題那波利翁像 | ||
佐久間象山 |
||
何國何代無英雄, 平生欽慕波利翁。 邇來杜門讀遺傳, 怱怱不知年歳窮。 撫劍仰天空慨憤, 世人那得察吾衷。 如今邊警日復月, 戰船來去海西東。 外蕃學藝老且巧, 我獨遊戲等孩童。 守株未知師他長, 矮舟誰能操元戎。 嗟君原是一書生, 苦學遂能長明聰。 一朝照破當時敝, 革敝除害民情從。 旌旗所向如靡草, 威信普加歐羅中。 元主西征不足道, 豐公北伐何得同。 人生得意多失意, 大雪翻手朔北風。 帝王事業雖未終, 收爲我將應有庸。 世人心竅小於豆, 齷齪寧知英雄胸。 自奮能成遠大計, 自屈難樹廓清功。 安得起君九原下, 同謀戮力驅奸兇。 終卷五洲歸皇朝, 皇朝永爲五洲宗。 |
wikipediaより |
何 れの國何 れの代 にか 英雄 無からん,
平生 欽慕 す波利翁 。
邇來 門を杜 ぢて遺傳 を讀み,
怱怱 知らず年歳 の窮 まるを。
劍を撫 し 天を仰 ぎて空 しく慨憤 し,
世人那 ぞ吾 が衷 を察するを得 ん。
如今 邊警 日 復 た月 ,
戰船 來去 す 海の西東 を。
外蕃 の學藝老 且 つ巧 ,
我 獨 り 遊戲するも孩童 に等 し。
守株 未だ知らず他 の長 を師 とするを,
矮舟 誰 か能 く元戎 を操 せん。
嗟 君原 是 れ 一書生,
苦學遂 に能 く明聰 に長 ず。
一朝 照破 す 當時の敝 を,
敝を革 め 害を除きて 民情に從ふ。
旌旗 の向かふ所 草の靡 くが如く,
威信普 く加ふ歐羅 の中。
元主 の西征 道 ふに足 らず,
豐公 の北伐 何 ぞ同じきを得 ん。
人生意 を得 たれば 失意 多く,
大雪 手を翻 す朔北 の風。
帝王 の事業 未 だ終 へずと雖 も,
收 めて 我が將 と爲 さば應 に庸 ふる有るべし。
世人の心竅 は豆 よりも小さく,
齷齪 寧 ぞ知らん 英雄の胸を。
自 ら奮 はば能 く成さん遠大 の計を,
自 ら屈 せば樹 て難 し廓清 の功 を。
安 んぞ 君を九原 の下 に起こすを得 て,
謀 を同じくし力 を戮 せて奸兇 を驅 る。
終 に五洲 を卷 きて皇朝 に歸 し,
皇朝 永 へに五洲 の宗 と爲 らん。
*****************
◎ 私感註釈
※佐久間象山:幕末の兵学者。信濃松代藩士。文化八年(1811年)〜元治元年(1864年) 名は啓、字は子明、通称は修理。号して象山。佐藤一斎に朱子学を学び、江戸神田に私塾・象山書院を興す。後、蘭学と砲学を学び、開国論を倡え、攘夷派に暗殺された。勝海舟、橋本左内、坂本龍馬、吉田松陰は、門人。
※題那波利翁像:ナポレオンの像について詩を作る。 *似た趣の詩に、日本・江戸・大槻磐溪の『佛郎王詞』「半生威武遍西洋,青史長留赫赫名。一自功名歸太帝,無人艷説歴山王。」、〜大正・三島中洲の『河井蒼龍窟』に「王臣何敢敵王師,呼賊呼忠彼一時。惜矣東洋多事日,黄泉難起大男兒。」とある。 ・題-:…についての詩を作る。動詞。 ・那波利翁:ナポレオンのこと。ナポレオン・ボナパルト(Napoléon Bonaparte)。革命期フランスの軍人・政治家。現代中国語では“拿破崙”と書く。
※何国何代無英雄:どこの国のどの時代に英雄がいないということがあろうか。(必ずいるのだ)。 ・何…無…:どこの…が…なかろうか。いづれの…か…なからん。反語の形式。 ・何国何代:どこの国のどの時代に。
※平生欽慕波利翁:日ごろ、ナポレオンを敬慕している。 ・平生:日ごろ。また、かつて。むかし。往時。往年。また、〔白話〕生涯。終生。北宋・黄庭堅の『虞美人』宜州見梅作に「天涯也有江南信,梅破知春近。夜闌風細得香遲,不道曉來開遍、向南枝。 玉臺弄粉花應妬,飄到眉心住。平生箇裏願杯深,去國十年老盡、少年心。」とあり、明・戚繼光の『馬上作』「南北驅馳報主情,江花邊草笑平生。一年三百六十日,キ是戈馬上行。」とある。 ・欽慕:〔きんぼ;qin1mu4○●〕)敬いしたう。=仰慕、景慕、敬慕。 ・波利翁:前出・ナポレオンのこと。
