★　背景の話と前の話がメビウスの帯のように・・・

脚本家が視聴者に挑むプロット登場です。

毎週1つの事件か、1人の犯人に至る連続殺人が起こり、クロエちゃんが見事に解決してみせる趣向で、第3シリーズも後半に入ります。前にご紹介したように、このシリーズは1年に12本作られるので、エピソードの回数だけを見ていると時間の経過で勘違いを起こします。第1回放映は2009年の4月。

私はこういった、犯罪をティームで解明する番組で、レギュラー出演する登場人物の個人的なエピソードを大々的に混ぜることにはあまり賛成ではありません。ただ、このシリーズではそれをうまく料理しているように思います。

最初のシーズンに登場したクロエの共演者だった刑事マシュー・ぺラック刑事は次のシーズンの最後に戦死。その時はぺラックの妻の不倫をエピソードに交えています。その話はあまり背景のの流れに関係ありませんでした。

マシューの後継として登場した刑事トマ・ロシェーの個人的なエピソードは時々メインの事件に絡む設定になっています。登場した時すでに妻を失っており、その犯人が外交特権を使ってスイスでのうのうと暮らしているという設定です。かなりのアルコール濃度で酔っ払い運転をし、トマの妻相手に交通事故を起こし、発覚を恐れてトマの妻を現場に放り出して立ち去っています。不作為による死亡事件です。

欧州ではこういう場合殺人事件にはなりませんが、当然ひき逃げ犯ということにはなりますし、アルコールが入っていると罪がかなり重くなります。ドイツやフランスではアルコールを一定量まで飲んで運転しても日本ほど厳しい制限は受けませんが、それが事故に繋がると厳しくなります。まして、被害者を放り出してトンズラしてしまうとかなりの罪になります。時々その男の弁護士が現われたりして、シーズン中裏に表にトマの妻の事件がちらつくようになっています。

そんな中、前回までにご紹介したようにクロエは未婚の母として妊娠し、子供を産む決心をしたとたんにその時捜査中の犯人とぶつかり、流産。流れてしまったものは仕方ないということで、傷心に鞭打って仕事に出て来ます。

ストイックを装う彼女がかわいそうで私もつい同情。

ところがやっぱりクロエは失望感が大きく、心が癒えていないのだろうという方向に話が動きます。私はこのあたりでちょっとやり過ぎだという印象を受けました。何しろクロエが妊娠に気づいたのはオフマンと関係して何週間か経ってから。その足で合法的な中絶を申し込むために医者に行き、その後トマの説得で子供を産むことにしますが、かなり時間的には駆け足になっています。その最後が流産となるのですが、今回の画面で示されるような大きなショックを受ける暇も無く話はどんどん進んでいました。大学と警察の仕事を続けながらですから、自分の変化に気付く暇も無かったと言われる方が納得しやすいです。なので、もしトラウマを抱えるにしても、もう少し時間が経ってからというのが普通ではないかなどと思っていたのです。

何でそんな事を言うかというと、自分自身子供の時目の前で大火事に遭遇したり、大学時代自宅に押し入ろうとしている目の据わってしまった犯人とガラス越し10センチのところで出くわしてしまったり、何度か怖い経験をしているからです。その場で助かっても暫くはアドレナリン濃度が高くなるのか、少し躁状態で、本当に怖くなる（じわっと来る）のは大分経ってからです。なので、クロエの行動はやや現実味を欠いていると思っていたら、やっぱり・・・。

★　皆クロエに引っかかる

第3シリーズ終わり近くに精神病院の医師が容疑者として浮かんで来る事件がありました。犯人はなかなか尻尾を出さず、精神病院に収容されていたはずの女性が1人行方不明になっています。彼女の生死は不明でしたが、医者にどこかに閉じ込められている可能性も浮上していました。しかし処方箋や証明書を出せる立場の精神病院の医師なので警察は手も足も出ません。

そんな時に、クロエは自宅で錯乱状態になり、家中の物をひっくり返した挙句精神病院へ収容されてしまいます。視聴者と警察の同僚たちは「やっぱりオフマンとの事がストレスになり過ぎ、休暇も取らずに仕事に専念したのが行けなかったのだ」と自然に考えます。

どこの精神病院に入院したのか調べると、上の女性が行方不明になった病院でした。視聴者はここでも、大都市パリといえども大きな精神病院そうたくさんは無いだろうから同じ病院になってしまうのも仕方ないだろうと特に疑わないような演出になっています。クロエの身をスタッフが案じ始めるのはクロエもかかっている医師が容疑者と分かってから。

クロエは冷静に事件の資料を読み、結論に達し、わざと精神錯乱のような行動を取り、入院できるようにたくらんだのです。彼女は心理学の教授ですから、どういう行動に出れば入院させてもらえるかもしっかり計算済み。警察からプロファイリングを依頼されるほどの人ですから、容疑の濃い医者の行動を身近でばっちり観察。それどころか携帯でおおっぴらに警察と電話するわけに行かない中、何もかもびっちりノートに記録する強迫観念を持った患者と仲良くなり、院内の様子を記録してもらったりします。このあたりはメルヘンじみて来ますが、それまで描写されていたクロエの性格と良く合い、視聴者はフムフムと納得しながら見ていられます。

彼女の偽装入院のおかげで犯人は逮捕、監禁されていた女性も救出。こういう形で背景のエピソードがガチっと表の話に絡みました。表の話だと思っていると知らない間に背景のエピソードに、背景のエピソードだと思っていると知らないうちに表のエピソードに・・・まあ、こういう風にするのならレギュラー登場人物のエピソードを出してもいいでしょう。

★　さらに昼ドラ

めでたく犯人は捕まったのですが、さらに観客の注意をクロエに引き付けておくためにその直後にクロエとトマは自動車事故を起こし、意識不明。さあ、続きは来週のお楽しみ・・・。くそっ。