古詩十九首之十三

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

驅車上東門， 遙望郭北墓。 白楊何蕭蕭， 松柏夾廣路。 下有陳死人， 杳杳即長暮。 潛寐黄泉下， 千載永不寤。 浩浩陰陽移， 年命如朝露。 人生忽如寄， 壽無金石固。 萬歳更相送， 賢聖莫能度。 服食求�~仙， 多爲藥所誤。 不如飮美酒， 被服與素。

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　　　　　　　 古詩十九首の十三

車を　上東門に　驅（か）り，
遙かに　　郭北の墓を　望む。
白楊　　何ぞ　蕭蕭（せうせう）たる，
松柏　　廣路を　夾む。
下に　陳死の人　有りて，
杳杳（えうえう）として　　長暮に 即（つ）く。
黄泉の下に　　潛（ひそ）み寐（い）ねて　　，
千載　　永く　寤（さ）めず。
浩浩（かうかう）として　　陰陽　移り，
年命　　朝露（てうろ）の如し。
人生　　忽（こつ）として　寄するが如く，
壽に　　金石の固き　無し。
萬歳　　更（こもご）も 相ひ送り，
賢聖　　能く 度る　莫（な）し。
服食して　　�~仙を 求むれど，
多くは　　藥の誤る所と　爲る。
如（し）かず　　美酒を 飮みて，
（ぐゎん）と 素（そ）とを　被服するに。

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◎　私感訳註：

※古詩十九首之十三：『古詩十九首』は、哀しみを帯びた人生の諸相を詠うが、この部分は、人の死に去ることの描写になる。

※驅車上東門：馬車を出して、洛陽の城門の上東門（の外へ行き）。　*後世、唐・李商隱が『登樂遊原』「向晩意不適，

。夕陽無限好，只是近黄昏。」 と、使われている。李商隠の詩句「駆車・登・古原」で、この『古詩十九首』の節奏も同様とすると、「驅車・上・東門」となり、李商隱は少なくともこう思って『登樂遊原』 を作ったのではないか。勿論、「上東門」は固有名詞で、洛陽城の東北の門の名。　・驅車：〔くしゃ；qu1che1（ju1）○○〕車を駆って。馬車に乗る。馬車を出す。　・上東門：〔じゃうとうもん；Shang4dong1-men2●○○〕洛陽城の城門の名。宮城の遥か東の方にある城門で、洛陽城の東北の門。『舊唐書・本紀・哀帝』「是日斬于上東門外。」とあり、「〔動詞〕于……外。」という構文では「上東門」が場所名になり、李商隱の『登樂遊原』での用法とは異なる。

※遙望郭北墓：遥かに、（洛陽城の）城郭の北（にある北山の）墓地をながめる。　・遙望：遥かに…をながめる。　・郭北：城北。城郭の北側。街の北側。ここでは、洛陽城の北にある北山のことを指す。北山は墓地が連なる山。洛陽のすぐ北にある。嘗て洛陽の貴人が亡くなった時ここに葬ったという。墓山。普通名詞が固有名詞に変わっていった好例。　・墓：前出、北山の墓。無常の地として、ずっと使われる。後漢・梁鴻の『五噫歌』「陟彼北芒兮，噫！顧覽帝京兮，噫！宮室崔嵬兮，噫！民之劬勞兮，噫！遼遼未央兮，噫！」 や、魏・阮籍の『詠懷詩』其十「昔年十四五，志尚好書詩。被褐懷珠玉，顏閔相與期。開軒臨四野，登高望所思。丘墓蔽山岡，萬代同一時。千秋萬歳後，榮名安所之。乃悟羨門子，今自嗤。」 や、東晉・陶潛『擬古・九首』其四「迢迢百尺樓，分明望四荒。暮作歸雲宅，朝爲飛鳥堂。山河滿目中，平原獨茫茫。古時功名士，慷慨爭此場。一旦百歳後，相與還北。松柏爲人伐，高墳互低昂。頽基無遺主，遊魂在何方。榮華誠足貴，亦復可憐傷。」 、唐・劉希夷（劉廷芝）『公子行』「天津橋下陽春水，天津橋上繁華子。馬聲迴合青雲外，人影動搖�鵠g裏。�鵠g蕩漾玉爲砂，青雲離披錦作霞。可憐楊柳傷心樹，可憐桃李斷腸花。此日遨遊邀美女，此時歌舞入娼家。娼家美女鬱金香，飛去飛來公子傍。的的珠簾白日映，娥娥玉顏紅粉妝。花際裴回雙蝶，池邊顧歩兩鴛鴦。傾國傾城漢武帝，爲雲爲雨楚襄王。古來容光人所羨，況復今日遙相見。願作輕羅著細腰，願爲明鏡分嬌面。與君相向轉相親，與君雙棲共一身。願作貞松千歳古，誰論芳槿一朝新。百年同謝西山日，千秋萬古北

