あの世の旅
第2部 六道輪廻編

第 百 話

ギリシャ彫刻男の蓮の花ハウスは、意外に大きかった。二人で中に入っても、余裕の広さだ。
「う〜ん、人間の世界で言うと、3LDKくらいの広さですかねぇ。バストイレ付きです。天界の者でも、トイレは必要なんですよ。っていうか、ここは一番下の天界だけあって、ほぼほぼ人間界と同じような生活ですね。上に行けば、トイレも風呂も必要ないんですけどね」
そう言いながら、ギリシャ彫刻男は、俺を部屋へ誘ってくれた。
「まあ、どうぞ、座ってください。え〜と、あぁ、そうか、聞新さんは霊体だから座るも何もないか。あははは」
「あぁ、いや、一応、それらしく座りますよ。その方が話もしやすいでしょうから」
と言うことで、俺はギリシャ彫刻男の部屋のリビングに当たるのだろう、その部屋の椅子に座ったのだった。
「こういう家具とかもね、自分の神通力でだすんですよ。初めのうちは、神通力が使えないですから、与えられたものしかありません。最初は、寝るための蓮台だけ。で、そのうちに神通力がつけば、寝具や簡単な椅子程度を自分で作っていくんです。まあ、この程度あれば、ここでは不自由はしませんけどね。中には、ハウスの中を飾ったりする方もいますね。次第に神通力がつけば、自分で自由に部屋が造れます。家具も自由です。自分の好きなように過ごせるんですよ」
こういう所が天界の天界たるところであろう。人間界では、家を得る、家具を整える、生活する、ということに、必ず金銭が必要となる。しかし、天界では、金銭はないようだ。すべては、自分の神通力によって得られるようだ。
「神通力で、何でも賄えるんですね? お金なんてないんですね」
「そうなんですよ、お金はありません。ここで通用するのは神通力です。神通力の強さ、多さが、人間界で言うお金持ちに当たるのですよ。で、神通力で、こうしてお酒を飲むこともできるんです。天界の酒は、またうまいんですよ。人間界の酒とは比べものになりません。けど、これも上の天界へ行けば、もっとおいしいそうです。格差はあるんですよねぇ」
そう言いながら、ギリシャ彫刻男は、おいしそうにお酒を飲んでいた。

「一つ聞きたいことがあるんですが」
「はい、何でしょうか?」
「天界の時間は、その一日が人間界の50年に当たる、と言うじゃないですか。今、ここって、日が暮れましたよね。と言うことは、人間界では、50年過ぎているんですか?」
「あぁ、それはないんですよ。確かに、一番低い天界の一日は、人間界の50年に当たります。ですが、今、日が暮れたことによって、人間界の時が50年過ぎたわけではありません。実は、この日没、方便なんですよ」
「方便?」
「はぁ、上の方の天界に行けば、日が暮れることはありません。長〜い、それこそ何百年も昼間です。日が落ちることは、本当にないですね。まあ、いつかあるのでしょうけど。そういう上の方の天界の人々は、寝ることもないんですよ。いつも起きています。なので、夜も必要ないんです。ですが、ここ、一番下の天界は、まだ人間時代の習慣が根強く残っているんです。天界の時間に慣れないんですよね。なので、方便として、一日を作っているんです。この天界トウリ天は、一桁台は上位クラスです。最高位は、帝釈天様がいらっしゃる世界ですね。NO1です。NO1〜NO9までが、上位クラス。NO10〜NO19までが中級クラスです。NO20〜NO29までが下位クラスです。私がいる33番目と32番、31番、30番は、最下位クラスとなっています。ちなみに、いわゆる神々と言われる方は、トウリ天の中級クラス以上の方ですね。中級クラス以上にならならいと、神にはなれないんですよ」
天界も格差が大きいようだ。いわゆる神々となると、トウリ天の中級に行かないとダメらしい。と言うことは、中級クラスに入れば、神になれるとも言える。日本の神々は、どうなっているのだろうか?。出身が違うから、除外されるのかも知れない。

