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劍舞歌 | ||
安積武貞 |
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日出國兮有名寶, 百鍊精鐵所鍛造。 光芒電閃夏猶寒, 風蕭蕭兮髮衝冠。 請看日出男兒膽, 踏白刃兮犯礮丸。 犯礮丸兮陷堅陣, 縱橫搏擊山岳震。 有死之榮無生辱, 不須將臺受約束。 |
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日出 づる國に名寶 有り,
百鍊 の精鐵 鍛造 する所。
光芒 電閃 夏猶 ほ寒く,
風蕭蕭 として髮 冠 を衝 く。
請 ふ看 よ日出 男兒 の膽 ,
白刃 を踏みて礮丸 を犯 す。
礮丸 を犯 して堅陣 を陷 し,
縱橫 搏擊 して 山岳震 ふ。
死の榮 有りて 生の辱 無く,
須 ゐず將臺 約束を受くるを。
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◎ 私感註釈
※安積東海:幕末の勤皇の志士。文久三年の政変で処刑される。天保三年(1832年)~元治元年(1864年)。名は武貞。通称は五郎。東海は号。下総の人。
※剣舞歌:詩吟にあわせて剣を振るって舞う舞の詩歌。
※日出国兮有名宝:日が昇る処の国・日本には立派な宝物がある。 ・日出国:日が昇る処・日本。王維が曰うところの東方の君子国、日の本(もと)。『日本樂府』の註記では「神武天皇起於日向,東征平定山,都之曰:大和,又曰:日本,遂以爲國號。推古帝時,遣使遺隋主書曰:『日出處天子,致書日沒處天子無恙。』及通於唐,未嘗受其册封。詔令之式,稱大日本天皇。又稱大八洲天皇,國有八洲也。」(句読点は変えた)とあり、日本・江戸後期・頼山陽の『日本樂府』の『日出處』に「日出處,日沒處,兩頭天子皆天署。扶桑鷄號朝已盈,長安洛陽天未曙。嬴顛劉蹶趁日沒,東海一輪依舊出。」
とある。 ・兮:〔けい;xi1○〕語調を整える助辞。『詩經』『楚辭』
など、上代の作品には多く見られる。楚・屈原の『楚辭・離騷』に「帝高陽之苗裔兮,朕皇考曰伯庸。攝提貞于孟陬兮,惟庚寅吾以降。皇覽揆余初度兮,肇錫余以嘉名。名余曰正則兮,字余曰靈均。…(中略)…亂曰:已矣哉!國無人莫我知兮,又何懷乎故都?既莫足與爲美政兮,吾將從彭咸之所居!」
とあり、秦末漢初・項羽の『垓下歌』に「力拔山兮氣蓋世,時不利兮騅不逝。騅不逝兮可奈何,虞兮虞兮奈若何。」
とあり、漢・高祖(劉邦)の『大風歌』に「大風起兮雲飛揚。威加海内兮歸故鄕。安得猛士兮守四方!」
とあり、漢・梁鴻の『五噫歌』に「陟彼北芒兮,噫!顧瞻帝京兮,噫!宮闕崔巍兮,噫!民之劬勞兮,噫!遼遼未央兮,噫!」
とある。
※百錬精鉄所鍛造:何度もねりきたえて精製した鉄で、鍛(きた)えたて作ったものだ。 ・百錬:何度も金属をねりきたえる。 ・精鉄:精製した鉄。よく鍛えた鉄。 ・所-:…ところ。動詞の前に附き、動詞を名詞化する働きがある。 ・鍛造:金属をきたえて器物をつくる。鍛冶。
※光芒電閃夏猶寒:(日本刀の)尾をひく光の筋(すじ)は、いなずまのようにひらめいて、夏でも寒く。 ・光芒:〔くゎうばう;guang1mang2○○〕尾をひく光のすじ。南宋・陸游の『隴頭水』に「隴頭十月天雨霜,壯士夜挽綠沈槍。臥聞隴水思故鄕,三更起坐涙數行。我語壯士勉自強,男兒堕地志四方。裹尸馬革固其常,豈若婦女不下堂。生逢和親最可傷,歳輦金絮輸胡羌。夜視太白收光芒,報國欲死無戰場。」とあり、同・陸游の『金錯刀行』に「黄金錯刀白玉裝,夜穿窗扉出光芒。丈夫五十功未立,提刀獨立顧八荒。京華結交盡奇士,意氣相期共生死。千年史冊恥無名,一片丹心報天子。爾來從軍天漢濱,南山曉雪玉嶙峋。嗚呼,楚雖三戸能亡秦,豈有堂堂中國空無人。」