。」 や、唐・沈期の『山』「

北山上

列墳塋，萬古千秋對洛城。城中日夕歌鐘起，山上唯聞松柏聲。」 にも歌われている。

※白楊何蕭蕭：ハコヤナギは、何ともの寂しげであることか。　・白楊：ハコヤナギ。墓地の樹木。前出・陶淵明の『挽歌詩其三』「荒草何茫茫，白楊亦蕭蕭。嚴霜九月中，送我出遠郊。」や『古詩十九首之十四』「去者日以疎，來者日以親。出郭門直視，但見丘與墳。古墓犁爲田，松柏摧爲薪。

多悲風，蕭蕭愁殺人。思還故里閭，欲歸道無因。」前出陶潛『擬古・九首』其四「松

爲人伐，高墳互低昂。」 とある。　・何：なんと。感歎を表す。　・蕭蕭：〔せうせう：xiao1xiao1○○〕風がもの寂しく吹くさま。本来は、深く静かなことになるが、屡々風の形容として使われる。燕・荊軻『易水歌』「風蕭蕭兮易水寒，壯士一去兮不復還。」とあり、漢・無名氏の『古歌』には「秋風蕭蕭愁殺人，出亦愁，入亦愁。座中何人，誰不懷憂。令我白頭。胡地多飆風，樹木何修修。離家日趨遠，衣帶日趨緩。心思不能言，腸中車輪轉。」『古詩十九首之十四』「去者日以疎，來者日以親。出郭門直視，但見丘與墳。古墓犁爲田，松柏摧爲薪。白楊多悲風，

愁殺人。思還故里閭，欲歸道無因。」とある。

※松柏夾廣路：マツやコノテガシワの木は、広い道を夾（はさ）んでいる。　・松柏：〔しょうはく；song1bo2（bai3）○●〕マツやコノテガシワの木。墓場に植えられた常緑の樹木。陶潜の詩『諸人共游周家墓柏下』「今日天氣佳，清吹與鳴彈。感彼柏下人，安得不爲歡。」、や劉希夷の『白頭吟』（代悲白頭翁）「今年花落顏色改，明年花開復誰在。已見松柏摧爲薪，更聞桑田變成海。」に墓場の樹木の意で出てくる。前出陶潛『擬古・九首』其四「松柏爲人伐」 や、前出・沈期の『山』「北山上列墳塋，萬古千秋對洛城。城中日夕歌鐘起，山上唯聞

聲。」 に同じ。　・夾：〔けふ；jia1●〕はさむ。並木状に植えられているさまを謂う。　・廣路：（墓場の中の）広い道。

※下有陳死人：（その木の）下には、昔に死んだ人が葬られていて。　・陳死：昔に死んだ。　・陳：〔ちん；chen2○〕古い。また、列ねる。並ぶ。ここでは、前者の意。

※杳杳即長暮：暗く深く、長夜についている。　・杳杳：〔えうえう；yao3yao3●●〕（日の出前や日没後、）暗い。深い。奥深い。遥か。　・即：〔そく；ji2●〕就く。（それと一つになるように）つく。　・長暮：死んで葬られること。とこしえに暗い墓室の中にいること。長夜。

