夢佐一覺後彷彿 | ||
良寛 |
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二十餘年一逢君, 微風朧月野橋東。 行行攜手共相語, 行至與板八幡宮。 |
二十餘年 一たび君に逢 ふ,
微風 朧月野橋 の東。
行 き行 きて 手を携 へて 共に相 ひ語り,
行きて至る與板 八幡宮。
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◎ 私感註釈
※良寛:江戸後期の禅僧。寶暦八年(1758年)〜天保二年(1831年)。漢詩人。歌人。越後国(現・新潟県)出雲崎の人。俗姓は山本。名は栄蔵、後、文孝と改める。号は大愚。諸国を行脚、漂泊し、文化元年、故郷の国上山(くがみやま)の国上寺(こくじょうじ)に近い五合庵に身を落ち着けた。晩年、三島(さんとう)郡島崎に移った。高潔な人格が人々から愛され、子供達も慕ったが、人格の奇特さを表す逸話も伝わっている。ただ、遺されている漢詩は陰々滅々として、類例を見ないほど暗いものである。
※夢佐一覚後彷彿:(故人となった、旧友の)佐一を夢に見て目覚めた後、ぼんやりとなった。 ・佐一:三輪佐一のことで、作者の古くからの友。越後・与板の人。 ・覚:〔かく;jue2●〕さめる。めざめる。なお、〔かう;jiao4●〕は:眠る。ここは、前者の意。 ・彷彿:〔はうふつ;fang3fu2●●〕ぼんやりと。ほのかに。さながら。よく似たさま。どうやら…。=髣髴。東晋・陶淵明(陶潛)の『桃花源記』に「晉太元中,武陵人捕魚爲業,縁溪行,忘路之遠近,忽逢桃花林。夾岸數百歩,中無雜樹。芳草鮮美,落英繽紛。漁人甚異之,復前行,欲窮其林。林盡水源,便得一山。山有小口。髣髴若有光。便舎船從口入。初極狹,纔通人。復行數十歩,豁然開焉B」とあり、南宋・李清照の『漁家傲』に「天接雲濤連曉霧,星河欲轉千帆舞。彷彿夢魂歸帝所。聞天語,殷勤問我歸何處。 我報路長嗟日暮,學詩謾有驚人句。九萬里風鵬正舉。風休住,蓬舟吹取三山去。」とある。
※二十餘年一逢君:二十余年(ぶりに、夢で)、一たび君(=佐一)にでくわした。 ・二十餘年:佐一が亡くなってからの歳月を謂う。 ・逢:でくわす。 ・君:ここでは、佐一を指す。なお、「君」は韻脚ではなく、この詩は平仄に顧慮しない形式としても、韻を踏まない場合は「子」や「爾」等の仄韻字の方がよいのではないか。それとも末尾を「(二十餘年)與君逢」などとするか…。
※微風朧月野橋東:(場所は、)そよ風におぼろ月(が出た)町外れの橋(でだ)。 ・微風:そよ風。晩唐・高駢の『山亭夏日』に「克陰濃夏日長,樓臺倒影入池塘。水精簾動微風起,一架薔薇滿院香。」とある。 ・朧月:おぼろ月。 ・野橋:町外れの橋。田舎の橋。
※行行携手共相語:行って更にまた行って、手を取り合って共に語り合い。 ・行行:行って更にまた行って。行き行きて。行く行く。動作、行為が深まるようすを表現する。言葉のリズムからもこう表現している。『古詩十九首』之一・行行重行行』に「行行重行行,與君生別離。相去萬餘里,各在天一涯。道路阻且長,會面安可知。胡馬依北風,越鳥巣南枝。相去日已遠,衣帶日已緩。浮雲蔽白日,遊子不顧返。思君令人老,歳月忽已晩。棄捐勿復道,努力加餐飯。」とあり、陶淵明の『雜詩十二首』其七に「日月不肯遲,四時相催迫。寒風拂枯條,落葉掩長陌。弱質與運頽,玄鬢早已白。素標插人頭,前途漸就窄。家爲逆旅舍,我如當去客。去去欲何之,南山有舊宅。」とある。 ・携手:手をつなぐ。手を携える。 ・共:いっしょに。 ・相語:語らいあう。
※行至与板八幡宮:与板(よいた)八幡宮に至ってしまった。 ・与板八幡宮:都野(つの)神社のこと。現・新潟県長岡市与板町与板にある。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「東宮」で、平水韻上平一東。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●○○,
○○○●●○○。(韻)
○○○●●○●,
○●●●●○○。(韻)
平成29.11. 9 11.10 11.11 |
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