※邇来杜門読遺伝:近ごろ、家に閉じこもって、遺された伝記を読んでいる。 ・邇来:〔じらい;er3lai2●○〕近ごろ。近来。その後。=爾來。 ・杜門:〔ともん;du4men2●○〕門を塞ぐ。門を閉じる。家に閉じこもる。門をしめて外へ出ない。
※怱怱不知年歳窮:(伝記を読むのに没頭したので、)あわただしい年の末になっているのにも気付かなかった。 ・怱怱:〔そうそう;cong1cong1○○〕いそがしい。慌(あわ)ただしい。あたふた。≒匆匆。李Uの『相見歡』に「林花謝了春紅,太匆匆。無奈朝來寒雨晩來風。 臙脂涙,留人醉,幾時重。自是人生長恨水長東。」とあり、宋・賀鑄の『六州歌頭』に「少年侠氣,交結五キ雄。肝膽洞,毛髮聳。立談中,生死同,一諾千金重。推翹勇,矜豪縱,輕蓋擁,聯飛鞚,斗城東。轟飮酒壚,春色浮寒甕。吸海垂虹。闌ト鷹嗾犬,白駐E雕弓,狡穴俄空。樂怱怱。 似黄梁夢,辭丹鳳,明月共,漾孤篷。官冗從,懷倥偬;落塵籠,簿書叢。鶡弁如雲衆,供粗用,忽奇功。笳鼓動,漁陽弄,思悲翁,不請長纓,繋取天驕種,劍吼西風。恨登山臨水,手寄七絃桐,目送孤鴻。」とある。
※撫剣仰天空慨憤:剣をなで、天を仰いでは、なげきいきどおっている。 ・撫剣:剣をなでる。男子の慷慨のさま。 ・仰天:空を見上げる。天を仰ぐ。岳飛の『滿江紅』「怒髮衝冠,憑闌處、瀟瀟雨歇。抬望眼、仰天長嘯,壯懷激烈。三十功名塵與土,八千里路雲和月。莫等閨A白了少年頭,空悲切。」とある。 ・慨憤:なげきいきどおる。≒憤慨。「慨憤」とはあまり見かけないが、「憤慨」ではなくて「慨憤」として使う理由がよく分からない。「慨憤」で一語としてあるか。現代・毛沢東は『人民解放軍佔領南京』で「鍾山風雨起蒼黄,百萬雄師過大江。虎踞龍盤今勝昔,天翻地覆慨而慷。宜將剩勇追窮寇,不可沽名學覇王。天若有情天亦老,人間正道是滄桑。」とあり、「慨而慷」で三語として使っている。
※世人那得察吾衷:世間の人は、どうして、わたしの心中を推測できようか。 ・世人:世の中の人。世間の人。『楚辭・漁父』に「屈原既放屈原既放,游於江潭,行吟澤畔,顏色憔悴,形容枯槁。漁父見而問之曰:『子非三閭大夫與?何故至於斯?』屈原曰:『舉世皆濁我獨C,衆人皆醉我獨醒,是以見放。』漁父曰:『聖人不凝滯於物,而能與世推移。世人皆濁,何不淈其泥而揚其波?衆人皆醉,何不餔其糟而歠其釃?何故深思高舉,自令放爲?』屈原曰:『吾聞之:新沐者必彈冠,新浴者必振衣。安能以身之察察,受物之汶汶者乎?寧赴湘流,葬於江魚之腹中,安能以皓皓之白,而蒙世俗之塵埃乎?』漁父莞爾而笑,鼓竡ァ去。乃歌曰:『滄浪之水C兮,可以濯我纓,滄浪之水濁兮,可以濯我足。』遂去,不復與言。」とあり、明・文嘉の『明日歌』に「明日復明日,明日何其多。日日待明日,萬世成蹉跎。世人皆被明日累,明日無窮老將至。晨昏滾滾水流東,今古悠悠日西堕。百年明日能幾何,請君聽我明日歌。」とある。 ・那:どうして。なんで。*疑問・詰問・否定・反問に用いる。なお、現代中国語では“哪”と表記して、指示代詞〔あれ。あの。それ。〕の意の“那”と書き分ける。 ・那得-:どうして…られようか、の意。 ・察:知る。つまびらかに見る。みわける。あきらか。推量。 ・衷:〔ちゅう;zhong1○〕心中。内心。真心。真意。
※如今辺警日復月:当今は、辺境の警備の毎日(であり)。 ・如今:当今。当世。いま。今頃。 ・辺警:辺境の警備。=辺防。 ・日復月:日々、月々の意。毎月、毎日の意。
※戦船来去海西東:(夷人の)戦船(いくさぶね)が海の西や東を行き来している。 ・戦船:いくさぶね。軍艦。≒艨艟。 ・来去:行き来する。また、往復する。行き帰りする。ここは、前者の意。 ・西東:東西。ここでは「東西」を、押韻の都合上(「東」を平水韻上平一東の韻脚として使うため)、「西東」とした。