※潛寐黄泉下：黄泉（よみ）に、ひそやかにねむっており。　・潛寐：〔せんび；qian2mei4○●〕ひそやかにねむっている。　・寐：〔び；mei4●〕寝入る。ねる。ねむる。これと対になる語が後出の「寤」になる。　・黄泉：〔くゎうせん；huang2quan2○○〕よみ。よみじ。死後の国。地面の下にある死者が行くところ。　・下：もと。感覚的に下方にあるところ。漢魏・繆襲の『挽歌詩』「生時遊國都，死沒棄中野。朝發高堂上，暮宿

。白日入虞淵，懸車息駟馬。造化雖神明，安能復存我。形容稍歇滅，齒髮行當墮。自古皆有然，誰能離此者。」 や、前出『諸人共游周家墓柏下』の「感彼柏

人」に同じ。

※千載永不寤：千年、永劫の時間から目覚めることはない。　・千載：千年。永劫の時間。陶潜の『己酉歳九月九日』「靡靡秋已夕，淒淒風露交。蔓草不復榮，園木空自凋。清氣澄餘滓，杳然天界高。哀蝉無留響，叢雁鳴雲霄。萬化相尋繹，人生豈不勞。從古皆有沒，念之中心焦。何以稱我情，濁酒且自陶。千載非所知，聊以永今朝。」）や、『挽歌詩』其一「有生必有死，早終非命促。昨暮同爲人，今旦在鬼録。魂氣散何之，枯形寄空木。嬌兒索父啼，良友撫我哭。得失不復知，是非安能覺。千秋萬歳後，誰知榮與辱。但恨在世時，飮酒不得足。」や、『挽歌詩』其三「荒草何茫茫，白楊亦蕭蕭。嚴霜九月中，送我出遠郊。四面無人居，高墳正嶢。馬爲仰天鳴，風爲自蕭條。幽室一已閉，千年不復朝。千年不復朝，賢達無奈何。向來相送人，各自還其家。親戚或餘悲，他人亦已歌。死去何所道，託體同山阿。」に同じ。　・永：永遠に。　・寤：〔ご；wu4●〕目が覚める。さめる。これと対になる語が前出の「寐」になる。

※浩浩陰陽移：遥かに広く、年月が移りすぎてゆき。　・浩浩：〔かうかう；hao4hao4●●〕遥かに続くさま。広大なさま。『楚辞』の屈原の『九章・懷沙』の乱「亂曰：

湘，分流汨兮。脩路幽蔽，道遠忽兮。懷質抱情，獨無匹兮。伯樂既沒，驥焉程兮？民生稟命，各有所錯兮。定心廣志，余何所畏惧兮？曾傷爰哀，永歎喟兮。世溷濁莫吾知，人心不可謂兮。知死不可讓，願忽愛兮。明告君子，吾將以爲類兮。」 に使われている。　・陰陽（移）：「月と日」や「冬と夏」の陰陽の二気（が互いに消長して調和をとりながら推移すること）。年月（が推移すること）。

※年命如朝露：人のいのちは、朝露のよう（に儚（はかな）いもの）である。　・年命：いのち。寿命。　・如：…のようである。　・朝露：〔てうろ；zhao1lu4○●〕朝に置く露。儚いもの、短い命の喩え。漢・古樂府『長歌行』「青青園中葵，

待日晞。陽春布�ｺ澤，萬物生光輝。常恐秋節至，焜黄華葉衰。百川東到海，何時復西歸。少壯不努力，老大徒傷悲。」 漢の『薤露歌』には「薤上

，何易晞。露晞明朝更復落，人死一去何時歸。」とあり、はかなさを表すものであり、『薤露歌』は、葬送の歌でもある。後世、魏武帝曹操の『短歌行』で「對酒當歌，人生幾何。譬如朝露，去日苦多。慨當以慷，憂思難忘。何以解憂，唯有杜康。」 と歌われている