「日没があるのは、この最下位クラスのみですね。それは、天界に慣れさせるためですね。なので、最下位クラスでも、上に行けば、日が長くなります」
「なるほど、そういうことですか。まだ、下のクラスの天界人?と言えばいいのかな、は慣れてないんですね」
「そうですね、慣れないですね。あぁ、我々のことは、天界人でいいですよ」
ちなみに、日本の神々は、どのクラスになるのですか?」
「そうですねぇ。神通力で言えば、中級クラスに入るでしょうね。まあ、このトウリ天に住んでいるわけではなく、日本の世界に住んでいますから、実際の所は分からないですけどね。日本の神々は、土着の神ですから」
なるほど、日本の神々は、どうやら天界の神々とは違うらしい。
「トウリ天が存在する世界は、広い広い天界の中です。天界は、宇宙の広さと同じですから、ものすごく広いんですよ。で、トウリ天のほかにもいろいろな世界があります。国といったほうがわかりやすいかな。そう、このトウリ天も国と思った方がいいですね。大きな国の中に、さらに33の国がある、それがトウリ天です。そのほかにも、いろいろな天界……国が存しているんですよ。その国々で、トウリ天の中級クラス以上の世界の住民……天界人ですね……ならば、神と言われる存在になります。ただし、日本の神々は、このグループには入っていません。それは、日本という国の神だからです」
やはり、そうなのだ。日本の神は、天界の神々のグループとは違うのだ。
「ただし、日本の神でもインド系の神様は別ですね。大黒天とかダキニ天とか弁財天とかですね。こうしたインド系の神々は、天界のどこかに自分の国を持っています」
ようやく俺は理解した。日本の神でも、インドから伝来した神……それは天部と仏教では言うのだそうだ……は、天界の住民なのだ。しかし、日本古来の神々は、日本という国の住民である。天界に国を持っているわけではない。だから、天界の神々のグループには入らないのだ。
天界とは、宇宙のことだと思えばいい。で、その中に、人間の目には見えないけど、いろいろな世界……星なのか、国なのか知らないが……が存在しているのだ。で、その国の数だけ神々が存在している。その数たるや……いやはや、天界は広い。

俺は、話を戻した。
「そうですか。そんなに広いんですね。で、トウリ天でも最下位クラスの人たちは、天界の生活に慣れていないから、人間界の習慣を持ち込んでいるんですね」
「そういうことなんです。だから、人間臭い所が多いでしょ。上の方の、特にトウリ天の中級クラス以上は、もう神々ですからね。そのあたりになると、人間臭さはなくなります。ここは、まあ、人間界に毛が生えたようなものですよ」
「じゃあ、こうやって日が暮れたのも、人間界の時の習慣によるものなのですね」
「そうです。何ですかねぇ、日が暮れないと、落ち着かないんですよ。でもね、昼間の時間は長いですよ、人間界よりはね。そんな感じがします」
ギリシャ彫刻男は、そう言うとお酒を飲み、「これも人間界の習慣ですよね」とつぶやいていた。
「そして、何よりも、こうしてお酒を飲めるのは、子孫の供養があるからなんですけどね」
と、ちょっと遠くを見つめるような目をして、ギリシャ彫刻男は言ったのだった。確かに、あの新たにやってきた女性に、そんなことをこの男は言っていた。子孫の供養がないと、ここでは生きていけないようなことを。確か、食事も着替えも、供養によるのだと。
「供養があれば、私たちはエネルギーを得られるんです。このお酒だって、供養のおかげです。天界人は、エネルギーを得るために、一応、食事という形でエネルギーを得ます。まあ、肉体はあってないようなものですから、本来は、食事などしなくてもいいのでしょうけど、これも生きていた時の習慣ですかねぇ。あぁ、でも、上の方の天界人も食事を取ることもある、とか言う話ですし。ま、一応、肉体的なものはありますからね」
ここが不思議なところだ。そういえば、夜叉さんも、一応、肉体がある。が、今は食事はしない、と言っていた。霊界の気だけで十分なのだと。天界人も、肉体はあるにはあるのだ。そういえば、風呂もトイレもある、と言っていた。と言うことは、汗だってかくのだろうし、身体も汚れるのだろう。糞尿もするようだ。
「ほぼ、人間と変わらないんですね」
「そうですね。もちろん、神々クラスになれば、部屋に風呂やトイレがあるなんてことはありません。まあ、中には、酔狂な神様もいて、人間界の温泉に行っている神様もいますけどね。まあ、そういう神様は、こっちの世界よりも人間界が好きな神様なんですよね。天界よりも人間界が楽しいらしいです。下位ののクラスの天界人は、身体が汚れるってこともあるし、糞尿もします。これも、神通力の強さによります。神通力が弱ければ弱いほど、身体も汚れやすいし、疲れやすいし、糞尿も臭いし、体臭もあります。その神通力も、自分の修行と子孫の供養にかかっているんです。私の場合は、まあ、そこそこ供養してくれていますから、なんとか案内役まで授かっています」
やはり、中級クラス、神々の世界になると、身体が汚れるとかはなくなるようだ。糞尿もしないのだ。まあ、食事も必要が無いから、それもそうであろう。エネルギー源が食事ではないのだから、クソも出ないのは当然だろう。しかし、そこまで行くのは大変なのだろうと思う。長年の、多くの供養、子孫からの供養が必要なのだろう。子孫が先祖を供養し続ければ、いつしか、神のような先祖が生まれてくる、と言うこともあるといえる。まあ、相当長い年月が必要になるのだろうが……。

