★　不定期シリーズ

2009年から始まったこのシリーズ最初のシーズンは6本、次から12本作られています。始まったのが2009年の4月なので、当然ワン・シーズン25本前後、年50本前後作られたのだろうと思い込んでいたのですが、よく見るとかなり変わった放映になっています。

4月から始まるのなら、9ヶ月、週1回、シーズンの最初か最後には他の特別番組が入るかも知れないと日本風に考えて、初年度は大晦日までに9ヶ月、36本ぐらい作るのだろうと計算したのですが、放映スケジュールを見てびっくり。

4月に始まっていますが、2009年には6本。それも同じ日に2本連続放映しており、年に3日だけでした。

2010年は12本作られていて、5〜6月に合計6本放映。この時も1日に2本出しています。同じ年の11〜12月にまた3日に分けて6本。

それにしてはレギュラー・メンバーの振る舞いがとても自然で、連続性が維持されています。ドイツでは現在第3シーズンの分が毎週1本ずつ放映されていて、6本ごとにこんなに間隔が空いているとは気づきませんでした。

2009年放映の第1シーズンは監督がエリック・サマー1人だったので、監督の頭の中で統一が取れていたと考えることができます。

2010年、第2シーズンの放映は春、冬各6本ですが、春の6本のうちの3本もエリック・サマーが担当しました。このシーズンの4話目にクリストフ・ラモットが加わります。ラモットはこのシーズン後半3本を撮り、後をパスカル・ラーマニに引き渡します。

この年秋のシーズンでエリック・サマー再登板。私の感想ですが他の監督も1度に3本まとめて撮っており、サマーが最初に作り出した雰囲気にも留意しており、統一は乱れていません。再登板のサマーもこのシーズン後半の3本をまとめて撮っています。

ちょうど今やっているのは2012年2月から放映された第3シーズンの前半です。2011年はどうなっているんだと私に聞かないで下さい。そんな事分かりません。

ここでまた新しい監督アレクサンドル・ローランが登場。彼はこのシーズン6本を引き受けています。このシーズンは春先4月、5月に合計12本が放映されており、2人の監督が半分ずつ担当しています。私が見た冒頭の2本でも違和感を感じませんでした。

クロエはマシューの死が耐えられず、警察を辞め、1年姿を消したことになっているので、それに見合ったメイクの変化はありますが、説得力がありますし、他のメンバーとの再会、再出発など、ここでも違和感無く入って行けます。

ローランの名前はクロエが世間に名乗っているサン・ローランと同じ綴り。よくある名前なので偶然と思います。クロエの本名はフィッシャーということになっています。

ちなみにこの作品では監督と脚本家はきっちり分けてあり、監督は脚本にタッチしていません。最初からずっと関わっている人が3人おり、そこに他の人も加わっている様子で、この3人がコンセプトをきちんと管理しているのではと思われます。

マシューを第2シーズンの終わり、18本目で昇天させてしまい、新任の主任を置いていますが、なぜあそこでマシューを死なせたのかはまだはっきり分かりません。ただ、ルイーズが第2シーズンの後半暗躍し始めたので、その部分の展開としてばっさりやったのではと思います。

フランスの芸能界のゴシップはドイツにはほとんど伝わらないので、出演者が降板を希望したのかは分かりませんが、レギュラー・メンバーのエピソードの進展に亀裂が生じていないので、元からマシューはあそこで退場と決まっていたのかも知れません。

★　マシューの死後

マシューがいなくなったからといって犯罪者が犯罪を控えてくれるわけではありません。パリの殺人課は相変わらず大繁盛。マシューの後任として課を仕切っているのはトマ・ロシェー。クロエの姿はありません。

前回までに時には揉めたティームもすっかりファミリーのようになっており、そこへ突然のマシューの死。1年経った現在もスタッフは皆マシューを懐かしんでいます。新しい課長トマは1年経ち、それなりに仕事はこなしていますが、ティームとの間にはややしらけ鳥が飛んでいます。

★　クロエが必要になる

今週もまた殺人事件発生。この1年クロエ抜きで何とかやって来れた殺人課ですが、この事件はちょっと難しい。女性の連続殺人事件で、犯人が現場を演出している様子が伺え、いったいそれが何を意味しているのかが分かれば解決につながりそうです。皆が「クロエがいれば説明してくれるのに」と思います。

★　ブルターニア

マシューとの間にいい具合の信頼関係ができ、グレゴワが父親、マシューが兄に似た関係になっていたところへ、自分の妹と名乗る女にマシューを殺されてしまったクロエは強度のショック状態に陥り、パリから姿を消すこと1年。