※人生忽如寄：人が生きていても、忽ちのうちに（死は）せまりよせてくる。　・人生：人が生きている。　・忽：〔こつ；hu1●〕たちまちに。　・寄：〔き；ji4●〕せまる。よせる。また、仮住まいする。ここでは、前者の意。漢樂府『蒿里曲』での「蒿里誰家地，聚斂魂魄無賢愚。鬼伯一何

，人命不得少踟。」に該ろう。

※壽無金石固：人の寿命は、金石のような堅固さはない。　・壽：いのち。生命。寿命。　・金石：金属と岩石。堅固な肉体の譬喩。『古詩十九首之十一』に「廻車駕言邁，悠悠渉長道。四顧何茫茫，東風搖百草。所遇無故物，焉得不速老。盛衰各有時，立身苦不早。人生非

，豈能長壽考。奄忽隨物化，榮名以爲寶。」、陶潛『飮酒』其十一「顏生稱爲仁，榮公言有道。屡空不獲年，長飢至於老。雖留身後名，一生亦枯槁。死去何所知，稱心固爲好。客養

躯，臨化消其寶。裸葬何必惡，人當解意表。」とある。　・固：かたい。堅固である。

※萬歳更相送：永遠に、こもごもに（人は入れ替わりながら、生者が先に死んだ者を葬儀で）見送っている（ことを繰り返している）。　・萬歳：万年。永遠。　・更：〔かう；geng4●〕こもごも。かわるがわる。また、入れ替わる。交替する。ここでは、前者・副詞の意。　・相送：（葬儀で）見送る。葬送してあげる。

※賢聖莫能度：聖人や賢者であっても、（この生死の法則からは）超越することができない。　・賢聖：賢人と聖人。知徳を兼ね備えた人。賢明な人士。前出・陶潜の『挽歌詩』其三「千年不復朝。千年不復朝，

無奈何。」に同じ。　・莫：否定の意。　・能：よく…。…ができる。　・度：〔ど；du4●〕度す。わたる。越える。蛇足になるが、「おしはかる」の意では〔たく；duo4●〕になる。王之渙の『涼州詞』に「黄河遠上白雲間，一片孤城萬仞山。羌笛何須怨楊柳，春風不

玉門關」 とあるが、ここは『般若心經』の「照見五蘊皆空，

一切苦厄。」に近いか。

※服食求神仙：内丹法の辟穀、服餌を食して、仙人になることを求めても。　・服食：瞑想や修錬から、仙人になる道は遠いため、薬物や仙人になれる食物を摂る方法のことをいう。外丹法の煉丹術で不死の仙薬を創って服することと、内丹法の辟穀、服餌を食することをいう。　・求：もとめる。　・神仙：不老長生の神々しい仙人。修行して神通力を得た人。仙人。

※多爲藥所誤：その薬の多くは、誤ったものである。　・多爲：多くは…である。　・藥：ここでは､不老長寿の薬、仙丹のことになる｡煉丹術でいう金丹。　・所誤：あやまっていること。光明砂（丹砂）は水銀から出来ているため、その猛毒によって、服したものは中毒死した。

※不如飲美酒：（神仙になる道が断たれている以上）美酒を飲んで（美服を着て、現世を享楽するのが）第一である。　・不如：…におよばない。（…に）しかず。「不如」は「飲美酒，被服與素」にかかる。　・美酒：（仙丹ではなく、現実世界の）おいしいお酒。

※被服與素：身に纏うものは白絹のものばかりである。　・被服：衣服を着る。　・：〔ぐゎん；wan2○〕（光沢のある）しろぎぬ。光沢のある白絹。　・與：…と。　・素：〔そ；su4●〕（織ったままで染めていない）しろぎぬ。織ったままで染めていない白絹。

◎　構成について

２００５．１２．２７ 　　　　　１２．２８ 　　　　　１２．２９ 　　　　　１２．３０ 　　　　　１２．３１完 ２００６．　１．　５補

漢詩　唐詩　漢詩　宋詞

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