それにしても、天界人には、職業があるのだろうか? このギリシャ彫刻男は、案内役をやっていると言っていたが……。
「その案内役なんですけど」
「あぁ、それは佛様が決めることです。一つの国に一人の案内役がいるんですよ。各国に、そうした案内役がいるんです」
「ほかの人は、そうした役割というか、仕事はないんですか?」
「う〜ん、私の知る限り、ないと思います。集会、あぁ、修行のことですね、その時も、皆さんボランティアで動いていると思います。まあ、私の案内役といっても、生まれ変わってきた人を案内すればいいだけですしね。ですから、ここには仕事はないですね」
「仕事とかないんですか。じゃあ、何をやっているんですか? ヒマじゃないですか?」
「そうですね、ほぼほぼ、神通力の修行ですね。こう、精神力を高めてですね、神通力の強化を図る瞑想をするのですよ」
そう言うと、ギリシャ彫刻男は、座禅を組んで瞑想の姿をした。ギリシャ彫刻男の座禅は、ある意味、見応えがあった。
天界人の仕事は、主に修行になのだ。特に下位のクラスにとっては、まずは神通力の修行が重要な仕事になるのだろう。それがなければ生きてはいけないのである。神通力の強化は、必至なようだ。
「あとは、問答ですね。佛様や菩薩様が説かれた教えをみんなで話し合うんです。あれはどう解釈するかとか、菩薩様が問いかけたことに対する答えは何かとか、そうした話し合いをします。たまに、熱い議論になったりすることもありますよ」
「ケンカとかにはならないんですか」
「ケンカにはならないですね。議論をしても、怒りに変わることはないですよ。もし、そういう人がいれば、仲間はずれになりますね。概ね、穏やかな話し合いです」
天界人となると、議論で怒ることは無いらしい。時間に余裕があるからなのか、全体的にのんびりしているのかも知れない。

「そう言えば、女房のおじいさんが、女房や私の子供たちの守護霊をしているのですが……」
「あぁ、そうですか、それはそれは。そのおじいさん、下位クラスの上位にいると思いますよ。子孫の守護霊が務まるほどの神通力をお持ちなら、きっとそのクラスでしょう。トウリ天の20番台の前半にいると思います」
「守護霊を務めるのは、大変なんですか?」
「もちろん。自分の事に関して使うエネルギーの上に、さらにエネルギーがないといけませんからね。相当、神通力を身につけていないと、エネルギー配分もうまくいきません。ましてや分身の術を使えないと、子孫のもとへと行けませんしね。結構、修行されたようですね、そのおじいさんは。きっと、子孫の方も供養をちゃんとしているのでしょう。おそらくは、月に一回必ず、お坊さんが供養のお経をあげているのだと思います。いい子孫をお持ちのようですね。私なんて、まだ分身の術はできませんからね。今の、この状態を維持するのでいっぱいいっぱいです。贅沢は言いませんが、もう少し供養してくれると嬉しいですね」
ならば、無理にギリシャ彫刻男何ぞになる必要はないのではないか。結構、エネルギーを食いそうな気がするが、エネルギーの無駄遣いではないのか……。その考えが顔に出たのか、ギリシャ彫刻男は、あわてて言った。
「あぁ、あの、肉体の変身は、そんなにエネルギーを使わないんですよ、エネルギーは、瞑想、修行ですね、それに最も使います。瞑想は、神通力の修行ですから、結構、エネルギーを使ってしまうんですよ。だから、いつも、瞑想の後は、ぐったりです。供養が早くたくさん欲しいと思いますよ」
なるほど、エネルギーは修行に費やすのが多いのだ。もっとも、神通力が身につかないと、天界では生きていけないようだから、神通力は重要だ。その神通力は、修行しないと身につかない。その修行のもととなるエネルギーは、供養なのだ。子孫の供養がなければ、神通力の修行もできない。神通力の修行ができなければ、天界では生きにくくなってしまうのだ。
「そうなんですよ、供養がないとねぇ……。折角、天界に生まれ変わってきたのに供養がないと、生きていけませんよね」
「もし、供養がないとどうなるんですか?」
俺が、そう問うとギリシャ彫刻男は、深刻な顔を俺に向けて
「そ、それは、とても恐ろしいことになります」
と言ったのだった。

「天人五衰ってご存じですか?」
「てんにんごすい?、いや、知りません」
「天人五衰というのは、我々天界人の寿命がやってきた兆候を示す五つのことがらなんです。それが現われると、この世界での寿命がやってきた、ということになります」
「そ、それは……どういったことなんですか? もしかして、見たことあるのですか?」
ギリシャ彫刻男は、深刻な顔をして、「えぇ」とうなずいたのだった。
つづく。


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