とある。なお、現代では文革期に毛沢東思想の形容に「光芒万丈」
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は、よく使われた。 ・電閃:〔でんせん;dian4shan3●●〕(刀が)いなずまのようにひらめく。 ・夏猶寒:夏でも寒い意。夏なほ寒し。
※風蕭蕭兮髪衝冠:(荊軻の時のように)風がもの寂しく吹いて、(慷慨のあまり、)髪が冠を衝き上げる。 ・風蕭蕭兮:風がもの寂しく吹いて、の意。燕・荊軻の『易水歌』に「風蕭蕭兮易水寒,壯士一去兮不復還。」とある。荊軻と燕の昭王の太子丹、高漸離たちと易水の畔での別れについて、『史記』(卷八十六・刺客列傳第二十六
には、次のように記している:「太子及賓客知其事者,皆白衣冠以送之。至易水之上,既祖,取道,高漸離撃筑,荊軻和而歌,爲變徴之聲,士皆垂涙涕。又前而爲歌曰:『風蕭蕭兮易水寒,壯士一去兮不復還!』復爲羽聲慷慨,士皆瞑目,髮盡上指冠。於是荊軻就車而去,終已不顧。」と悲壮な別れで有名な荊軻の易水の別れの場面
に基づいている。なお、前記『易水歌』
ページには、荊軻関聯の詩を集めている。 ・蕭蕭:〔せうせう;xiao1xiao1○○〕もの寂しいさま。 ・髪衝冠:(慷慨のあまり、)髪が冠を衝き上げる。前出・『史記・刺客列傳』
に、「復爲羽聲慷慨,士皆瞑目,髮盡上指冠。於是荊軻就車而去,終已不顧。」とあり、南宋・岳飛の『滿江紅』に「怒髮衝冠,憑闌處、瀟瀟雨歇。抬望眼、仰天長嘯,壯懷激烈。三十功名塵與土,八千里路雲和月。莫等閒、白了少年頭,空悲切。 靖康耻,猶未雪。臣子憾,何時滅。駕長車踏破,賀蘭山缺。壯志饑餐胡虜肉,笑談渇飮匈奴血。待從頭、收拾舊山河,朝天闕」
とある。
※請看日出男児胆:どうか日本の男の肝っ玉を見て下され。 ・請看:どうぞ見て下さい。請う、看よ。「請」は一種の敬語表現で、「どうぞ(…してください)」の意を持つ。また、頼む。お願いする。ここは、前者の意。 ・男児:男らしい男。男。また、男の子。ここは、前者の意。清・丘逢甲の『韓江有感』に「兒道是南風竟北風,敢將蹭蹬怨天公。男兒要展回天策,都在千盤百折中。」とあり、日本・幕末・釋月性の『將東遊題壁』に「男兒立志出郷關,學若無成不復還。埋骨何期墳墓地,人間到處有靑山。」
とあり、日本・雲井龍雄の『述懷』に「慷慨如山見死輕,男兒生世貴成名。時平空瘞英雄骨,匣裡寶刀鳴有聲。」
とある。 ・胆:〔たん;dan3●〕肝っ玉。魂。決断力。心。きも。
※踏白刃兮犯砲丸:白刃の許へ赴き、砲丸の飛ぶところに突き進む(さまを)。 ・踏:(実地にそこへ)行く。ふむ。ただし、「踏白刃」(白刃(の地)を踏む。白刃踏むべし)の部分は、本来「白刃可蹈也」とすべきところ。『禮記・中庸』に「子曰:『回之爲人也,擇乎中庸,得一善,則拳拳服膺而弗失之矣。』子曰:『天下國家可均也,爵祿可辭也,白刃可蹈也(=白刃ふむべし),中庸不可能也。』」とある。踏(=蹋)〔たふ;ta4●入声〕字と、蹈〔たう;dao3●上声〕字とは、全くの別字。日本語で共に「ふむ」と訓じ、現代仮名遣いでの音読みでは「とう」と読むものの、全くの別字。この詩句が『禮記』に拠るとすれば、蹈〔たう;dao3〕とすべきところ。 ・白刃:〔はくじん;bai2ren4●●〕しらは。鞘から抜いた刀。ぬきみ。 ・砲=礮。
※犯砲丸兮陥堅陣:砲丸の飛ぶところに突き進み、守りがかたい陣地に深く攻め入る。 ・犯:理不尽に多の領分に踏み入る。おかす。ここは「犯」よりも「冒」(:物事をものともせず、めくらめっぽうに進む。おかす。)が相応しい。 ・陥:深く攻め入る。また、おとしいれる。ここは、前者の意。 ・堅陣:守りがかたくて、破ることがむずかしい陣地。
