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書懷 | ||
傳・西鄕隆盛(偽作) |
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人生元不長, 此身豈其輕。 計利應計天下利, 求名須求萬世名。 況當虎呑狼噬際, 齷齪無用守其疆。 靑山到處骨可埋, 誰爲一朝卜枯榮。 男兒所要在機先, 好揚汝鞭試啓行。 一葦纔西大陸通, 鴨綠送處崑崙迎。 秋草漸老馬晨嘶, 天際無雲地茫茫。 嗚呼予二十七將終一生半, 肺肝其能何處傾。 感來睥睨長風外, 月自東洋照西洋。 |
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人生元 長 からず,
此 の身豈 に其 れ輕 からんや。
利 を計 らば應 に 天下の利 を計 るべく,
名 を求 むれば須 らく萬世 の名 を求むべし。
況 んや虎呑 狼噬 の際 に當 っては,
齷齪 其 の疆 を守るの用 無 からん。
靑山 到 る處 骨 埋 む可 く,
誰 か一朝 の爲 に枯榮 を卜 せんや。
男兒 要 する所機先 に在 り,
好 し汝 が鞭 を揚 げ試 みに啓行 せよ。
一葦 纔 かに西 すれば 大陸に通 じ,
鴨綠 送る處 崑崙 迎 ふ。
秋草 漸 く老 いて馬 晨 に嘶 き,
天際 雲 無 くして地 茫茫 たり。
嗚呼 予 二十七 將 に一生の半 ばを終 はらんとすれば,
肺肝 其 れ能 く何 れの處 にか傾 けん。
感じ來 って睥睨 す長風 の外 を,
月 は 東洋より 西洋を照 らす。
*****************
◎ 私感註釈
※この作品は、西郷隆盛の作と誤解されて流布している詩。 西郷隆盛:明治維新の元勲。後、西南戦争を起こしたが、城山で自刃。文政十年(1827年)~明治十年(1877年)。薩摩の人。号して南洲。通称は吉之助。
※書懐:心に思うことを書き記す。 *詩題に多く見受けることば。盛唐・杜甫に『旅夜書懷』、南宋・陸游に『病起書懷』
、清・袁枚に『書懷』
がある。詩句中のことば通りだと、作者が(数え年の)二十七歳の時は、安政元年(1854年)。ペリー来航の年で、それを機に、それまで起こっていたロシア、イギリス…との接触や交渉の経緯から、攘夷問題が起き始めた頃のこと。
※人生元不長:人生は、根本的には長くはない(ので)。 ・元:根本。本源。もと。 ・不長:長くない、の意。明・唐寅の『花下酌酒歌』に「九十春光一擲梭。花前酌酒唱高歌。枝上花開能幾日。世上人生能幾何。 好花難種不長開。少年易過不重來。人生不向花前醉。花笑人生也是呆。」とある。(この「不長」は「不常」の意なので、余り適切な用例ではないが…)。
※此身豈其軽:この身は、どうして軽いものだといえようか。 ・豈:〔き;qi3●〕どうして…か。反語・疑問の助字。『莊子・天運』に「夫六經,先王之陳跡也,豈其所以跡哉。」とあり、『太平廣記』(卷第八十二 呂翁 中華書局版第二冊526~528ページ)「邯鄲夢」には「盧生…感歎曰。大丈夫生世不諧。…目昏思寐。是時主人蒸黄粱爲饌。翁乃探嚢中枕以授之曰。…寐中。…(人生の栄枯盛衰を全て見て)…盧生欠伸而寤。見方偃於邸中。顧呂翁在傍。主人蒸黄粱尚未熟。觸類如故。蹶然而興曰。豈其夢寐耶。翁笑謂曰。人世之事。亦猶是矣。生然之。」