈
※雲井龍雄:弘化元年(1844年)〜明治三年(1870年)。米沢藩士。本名は小島守善。通称は龍三郎。雲井龍雄は変名。薩摩藩の専横を不満として、新政府の転覆を計劃するが、逮捕されて処刑された。
※述懐:心に思うことをのべる。初唐・魏徴に『述懷』「中原初逐鹿投筆事戎軒。縱計不就,慷慨志猶存。杖策謁天子,驅馬出關門。請纓繋南越,憑軾下東藩。鬱紆陟高岫,出沒望平原。古木鳴寒鳥,空山啼夜猿。既傷千里目,還驚九折魂。豈不憚艱險,深懷國士恩。季布無二諾,侯嬴重一言。人生感意氣,功名誰復論。」がある。
※慷慨如山見死軽:意気は軒昂として、山のように大きく、死というものに向かう態度は(死を)軽く視(み)ており。 ・慷慨:〔かうがい;kang1kai3◎●〕意気が昂ぶって盛んなさま。憤(いきどお)り嘆く。悲しみ嘆く。魏〜西晋・張華の『壯士篇』に「天地相震蕩,回薄不知窮。人物稟常格,有始必有終。年時俯仰過,功名宜速崇。壯士懷憤激,安能守虚沖。乘我大宛馬,撫我繁弱弓。長劍九野,高冠拂玄穹。慷慨成素霓,嘯咤起C風。震響駭八荒,奮威曜四戎。濯鱗滄海畔,馳騁大漠中。獨歩聖明世,四海稱英雄。」とあり、東晉・陶潛の『詠荊軻』に 「燕丹善養士,志在報強嬴。招集百夫良,歳暮得荊卿。君子死知己,提劒出燕京。素驥鳴廣陌,慷慨送我行。雄髮指危冠,猛氣衝長纓。飮餞易水上,四座列群英。漸離撃悲筑,宋意唱高聲。蕭蕭哀風逝,淡淡寒波生。商音更流涕,酎t壯士驚。心知去不歸,且有後世名。登車何時顧,飛蓋入秦庭。凌脂z萬里,逶迤過千城。圖窮事自至,豪主正怔營。惜哉劒術疏,奇功遂不成。其人雖已歿,千載有餘情。」とあり、唐・魏徴の『述懷』に「中原初逐鹿,投筆事戎軒。縱計不就,慷慨志猶存。杖策謁天子,驅馬出關門。請纓繋南越,憑軾下東藩。鬱紆陟高岫,出沒望平原。古木鳴寒鳥,空山啼夜猿。既傷千里目,還驚九折魂。豈不憚艱險,深懷國士恩。季布無二諾,侯嬴重一言。人生感意氣,功名誰復論。」とあり、後世、明治・廣P武夫は『正氣歌』で「死生有命不足論,鞠躬唯應酬至尊。奮躍赴難不辭死,慷慨就義日本魂。一世義烈赤穗里,三代忠勇楠氏門。憂憤投身薩摩海,從容就死小塚原。或爲芳野廟前壁,遺烈千載見鏃痕。或爲菅家筑紫月,詞存忠愛不知冤。可見正氣滿乾坤,一氣磅礴萬古存。嗚呼正氣畢竟在誠字,呶呶何必要多言。誠哉誠哉斃不已,七生人阨國恩。」とする。 ・如山:(意気は軒昂として)山のように大いさまを謂う。南宋・陸游の『書憤』に「早歳那知世事艱,中原北望氣如山。樓船夜雪瓜洲渡,鐵馬秋風大散關。塞上長城空自許,鏡中衰鬢已先斑。出師一表真名世,千載誰堪伯仲間。」とあり、日本・頼山陽の『日本樂府・蒙古來』に「筑海颶氣連天K,蔽海而來者何賊。蒙古來 來自北,東西次第期呑食。嚇得趙家老寡婦,持此來擬男兒國。相模太カ膽如甕,防海將士人各力。蒙古來 吾不怖,吾怖關東令如山。直前斫賊不許顧,倒吾檣 登虜艦。擒虜將 吾軍喊。可恨東風一驅附大濤 不使羶血盡膏日本刀。」とある。 ・見死:「視死」のことで、死というものに向かう態度。死を視(み)る。『呂氏春秋・季冬記』に「士之爲人,當理不避其難,臨患忘利,遺生行義,視死如歸。」とある。魏・曹植の『白馬篇』に「白馬飾金羈,連翩西北馳。借問誰家子,幽并遊侠兒。少小去ク邑,揚聲沙漠垂。宿昔秉良弓,楛矢何參差。控弦破左的,右發摧月支。仰手接飛猱,俯身散馬蹄。狡捷過猴猿,勇剽若豹螭。邊城多警急,胡虜數遷移。寵從北來,飼n登高堤。長驅蹈匈奴,左顧凌鮮卑。棄身鋒刃端,性命安可懷。父母且不顧,何言子與妻。名編壯士籍,不得中顧私。捐躯赴國難,視死忽如歸。」とあり、清末・秋瑾の『寶劍歌』に「炎帝世系傷中絶,茫茫國恨何時雪?世無平權祗強權,話到興亡眦欲裂。千金市得寶劍來,公理不恃恃赤鐵。死生一事付鴻毛,人生到此方英傑。饑時欲啖仇人頭,渇時欲飮匈奴血。侠骨崚嶒傲九州,不信大剛剛則折。血染斑斑已化碧,漢王誅暴由三尺。五胡亂晉南北分,衣冠文弱難辭責。君不見劍氣棱棱貫斗牛?胸中了了舊恩仇,鋒芒未露已驚世,養晦京華幾度秋。一匣深藏不露鋒,知音落落世難逢。空山一夜驚風雨,躍躍沈吟欲化龍。寶光閃閃驚四座,九天白日闇無色。按劍相顧讀史書,書中誤國多奸賊。中原忽化牧羊場,咄咄腥風吹禹城。除却干將與莫邪,世界伊誰開暗K。斬盡妖魔百鬼藏,澄C天下本天職。他年成敗利鈍不計較,但恃鐵血主義報祖國。」とある。
