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寒梅 | ||
新島襄 | ||
庭上一寒梅, 笑侵風雪開。 不爭又不力, 自占百花魁。 |
庭上の 一寒梅,
笑って 風雪を侵して 開く。
爭はず 又 力めず,
自づから 百花の魁を 占む。
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◎ 私感註釈:
※新島襄:明治の教育家、宗教家。安中藩の家臣の子として生まれる。天保十四年(1843年)~明治二十三年(1890年)。鎖国下の元治元年(1864年)に渡米、アマースト(アーモストAmherst College)大学を卒業後、キリスト教に入信。岩倉全権大使一行の渡米に際し、随行して渡欧。教育制度などを視察。帰朝後、京都に同志社を創設。
※寒梅:早咲きの梅。寒中に咲く梅。梅花は、早春の雪の中で花を著け、寒さ(=境遇の悪さ)に耐えて、清らかな香りを放つ(=薫化)。そのさまは、君子の徳操を象徴するものとされる。唐・王維の『雜詩』に「君自故鄕來,應知故鄕事。來日綺窗前,寒梅著花未?」とあり、唐・張謂の『早梅』に「一樹寒梅白玉條,迥臨林村傍谿橋。不知近水花先發,疑是經冬雪未銷。」
とあり、北宋・王安石の『梅花』に「牆角數枝梅,凌寒獨自開。遙知不是雪,爲有暗香來。」
とあり、南宋・陸游の『卜算子・詠梅』に「驛外斷橋邊,寂寞開無主。已是黄昏獨自愁,更著風和雨。 無意苦爭春,一任羣芳妬。零落成泥碾作塵,只有香如故。」
とあり、李清照の『聲聲慢』では「尋尋覓覓,冷冷淸淸,凄凄慘慘戚戚。乍暖還寒時候,最難將息。三杯兩盞淡酒,怎敵他、曉來風急。雁過也,正傷心,却是舊時相識。 滿地黄花堆積,憔悴損,如今有誰堪摘。守着窗兒,獨自怎生得黑。梧桐更兼細雨,到黄昏、點點滴滴。這次第,怎一個、愁字了得。」
とある。なお、現代でも毛沢東は『卜算子・詠梅』で「風雨送春歸,飛雪迎春到。已是懸崖百丈冰,犹有花枝俏。 俏也不爭春,只把春來報。待到山花爛漫時,她在叢中笑。」
と梅の気節を詠う。日本でも、江戸時代・德川齊昭の『弘道館賞梅花』に「弘道館中千樹梅,淸香馥郁十分開。好文豈謂無威武,雪裡占春天下魁。」
とある。
※庭上一寒梅:庭先(にわさき)の一本の早咲きで寒中に咲く梅(は)。 ・庭上:庭先(にわさき)。「庭上(ていじゃう:○●)」として「庭先(ていぜん:○○)」等としないのは、この句のここでは●●とすべきところ故、「庭上(ていじゃう:○●)」を用いた。日本の江戸時代・江馬細香の『夏夜』に「雨晴庭上竹風多,新月如眉繊影斜。深夜貪涼窓不掩,暗香和枕合歡花。」とある。
※笑侵風雪開:笑って風雪をものともせずに開いている。 ・笑:〔せう;xiao4●〕(口を開けて喜び)わらう。また、花が咲く。笑=咲:〔せう;xiao4●〕。後者の意では後出・「開」と意味が重なるので、ここは、前者の意ととるのが無難。 ・侵:おかす。但し、「風雪をおかす」という表現(=「風雪をものともしない」の意)での「おかす」は、「冒」字を使わなくてはいけない。ここは「冒風雪」とすべきところ。【侵:〔しん;qin1○〕ひそかにしのびいって国などを襲う。侵略する。詩詞では「(秋風が)忍び寄る、忍び込む」といった雰囲気に使う。 冒:物事をものともせずに盲滅法(めくらめっぽう)に進む。ものともしない。かまわず…する】の意。ここは、後者の意。ただし「侵風雪」を「冒風雪」とすると、平仄上問題が生ずる。だからといって、「侵風雪」とすれば、「風雪をおかす」「風雪をものともしない」といった意は、表現され得ない。(この矛盾を解決するには、表現を少し変える必要があるが、ここでは推敲については差し控える。) ・風雪:吹雪(ふぶき)。風と雪。風まじりの雪。唐・劉長卿の『逢雪宿芙蓉山主人』に「日暮蒼山遠,天寒白屋貧。柴門聞犬吠,風雪夜歸人。」とあり、唐・杜牧の『獨酌』に「窗外正風雪,擁爐開酒缸。何如釣船雨,蓬底睡秋江。」
とある。 ・開:(花が)咲く。(花が)ひらく。
※不争又不力:(春の艶を)わがものとしようと争うことなく、また、力(りき)んで精を出すこと(まで)もなく。 ・争:あらそう。競い合う。ここでは春の艶をわがものとすることをいう。 ・力:力を入れて精を出す。本気になって努める。つとめる。勤める。動詞としての用法。
※自占百花魁:自然と多くの花の魁(さきがけ)となる位置を占めている。 ・自:自然と。おのずと。 ・占:しめる。 ・百花:多くの花。 ・魁:〔くゎい;kui2○〕さきがけ。まっさき。第一番目。かしら。前出・德川齊昭の『弘道館賞梅花』に「雪裡占春天下魁。」とある。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「梅開魁」で、平水韻上平十灰。この作品の平仄は、次の通り。
○●●○○,(韻)
●○○●○。(韻)
●○●●●,
●●●○○。(韻)
平成22.12.14 12.15 |
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