とあり、南宋・陸游の『長歌行』に「人生不作安期生,醉入東海騎長鯨;猶當出作李西平,手梟逆賊清舊京。金印煌煌未入手,白髮種種來無情。成都古寺臥秋晩,落日偏傍僧窗明。豈其馬上破賊手,哦詩長作寒螿鳴?興來買盡市橋酒,大車磊落堆長瓶。哀絲豪竹助劇飮,如巨野受黄河傾。平時一滴不入口,意氣頓使千人驚。國仇未報壯士老,匣中寶劍夜有聲。何當凱旋宴將士,三更雪壓飛狐城。」とある。 ・其:その。この詩、「其」が多用されるが、いずれも語調を整えるために使われている。
※計利応計天下利:利益を求めるのならば、(一身の利益ではなくて)世の中全体の利益を求めなければならない。 ・計利:利益をもくろむ意。 ・応:当然…であろう。きっと…だろう。…しなければならない。…であるべきだ。まさに…べし。
※求名須求万世名:名声をもとめるのならば、(今の名声ではなくて)永久に続く世の中の名声を(得る)べきである。 ・求名:名声をもとめる意。 ・須:…すべきである。…する必要がある。…せねばならぬ。すべからく…べし。 ・万世:よろずよ。永久。万代。限りなく何代も続く永い世。
※況当虎呑狼噬際:まして(西洋列強が)侵略してくる時にあたっては。 ・況:まして。いわんや。 ・況当:まして…にあたっては。中唐・魚玄機の『秋愁』に「自歎多情是足愁,況當風月滿庭秋。洞房偏與更聲近,夜夜燈前欲白頭。」とある。 ・呑噬:〔どんぜい;tun1shi4○●〕飲んだり噛んだりする。(大きな口で)飲み込む。丸のみにする。他国を侵略する(秦のような国。この詩の場合は、西洋列強を指す)。『史記・屈原賈生列傳』に「懷王欲行,屈平曰:『秦虎狼之國,不可信,不如毋行。』」(中華書局版629ページ 屈原賈生列傳第二十四 二四八四頁)とある。「虎呑狼噬」は「呑噬」の互文表現の一。「虎が飲み込んだり、狼が咬んだりする残忍なさま」の形容。「虎呑狼噬」は、「虎狼呑噬」と異なる。「虎呑狼噬」という情況の形容である「S1+V1,S2+V2」の互文のいいまわしに対して、「虎狼呑噬」は、事実を述べている。方向詞、対義語、反義語から構成された主語+述語構造のとき、その形容する表現として、この互文表現が見受けられる。現代・毛澤東の『人民解放軍占領南京』に「鍾山風雨起蒼黄,百萬雄師過大江。虎踞龍盤今勝昔,天翻地覆慨而慷。宜將剩勇追窮寇,不可沽名學覇王。天若有情天亦老,人間正道是滄桑。」
とある「虎踞龍盤」は地勢の険峻なさまの形容で、竜虎が蟠踞する(とぐろを巻き、うずくまっている)ような状態の形容。この表現は、白居易の『長恨歌』「天長地久」
や辛棄疾の『念奴嬌』「我來弔古」
にも見られる
。
※齷齪無用守其疆:(大所高所から物事を判断すべきであって、)細かく狭くこせついて自藩の藩境だけを守備しているようなことは、止めるようにする。 ・齷齪:〔あくさく(あくせく)wo4chuo4●●〕こせつくさま。事が細かく狭いさま。おしせまるさま。心にゆとりがなく、目先にだけ心をうばわれたように、せわしく事を行なうさまを表わす。南朝・宋・鮑照の『代放歌行』に「蓼蟲避葵菫,習苦不言非。小人自齷齪,安知曠士懷。鶏鳴洛城裏,禁門平旦開。冠蓋縱橫至,車騎四方來。素帶曳長飆,華纓結遠埃。日中安能止,鐘鳴猶未歸。夷世不可逢,賢君信愛才。明慮自天斷,不受外嫌猜。一言分圭爵,片善辭草莱。豈伊白璧賜,將起黄金臺。今君有何疾,臨路獨遲回。」とあり、中唐・孟郊の『登科後』に「昔日齷齪不足誇,今朝放蕩思無涯。