twnovelまとめ


2009/11/9

091「森のくまさん」
 ある日森の中、くまさんに出会った。しゃくれてた。
092「ふるいようかん」
 鬱蒼とした森を抜けると黒い羊羹が聳えていた。モノリスといってもわかる人にはわかるがわからない人にはわかるまい。とにかくも、蜜に濡れて黒光りしたつやつやぷるぷるの古い羊羹が。弟切草に囲まれて。無数の蟻にも囲まれて。これこそ、大自然の奇跡か、単なる誤字だと思われた。
2009/11/10
093「その名はスイーパー」
 スイーパーと呼ばれる外野手がいた。打撃成績は年間通して.265、ホームラン8本、打点35とやや頼りないが、俊足に狙撃手の名に恥じぬ強肩とコントロールの悪さは相手ベンチの四番を、監督を、次の回にむけ肩をつくる投手をも餌食にした。後、22世紀の格闘技野球の父である。
094「メロス」
 メロスは激怒した。「は、話が違うだろう。さきっちょだけでいいんだ、セリヌンティウス」「血迷うな、神に賜ったこの身体、運命の人と添うまでは」「そういう堅物なところがたまらん」「だからよせ! よせってば」駄目だ。ナニが書きたかったかがよくわからない。作者が血迷った。
095「うまし」
 高架下がトンネル状の飲み屋街になっている。角提灯に「うまし」とだけ毫してある屋台があるが、品書きには酒だけしか書いていない。店の奥から次々に出てくるのは革靴にゴムのアヒル、蝋細工の果物、洗濯板。流し台まで小分けに皿に載って出る。しかもこれらが全部美味いから困る。
096「天下り」
 農水省を退官した私の天下り先はランプの魔神であった。デスクが窮屈なことを除けば、用が無い限りずっと趣味の囲碁に没頭しつつ給料がもらえるのだからこの上ない。たまに外に呼ばれてみれば険悪な仲の村からそれぞれ駆け落ちした男女二人。よしよし。国税から家を買ってあげよう。
2009/11/11

097「いしや」
 「いしやー」「いしやー」「いしやー」……と、どうもCDの針が飛んでいるらしい。「きいもー」まで出してくれないで延々と「いしやー」ばかりではスコブル気持ちが悪い。たまらぬ。何故直さない。直し方が解らないのですか。頭が悪いのですか。我慢できずに窓を開ける。石屋だよ!
098「フィドル弾き」
 橋のたもとには初老のフィドル弾きがいて、痩せこけた身体で一生懸命に「藁の中の七面鳥」なんかをやろうとする。その必死さがまずは可笑しいのだけれども、演奏が終わっておひねりでいっぱいになった空き缶を、ハムの化け物のような女房が掻っ攫って去っていくのもこれまた面白い。
099「馬の骨」
 「どこの馬の骨とも判らぬやつに娘はやれるか!」とはいうもののお父さん。現在、日本に流通する「娘の彼氏」の内73%は栗東産の馬の骨を原料にして作られています。昔ながらの気骨や武骨といった素材は養殖できませんし、なにぶん現在の娘さんたちには「超ウゼえ」との評判です。
100「メロンは走らず」
 メロンは確保した。必ず、中のプチ☆ ゴージャスな種を除かなければならぬ。メロンには政治がかかわる。メロンは村の特産である。霧を噴き箱に入れられ送られて来た。けれども熟度に対しては人一倍に敏感であった。今日未明メロンは村から出荷され、野越え山越え十里離れた家にきた。






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