田舎で引きこもり状態。幸い彼女を気遣ってくれる女性がいるので、何とか生きています。最初に彼女のシーンを見てアイルランドにでも行ったのかと思いましたが、女性の名前がフランス式で、フランス国内のどこかだと分かります。となると私が知っているブルターニアと似ているなあと思ったら、やはりブルターニア。彼女の現在の精神状態とこの地方の気候はく合っています。

ここは昼は夏、夜は冬のような気候で、雨や曇りの日も多いのですが、今の彼女が大勢の人がバカンスに来るにぎやかな南フランスなどに行くと視聴者としては調子狂ってしまいます。ブルターニアはぴったり。どうやら仕事からは一切手を引き、時々海岸に散歩に行く程度の生活をしているようです。

★　クロエの居所はばれていた

グレゴワが口を閉ざしているので、クロエの行方は分からないことになっていますが、そこは警察。フレディーやイポリットは独自に、ちょっと法規違反をして探り出していました。しかし2人ともあっちの方を見ながらすっとぼけていました。

しかし現在進行中の連続女性殺人事件を阻止しなければならず、トマはグレゴワにクロエの居所を聞きます。多分彼女は断わるだろうと忠告を受けながらもトマは捜査資料を携え、クロエを訪ねます。

最初は嫌がっていたクロエをうまく口説き落とし、トマは彼女に捜査資料を見せるのに成功。いったんエンジンがかかるとクロエは本気で、徹夜で資料を読み漁ります。

翌日トマが目を覚ますとクロエは消えています。パリにいました。

台詞にも出て来ますが、パリからブルターニアまでは結構な距離です。私自身ベルリンから古い車で当時の東ドイツを抜け、東西国境近くで一泊した後、翌朝西ドイツを抜けて真西に一直線。パリに着き、一服した後そのままさらに西へ。翌日の真夜中にブルターニアに着いた経験があります。あんな事は若いからできたんだと思いますが、パリからでも車では結構時間を食います。また、いくつかの町までは鉄道もありますが、海岸まで行くとなると電車では無理です。

旅疲れもあってかトマはクロエが旅立ったことに気づきません。クロエは直接パリの事件現場に入り、プロファイリングを始めます。無論この日の番組の終わりまでに犯人を推測し、見事的中。

★　マシューが生きろと言ったのか

犯人逮捕を目前にしたクロエは自殺をするつもりの犯人を説得します。いよいよ説得が効いたのかと思った瞬間、クロエに理解されたと感じた犯人は諦めがついてか川に飛び込んでしまいます。彼女の手を取っていたクロエは巻き添えを食って川に転落。近くにいたトマがすぐ飛び込んで救助を試みますが、クロエは深みに落ちて、死にかけます。その時ふと思い直して水面に向かって泳ぎ始め、助かります。

人の死が別な人も死に誘ってしまったのが犯人（犯人は人生が破綻し、大切な人を失い絶望中でした）、人の死が別な人に生きろと方向を示したのがクロエ。私は後者の例は共感します。本人はしおれて、死も視野に入れているのですが、友人、知人、身内に「生きろ」と示唆する人がいると（たとえ現在死んでいても生前真剣に生きていた人も含む）、重要な時に決意が生と死半々にならず、生の方に投票する友人、知人、身内がぞろぞろついて来るのです。

クロエはティーンの頃の事件で母親を失い（死亡）、父親は精神病院に犯人として収容され、他に兄弟はいないはずだったので、孤独。グレゴワが支えなかったら大学に入ることも無く、それこそ高校もまともに卒業せず、現在生きていたかすら分かりません。それが、まずグレゴワが支え、さらにマシューが支え、捜査ティームもいい友達になっていました。マシューは怒るべき時には頭から湯気を出してカッカと怒りますが、曲がった事は嫌い。で、2人の間にも信頼関係ができた時に、ルイーズが妹を語って登場し、会いたくない父親は出て来るわ、マシューは殺されるわで、クロエはまだちゃんと次の道を見つけていませんでした。

そんな不安定な時期に川に転落。命が危ないという時、トマがためらわず救助に飛び込んでくれ、水中で一瞬自分を支えてくれた人のイメージが浮かび、クロエを絶望の方向へ引っ張るルイーズの力より、生きる方へ引っ張る力の方が強かったようです。

助かったついでにそれまでやや拒否反応を示していたトマに対しても気持ちが和らぎます。

★　帰る場所が

この事件後クロエはまたブルターニアに戻るつもりでいましたが、久しぶりにティームと顔を合わせ、トマとも打ち解け、パリに戻る決心をしました。めでたし。これで第6シーズンまでシリーズが持ちます。