春風得意馬蹄疾,一日看盡長安花。」とあり、江戸末期・佐久間象山の『題那波利翁像』に「何國何代無英雄,平生欽慕波利翁。邇來杜門讀遺傳,怱怱不知年歳窮。撫劍仰天空慨憤,世人那得察吾衷。如今邊警日復月,戰船來去海西東。外蕃學藝老且巧,我獨遊戲等孩童。守株未知師他長,矮舟誰能操元戎。嗟君原是一書生,苦學遂能長明聰。一朝照破當時敝,革敝除害民情從。旌旗所向如靡草,威信普加歐羅中。元主西征不足道,豐公北伐何得同。人生得意多失意,大雪翻手朔北風。帝王事業雖未終,收爲我將應有庸。世人心竅小於豆,齷齪寧知英雄胸。自奮能成遠大計,自屈難樹廓清功。安得起君九原下,同謀戮力驅奸兇。終卷五洲歸皇朝,皇朝永爲五洲宗。」
とある。 ・疆:〔きゃう;jiang1○〕境界。国境。
※青山到処骨可埋:青々と草木の茂った山のどこにでも、(自分の)骨を埋めてもよいのだ。 ・青山:青々と草木の茂った山。また、墓所とする山。墓所。また、隠棲するに相応しい青い木の茂った山。ここは、前者の意。幕末・釋月性の『將東遊題壁』に「男兒立志出郷關,學若無成不復還。埋骨何期墳墓地,人間到處有靑山。」とあり、南唐後主・李煜の『開元樂』に「心事數莖白髪,生涯一片靑山。空林有雪相待,古路無人獨還。」
とあり、南宋・林升の『題臨安邸』に「山外靑山樓外樓,西湖歌舞幾時休。暖風薫得遊人醉,直把杭州作
州。」
とあり、杜牧の『寄揚州韓綽判官』に「靑山隱隱水遙遙,秋盡江南草木凋。二十四橋明月夜,玉人何處敎吹簫?」
とあり、両宋・朱淑眞の『江城子』に「斜風細雨作春寒。對尊前,憶前歡,曾把梨花,寂寞涙闌干。芳草斷煙南浦路,和別涙,看靑山」
とあり、北宋・蘇軾の『澄邁驛通潮閣』「餘生欲老海南村,帝遣巫陽招我魂。杳杳天低鶻沒處,青山一髮是中原。」
とある。 ・到処:いたるところに。方々に。どこにでも。 ・骨可埋:(自分の)骨を埋めてもよい、の意。(そこで)死んでも構わない、の意。
※誰為一朝卜枯栄:(一体)だれが、ひと朝(=一時(いっとき))のために、(国家の)栄枯盛衰を賭けてもよいものだろうか。 ・為:〔ゐ;wei4●〕…のために。 ・一朝:ひと朝。ある朝。=一旦。また、朝早く。早朝。 ・卜:〔ぼく;bu3●〕予測する。推(お)し量(はか)る。占う。 ・枯栄:草木の茂ると枯れると。転じて、人や家の栄えるとと衰えると。=盛衰。=栄枯盛衰。ここを「枯栄」として「栄枯」としないのは、「栄」を韻脚として使うため。
※男児所要在機先:男たるべき者は、相手に先んじて事を起こそうとするのが必要なことである。 ・男児:男。男たるべき者。男らしい男。また、男の子。前出・釈月性の『將東遊題壁』に「男兒立志出郷關,學若無成不復還。埋骨何期墳墓地,人間到處有靑山。」(或いは「男兒立志出郷關,學若無成死不還。埋骨何期(豈惟)墳墓地,人間到處有靑山。」
を基にしている。なお、この詩題は、後に人に因ってつけられたものであり、別の題名のもある。 ・所-:…ところ。…こと。…とき。動詞の前に附き、その動詞を名詞化する働きがある。 ・機先:物事のきざし。相手に先んじて(行動を起こすこと)。相手に先んじて事を起こそうとする直前。
※好揚汝鞭試啓行:よし、君の(馬の)鞭を振り上げて、旅立ちをしてみないか。 ・好:よし。いいだろう。中唐の韓愈に『左遷至藍關示姪孫湘』「一封朝奏九重天,夕貶潮州路八千。欲爲聖明除弊事,肯將衰朽惜殘年。雲橫秦嶺家何在,雪擁藍關馬不前。知汝遠來應有意,好收吾骨瘴江邊。」とあり、中唐・柳宗元の『再上湘江』に「好在湘江水,今朝又上來。不知從此去,更遣幾年迴。」