※男児生世貴成名:男として(この)世に生まれてきたからには、名をなすことを尊んでいる。 ・男児:一人前の男。釋月性『將東遊題壁』に「男兒立志出郷關,學若無成不復還。埋骨何期墳墓地,人間到處有山。」とある。 ・成名:名をなす。有名になる。本来の意は、科挙に及第したことを謂う。清・乾髓驍フ『從軍行』に「三邊烽火照軍營,十萬丁男夜練兵。但使腰闌悍曙普C丈夫何處不成名。」とある。
※時平空瘞英雄骨:時節が平穏なので、英雄も(国事のためにではなくて)むなしく骨を埋め。 ・時平:平穏な治世にあうことを謂う。その逆が「時窮」で、南宋(〜元)・文天の『正氣歌』に「天地有正氣,雜然賦流形。下則爲河嶽,上則爲日星。於人曰浩然,沛乎塞蒼冥。皇路當C夷,含和吐明庭。時窮節乃見,一一垂丹。在齊太史簡,在晉董狐筆。在秦張良椎,在漢蘇武節。爲嚴將軍頭,爲嵇侍中血。爲張睢陽齒,爲顏常山舌。或爲遼東帽,C操児u雪。或爲出師表,鬼~泣壯烈。或爲渡江楫,慷慨呑胡羯。或爲撃賊笏,逆豎頭破裂。是氣所磅礴,凜烈萬古存。當其貫日月,生死安足論。地維ョ以立,天柱ョ以尊。三綱實繋命,道義爲之根。嗟予遘陽九,隸也實不力。楚囚纓其冠,傳車送窮北。鼎鑊甘如飴,求之不可得。陰房闃鬼火,春院閟天K。牛驥同一p,鷄棲鳳凰食。一朝蒙霧露,分作溝中瘠。如此再寒暑,百沴自闢易。哀哉沮洳場,爲我安樂國。豈有他繆巧,陰陽不能賊。顧此耿耿在,仰視浮雲白。悠悠我心悲,蒼天曷有極。哲人日已遠,典型在夙昔。風檐展書讀,古道照顏色。」があり、」とある。 ・瘞:〔えい;yi4●〕うずめる。土中に埋める。埋葬する。南宋・岳飛の『滿江紅』登黄鶴樓有感に「遙望中原,荒煙外,許多城郭。想當年,花遮柳護,鳳樓龍閣。萬歳山前珠翠繞,蓬壺殿裏笙歌作。到而今、鐵騎滿郊畿,風塵惡! 兵安在?膏鋒鍔。民安在?填溝壑。歎江山如故,千村寥落。何日請纓提鋭旅,一鞭直渡C河洛。却歸來、再續漢陽遊,騎黄鶴。」とある。『孟子』巻六・縢文公・下に「志士不忘在溝壑,勇士不忘喪其元。(元:首、頭)」とある。 ・英雄骨:英雄の遺骸、遺骨。前出・文天の『正氣歌』で謂えば「節」。
※匣裡宝刀鳴有声:箱の中の名刀(の精)が、鳴いている。 ・匣:〔かふ;xia2●〕蓋付きの小箱。箱。こばこ。てばこ。 ・裡:(…の)中(で)。 ・鳴:刀剣の精が鳴くことを謂う。南宋・陸游の『長歌行』に「人生不作安期生,醉入東海騎長鯨;猶當出作李西平,手梟逆賊清舊京。金印煌煌未入手,白髮種種來無情。成都古寺臥秋晩,落日偏傍僧窗明。豈其馬上破賊手,哦詩長作寒螿鳴?興來買盡市橋酒,大車磊落堆長瓶。哀絲豪竹助劇飮,如巨野受黄河傾。平時一滴不入口,意氣頓使千人驚。國仇未報壯士老,匣中寶劍夜有聲。何當凱旋宴將士,三更雪壓飛狐城。」とあり、前出・清末・秋瑾の『紅毛刀歌』に「一泓秋水淨纖毫,遠看不知光如刀。直駭玉龍蟠匣内,待乘雷雨騰雲霄。傳聞利器來紅毛,大食日本羞同曹。濡血便令骨節解,斷頭不俟鋒刃交。抽刀出鞘天爲搖,日月星辰芒驟韜。斫地一聲海水立,露鋒三寸陰風號。陸剸犀象水截蛟,魍魎驚避魑魅逃。遭斯刃者凡幾輩?髑髏成羣血湧濤。刀頭百萬冤魂泣,腕底乾坤殺劫操。朅來掛壁暫不用,夜夜鳴嘯聲疑鴞。英靈渇欲飮戰血,也如塊磊需酒澆。紅毛紅毛爾休驕,爾器誠利吾寧抛。自強在人不在器,區區一刀焉足豪?」とある。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「輕名聲」で、平水韻下平八庚。この作品の平仄は、次の通り。
◎●○○●●○,(韻)
○○○●●○○。(韻)
●○◎●○○●,
●●●○○●○。(韻)
平成24.5. 9 5.10完 平成26.3. 7補 |
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