※縦橫搏撃山岳震:いたるところで格闘して、山々を震わせ。 ・縦橫:四方八方。いたるところ。 ・搏撃:〔はくげき;bo2ji1●●〕うつ。なぐりつける。ひどくうちこらす。格闘する。 ・震:ふるう。後世、日本・明治・佐原盛純の『白虎隊』に「少年團結白虎隊,國歩艱難戍堡塞。大軍突如風雨來,殺氣慘憺白日晦。鼙鼓喧闐震百雷,巨砲連發僵屍堆。殊死突陣怒髮立,縱橫奮撃一面開。時不利兮戰且退,身裹瘡痍口含藥。腹背皆敵將何行,杖劍閒行攀丘嶽。南望鶴城砲煙颺,痛哭呑涙且彷徨。宗社亡兮我事畢,十有六人屠腹僵。俯仰此事十七年,畫之文之世閒傳。忠烈赫赫如前日,壓倒田横麾下賢。」とある。
※有死之栄無生辱:光栄ある死はあっても、生きながらえての辱(はずかしめ)はない。 *ここと、その意味に於いては異なるが、現代・毛沢東は、「生的偉大,死的光榮(=生きては偉大、死んでは光栄/偉大なる生、光栄ある死)」のことばを1947年、14歳で犠牲となった少女の共産党員・劉胡蘭に献げた。彼女は村の抗日児童団に参加して、八路軍のために歩哨となったり情報を提供したり、負傷兵の救助や弾薬運びを英雄的にしていた女子共産党員。1947年1月、国民党軍と地主の武装勢力に捕まったが、死を前にしても敢然と闘争し、悠然として押し切りで首を切られた。毛沢東はこの話を聞き、 「生きては偉大、死んでは光栄(生的偉大,死的光榮。)」と、八字の揮毫をした。 ・死之栄:「生死栄辱」の内の、光栄ある死。栄光の死。前出・毛沢東でいえば「死的光榮」。 ・生辱:生きながらえる恥辱。後世、我が国の『戰陣訓』本則其の二「第八 名を惜しむ」に「恥を知る者は強し。常に鄕黨家門の面目を思ひ、愈々奮勵してその期待に答ふべし。生きて虜囚の辱を受けず、死して罪過の汚名を殘すこと勿れ」とある。
※不須将台受約束:(権威ある)拝将台でするまでもない ・不須-:…する必要がない。…するまでもない。…に及ばない。もちゐず。 ・将台:「拜將臺」のこと。漢の高祖・劉邦が、韓信を大将として拝した時に築いた3メートルほどの壇。現・陝西省漢中市の南よりにある。「拜將壇」ともいう。南北二つの高台からなり、南台の上には「漢大將韓信拜將壇」の碑がある。南宋・陸游の『山南行』「我行山南已三日,如縄大路東西出。平川沃野望不盡,麥隴靑靑桑鬱鬱。地近函秦氣俗豪,鞦韆蹴鞠分朋曹。苜蓿連雲馬蹄健,楊柳夾道車聲高。古來歴歴興亡處,擧目山川尚如故。將軍壇上冷雲低,丞相祠前春日暮。國家四紀失中原,師出江淮未易呑。會看金鼓從天下,却用關中作本根。」とあり、両宋・胡世將の『
江月』秋夕興元使院作,用東坡赤壁韻に「神州沈陸,問誰是、一范一韓人物。北望長安應不見,抛卻關西半壁。塞馬晨嘶,胡笳夕引,得頭如雪。三秦往事,只數漢家三傑。試看百二山河,奈君門萬里,六師不發。外何人迴首處,鐵騎千群都滅。拜將臺欹,懷賢閣杳,空指衝冠髮。欄干拍遍,獨對中天明月。」
とある。 ・約束:たばねる。つかねる。しばる。また、言い交わす。誓う。取り決める。
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◎ 構成について
韻式は、「aaBBBccdd」。韻脚は、「寶造 寒冠丸 陣震 辱束」。平水韻上声十九皓(寶造)、上平十四寒(寒冠丸)、去声十二震(陣震)、入声二沃(辱束)。この作品の平仄は、次の通り。
●●●○●○●,(a韻)寶
●●○●●●●。(a韻)造
○○●●●○○,(B韻)寒
○○○○●○○。(B韻)冠
●◎●●○○●,
●●●○●●○。(B韻)丸
●○○○●○●,(c韻)陣
○○●●○●●。(c韻)震
●●○○○○●,(d韻)辱
●○◎○●●●。(d韻)束
平成27.4.26 4.27 4.28完 平成31.1.20補 |
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