とある。(後者は「好在」の用例になるか。) ・揚:あげる。 ・汝:おまえ。なんぢ。 ・試:こころみに。 ・啓行:出発する。旅立つ。「啓」は:ひらく、の意で、「行」は:旅、道(みち)、の意。
※一葦纔西大陸通:(旅の道程とは:)一艘の小舟で、わずかに西に向かえば大陸に通じ。 ・一葦:一艘の小舟。 ・葦:〔ゐ;wei3●〕こぶね。小さい舟。本来の意はアシ。ヨシ。北宋・蘇軾の『前赤壁賦』に「壬戌之秋,七月既望,蘇子與客泛舟遊於赤壁之下。清風徐來,水波不興。擧酒屬客,誦『明月』之詩,歌『窈窕』之章。少焉,月出於東山之上,徘徊於斗牛之間。白露橫江,水光接天。縱一葦之所如,凌萬頃之茫然。浩浩乎如馮虚御風,而不知其所止;飄飄乎如遺世獨立,羽化而登仙。於是飮酒樂甚,扣舷而歌之。歌曰:「桂櫂兮蘭槳,撃空明兮泝流光。渺渺兮予懷,望美人兮天一方。」客有吹洞簫者,倚歌而和之。其聲鳴鳴然,如怨如慕,如泣如訴;餘音嫋嫋,不絶如縷,舞幽壑之潛蛟,泣孤舟之嫠婦。蘇子愀然,正襟危坐而問客曰:「何爲其然也?」客曰:「『月明星稀,烏鵲南飛,』此非曹孟德之詩乎?西望夏口,東望武昌,山川相繆,鬱乎蒼蒼,此非孟德之困於周郞者乎?方其破荊州,下江陵,順流而東也,舳艫千里,旌旗蔽空,釃酒臨江,橫槊賦詩,固一世之雄也,而今安在哉?況吾與子漁樵於江渚之上,侶魚蝦而友麋鹿,駕一葉之輕舟,擧匏樽以相属;寄蜉蝣於天地,渺滄海之一粟。哀吾生之須臾,羨長江之無窮。挾飛仙以遨遊,抱明月而長終。知不可乎驟得,託遺響於悲風。」蘇子曰:「客亦知夫水與月乎?逝者如斯,而未嘗往也;盈虚者如彼,而卒莫消長也。蓋將自其變者而觀之,則天地曾不能以一瞬;自其不變者而觀之,則物與我皆無盡也。而又何羨乎!且夫天地之間,物各有主,苟非吾之所有,雖一毫而莫取。惟江上之淸風與山間之明月,耳得之而爲聲,目遇之而成色。取之無禁,用之不竭,是造物者之無盡藏也,而吾與子之所共適。」客喜而笑,洗盞更酌。肴核既盡,杯盤狼藉。相與枕藉乎舟中,不知東方之既白。」とある。 ・纔:わずかに。 ・西:西に向かって行く。にしする。動詞。
※鴨緑送処崑崙迎:(西へ進んで、)鴨緑江を見送れば、崑崙の山が見え出すのだ。 ・鴨緑:〔あふりょく;Ya1lu4○●〕鴨緑江のこと。現在では中国と朝鮮の国境を西に流れる川。長白山(白頭山)が源で、黄海に注ぐ。『中国歴史地図集』第六冊 宋・遼・金時期(中国地図出版社)48-49ページ「上京路 東京路」にある。曽て金と高麗の国境は婆速路(現・丹東)より真東に延びており、現・北朝鮮北部の山岳地帯は金の東京路の婆速路だった。なお、唐代でも同様で、『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)78-79ページ「渤海」鴨淥府・南海府で、北部山岳地帯は新羅ではない。南宋・陸游の『書事』に「鴨綠桑乾盡漢天,傳烽自合過祁連。功名在子何殊我,惟恨無人快著鞭。」とあり、江戸・頼山陽の『裂封册』に「史官讀到日本王,相公怒裂明册書。欲王則王吾自了,朱家小兒敢爵余。吾國有王誰覬覦。叱咤再蹀八道血,鴨綠之流鞭可絶。地上阿鈞不相見,地下空唾恭獻面。」
とあり、明治・篠原國幹の『逸題』に「飮馬綠江果何日,一朝事去壯圖差。此閒誰解英雄恨,袖手春風詠落花。」
