twnovelまとめ


10/10 01:14

011「的」
 小便器に的がついている。ここを狙うと外に漏らさずに済みますよ、というつもりで貼ってあるらしい。なるほど目標があると狙いたくなるもので、朝の荻窪駅の公衆便所では6人分の尿が集中した。乾坤一擲、濁流は渦をまいて東京の地下にもぐりこみ、じわじわと地殻を押している。
012「詐欺」
 勝手口を開けるとこだぬきがいる。「すみませんおなかへったです」「ハムなんかどうだろうね」「ハムは塩分が勝ちすぎるのでお肉がいいです」牛乳、ばら肉に大正えびと冷蔵庫のものをあらかた平らげ、ご丁寧に昼寝までして出ていく詐欺が流行っている。被害者はみんな幸せそうだが。
10/11 14:11

013「むかしむかし」
 昔々あるところにおじいさんとおばあさんとおじいさんとおばあさんとおじいさんとおばあさんとおじいさんとおばあさんとおじいさんとおばあさんとおじいさんとおばあさんがいたが全員親族であつた。下は75歳、上は387歳。ゾウガメたちは草地に並んで日向ぼつこをしてゐる。
014「スターを生む職業」
 往年のスターを育て続けた敏腕プロデューサーがいたが、寄る年波には勝てずとうとう臨終の際となった。「幸せな一生だった。生まれ変わってもスターを生み出す仕事がしたい」と逝って四十九日、生まれ変わった先がキューピーのマヨネーズ。使われてみてプロデューサー「なるほど」。
015「ボブソン」
 ボブソンは自分の禿に悩んでいたが夢に女神が現れたのでとっつかまえて「なんとかしろ」と脅すことしばし、世界中の人間の頭髪が抜け落ちてみんな禿になった。めでたしめでたしと思いきや神懸り的緊急に毛生え薬が開発され、全員が髪の毛を取り戻した挙句ボブソンは袋叩きにあった。
016「鼻の脂」
 禅智内供の鼻の脂は、自分がカフカであることに気づいた。カフカである以上はプラハに帰って色々の執筆をしたいと思ったが鼻の脂ゆえどうすることもできぬ。せめて尺取るように動ければと思えど致し方なく、家の脇の屑入れにへばりついていた。嗚呼! せめてゴーゴリであったなら。
017「世界の金言」
 人生で必要なものは無知と自信だけだ。これだけで、成功は間違いない。けど腹は減るし旅先では母ちゃんのことも思い出す。ついでになんだ、水がないと人間干からびちまうしスニッカーズのひとつもつまみたくなるってもんだ。いっそのこと引き篭っているがいいや―マーク・トウェイン

10/12 18:16

018「出会い系」
 息子が出会い系で知り合った彼氏をつれてくるという。もういまさら息子の性癖についてとやかく云うつもりはないが、しかして出会い系はないだろう……と思ったら二人して武士装束で刀ァ腰に差してやってきた。バイトの帰りか――「だから出会え系」「出会え系?」「最初に斬られる」

10/13 01:23

019 「宗匠の旅」
 宗匠芭蕉68歳、コンゴ山地を旅したときの話である。老骨に鞭打った旅はそれはそれは過酷なものであったが、とりわけ危険だったのがマウンテンゴリラのテリトリーに入った時のことである。現地のガイドに助けられてほうほうの体の宗匠一句「山笑ふゴリラに襲われちゃあかなわない」
020「太宰の爪痕」
 上水には太宰しゃんの爪痕がいまだに残っているんにゃが、これが大雨のたびに少しずつ下流にいごいているようなんだんす。ゆくゆくは神田川の六畳一間に食い込むか、海底に食い込んで関東直下型地震を留めるか――ああン、ンダスゲマイネ!





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