とあり、明治・江藤新平の『逸題』に「欲掃胡塵盛本邦,一朝蹉跌臥幽窗。可憐半夜蕭蕭雨,殘夢猶迷鴨綠江。」
とある。 ・崑崙:〔こんろん;Kun1lun2○○〕崑崙山。クンルン山。青海省の西に実在する大山脈。天山山脈の南側を、タクラマカン(塔克拉瑪干)砂漠を夾んで、東西に走る大山脈。中華の根元としての霊山で、美玉を産したところという。神話に基づく山の名でもあり、西方の奥深い山々の彼方にある楽土で、西王母が住み、瑶池があるといわれた。周の穆王も、斉天大聖(孫悟空)も来たとされるところ。黄河の発するところともされている。これらから、中華の源、根元という意味が生まれた。盛唐・岑参の『胡笳歌送顏眞卿使赴河隴』に「君不聞胡笳聲最悲,紫髯綠眼胡人吹。吹之一曲猶未了,愁殺樓蘭征戍兒。涼秋八月蕭關道,北風吹斷天山艸。崑崙山南月欲斜,胡人向月吹胡笳。胡笳怨兮將送君,秦山遙望隴山雲。邊城夜夜多愁夢,向月胡笳誰喜聞。」
とあり、南宋・張元幹の『賀新郞』送胡邦衡待制赴新州に「夢繞神州路。悵秋風、連營畫角,故宮離黍。底事崑崙傾砥柱,九地黄流亂注。聚萬落、千村狐兔。天意從來高難問,況人情、老易悲難訴。更南浦,送君去。涼生岸柳催殘暑。 耿斜河、疏星淡月,斷雲微度。萬里江山知何處,囘首對牀夜語。雁不到、書成誰與?目盡靑天懷今古,肯兒曹、恩怨相爾汝。舉大白,聽、金縷。」
とある。
※秋草漸老馬晨嘶:(その地は、)秋の草がだんだんと年を取って、馬は朝に嘶いており。 *この「秋草漸老馬晨嘶,天際無雲地茫茫」の聯、或いは「満洲・蒙古の曠野には軍馬が揃っており、(彼等と協力して、遠く西洋に攻め込もうではないか!)」の意も窺えるか。 ・漸老:だんだんと年を取る、の意。盛唐・杜甫の『絶句漫興』に「二月已破三月來,漸老逢春能幾囘。莫思身外無窮事,且盡生前有限杯。」とある。南唐後主・李煜の『柳枝詞』に「風情漸老見春羞,到處消魂感舊遊。多謝長條似相識,強垂煙穗拂人頭。」
とある。 ・晨:朝。朝(あした)。 ・嘶:いななく。
※天際無雲地茫茫:空の果てに雲は無く、地は果てしなく広々としている。 ・天際:天の果て。空の果て。水平線の彼方。謝の『宣城郡出新林浦向板橋』に「江路西南永,歸流東北鶩。天際識歸舟,雲中辯江樹。旅思倦搖搖,孤遊昔已屡。既歡懷祿情,復協滄洲趣。囂塵自茲隔,賞心於此遇。雖無玄豹姿,終隱南山霧。」とあり、盛唐・李白の『黄鶴樓送孟浩然之廣陵』に「故人西辭黄鶴樓,煙花三月下揚州。孤帆遠影碧空盡,惟見長江天際流。」
とあり、北宋・柳永の『蝶戀花』に「佇倚危樓風細細,望極春愁,黯黯生天際。草色煙光殘照裏,無言誰會憑欄意。擬把疏狂圖一醉,對酒當歌,強樂還無味。衣帶漸寬終不悔,爲伊消得人憔悴。」
とあり、同・柳永の『八聲甘州』に「對瀟瀟、暮雨灑江天,一番洗淸秋。漸霜風淒慘,關河冷落,殘照當樓。是處紅衰翠減,苒苒物華休。惟有長江水,無語東流。不忍登高臨遠,望故鄕渺,歸思難收。歎年來蹤迹
,何事苦淹留。想佳人、妝樓
望,誤幾回、天際識歸舟。爭知我、倚闌干處,正恁凝愁。」
とある。 ・茫茫:〔ばうばう;mang2mang2○○〕遥かなさま。ぼんやりとしてはっきりとしないさま。果てしなく広々としているさま。『古詩十九首之十一』の「廻車駕言邁,悠悠渉長道。四顧何茫茫,東風搖百草。所遇無故物,焉得不速老。盛衰各有時,立身苦不早。人生非金石,豈能長壽考。奄忽隨物化,榮名以爲寶。」
や、東晋・陶淵明の『挽歌詩其三』「荒草何茫茫,白楊亦蕭蕭。嚴霜九月中,送我出遠郊。」
とあり、東晉・陶潛『擬古・九首』其四「迢迢百尺樓,分明望四荒。暮作歸雲宅,朝爲飛鳥堂。山河滿目中,平原獨茫茫。古時功名士,慷慨爭此場。一旦百歳後,相與還北
。松柏爲人伐,高墳互低昂。頽基無遺主,遊魂在何方。榮華誠足貴,亦復可憐傷。」
とあり、盛唐・劉長卿の『平蕃曲』に「渺渺戍煙孤,茫茫塞草枯。隴頭那用閉,萬里不防胡。」
とあり、北宋・蘇軾の『江城子』乙卯正月二十日夜記夢には「十年生死兩茫茫,不思量。自難忘。千里孤墳,無處話淒涼。縱使相逢應不識,塵滿面,鬢如霜。 夜來幽夢忽還鄕。小軒窗,正梳妝。相顧無言,惟有涙千行。料得年年腸斷處,明月夜,短松岡。」
とある。
※嗚呼予二十七将終一生半:ああ、わたしは二十七になり、一生の半ばを終えようとしている(が)。 ・嗚呼:〔うこ;wu1hu1○○〕ああ。嘆きの声。感嘆の声。 ・予:われ。自称の代名詞。=余。 ・二十七:二十七歳になる。「二十七」との表記で、「二十七となる」という動詞的な意味を持つ。作者・西郷隆盛の二十七歳の時は、安政元年(1854年)。ペリー来航の年で、攘夷問題が起き始めた頃。
※肺肝其能何処傾:心の奥底をどこで、吐露できるのだろうか。 ・肺肝:〔はいかん;fei4gan1●○〕肺臓と肝臓。転じて、心の奥底。真情。まごころ。 ・能:よく。 ・何処:どこ。いづこ。
※感来睥睨長風外:感じることがあって、遠くから吹き渡ってくる風の向こうをにらんで(おれば)。 ・睥睨:〔へいげい;bi4ni4●●〕にらむ。流し目でにらむ。 ・長風:遠くから吹き渡ってくる風。遠くまで吹いてゆく強い風。盛唐・李白の『宣州謝脁樓餞別校書叔雲』に「棄我去者 昨日之日不可留,亂我心者 今日之日多煩憂。長風萬里送秋雁,對此可以酣高樓。蓬莱文章建安骨,中間小謝又清發。倶懷逸興壯思飛,欲上青天覽明月。抽刀斷水水更流,舉杯銷愁愁更愁。人生在世不稱意,明朝散髮弄扁舟。」とある。
※月自東洋照西洋:月は東洋の方から、西洋を照らしている(ではないか)。 *作者は帝国主義の時代の西洋と東洋の関係を念頭に置いて、「東洋優位」の場面を描きたかったか。毛沢東は曽て「東風壓倒西風」と言った。この場合の「東風」は社会主義陣営のことであり、「西風」は資本主義・自由主義国家群のこと。 ・自:…から。…より。
***********
◎ 構成について
韻式は、「AAAAAAAAAA」。韻脚は「長輕名疆榮行迎茫傾洋」で、平水韻下平七陽(長疆茫洋)・八庚(輕名榮行迎傾)の通韻。なお、陽韻は、庚韻と通用しない独用(のはず)。実際にこのホームページ『詩詞世界』上の詩では、陽韻と庚韻とが通韻している用例は無い(と思う)。この作品の平仄は、次の通り。
○○●●○,(韻)
●○●○○。(韻)
●●○●○●●,
○○○○●●○。(韻)
●◎●○○●●,
●●○●●○○。(韻)
○○●●●●○,
○●●○●●○。(韻)
○○●●●○○,
●○●○●●○。(韻)
●●○○●●○,
●●●●○○○。(韻)
○●●●●○○,
○●○○●○○。(韻)
○○◎●●●○○●○●,
●○○○○●○。(韻)
●○●●○○●,
●●○○●○○。(韻)
平成28.1.12 1.13 1.14 1.15 1.16 |
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