※外蕃学芸老且巧:外国の学術技芸は、老熟しており、その上、巧緻であり。 ・外蕃:〔ぐゎいはんwai1fan1●○〕外国。異民族。なお、「外藩」は別の義で、諸侯の領地や属領。 ・老且巧:老熟しており、しかも、巧緻である意。 ・且:〔しょ(しゃ)(そ;qie3)●〕そのうえ。しかも。
※我独遊戯等孩童:我が(国)だけ、子供の遊戯に等しい(=児戯に等しい)(低水準である)。 ・孩童:〔がいどう;hai2tong2○○〕幼児。子供。児童。
※守株未知師他長:守旧的で(進歩が無く)、他人の長所を手本とすることが分からない。 ・守株:〔しゅしゅ;sho3zhu1●○〕古い習慣を守って融通のきかないこと。昔、宋の国の農夫が兎(うさぎ)が偶然切り株にぶつかって死んだのを見て、またそのようなことが起こるものと思い、毎日仕事もしないで切り株を見張っていた故事。株(くいぜ)を守る。『韓非子・五蠹第四十九』に「宋人有耕田者,田中有株,兔走,觸株折頸而死,因釋其耒而守株,冀復得兔,兔不可復得,而身爲宋國笑。今欲以先王之政,治當世之民,皆守株之類也。」とある。 ・師:模範とする。手本とする。師とする。動詞。 ・師他長:他人の長所を模範(=手本とする=師とする)意。
※矮舟誰能操元戎:(我が国・日本の)小舟(のような力量)では、誰が大型の平車を操(あやつ)れようか。 ・矮舟:〔わいしう;ai3zhou1●○〕小舟。 ・誰能-:だれが…しようか。たれかよく…ん。反語の形式。漢魏・繆襲の『挽歌詩』に「生時遊國都,死沒棄中野。朝發高堂上,暮宿黄泉下。白日入虞淵,懸車息駟馬。造化雖神明,安能復存我。形容稍歇滅,齒髮行當墮。自古皆有然,誰能離此者。」とある。 ・操:あやつる。 ・元戎:周代に使用された大型の平車。また、軍隊の長。ここは、前者の意。
※嗟君原是一書生:ああ、あなたは、もともとは一介の書生(にすぎなかったが)。 ・嗟:〔さ、しゃ;jie1○〕ああ。感嘆または嘆き悲しむ声。中唐・韓愈の『武關西逢配流吐蕃』に「嗟爾戎人莫慘然,湖南地近保生全。我今罪重無歸望,直去長安路八千。」とある。 ・君:あなた。ここでは、ナポレオンを指す。 ・原是:もともと…である。 ・書生:学生。
※苦学遂能長明聡:苦労を重ねて学問をやり遂げて道理に長(た)けることができた。 ・能:よく。…できる。 ・長:〔ちゃう;zhang3●〕成長する。育つ。動詞。 ・明聡:目や耳の聡(さと)いこと。道理に明るいこと。聡明の意。ここでは「聡明」を押韻の都合上(「聡」を平水韻上平一東の韻脚として使うため)、「明聡」とした。
※一朝照破当時敝:ある日、当時の(社会の)弱点を照らし出して。 ・一朝:ひとあさ。ある朝。ひとたび。にわかに。=一旦。日本・維新・篠原國幹の『逸題』に「飮馬麹]果何日,一朝事去壯圖差。此闥N解英雄恨,袖手春風詠落花。」とあり、日本・維新・江藤新平の『逸題』に「欲掃胡塵盛本邦,一朝蹉跌臥幽窗。可憐半夜蕭蕭雨,殘夢猶迷鴨麹]。」とある。 ・照破:照らし尽くす。仏が智慧の光で無明の闇を照らすこと。 ・敝:〔へい;bi4●〕破れる。ぼろぼろになる。負ける。衰える。自分のことにつける謙称。
※革敝除害民情従:弱点を改めて、害を除き、民衆の感情の趨くところに従い。 ・革:あらためる。 ・民情:民の心。民間の実情。
※旌旗所向如靡草:旗印の向かうところ、草をなびかせるかのようで。 ・旌旗:旗の総称。旌は旄に鳥の羽根飾りをつけた物で、旗は、集団の印で、大将が持った。北宋・曾鞏の『虞美人草』に「鴻門玉斗紛如雪,十萬降兵夜流血。咸陽宮殿三月紅,覇業已隨煙燼滅。剛強必死仁義王,陰陵失道非天亡。英雄本學萬人敵,何用屑屑悲紅粧。三軍散盡旌旗倒,玉帳佳人坐中老。香魂夜逐劍光飛,血化爲原上草。芳心寂莫寄寒枝,舊曲聞來似斂眉。哀怨徘徊愁不語,恰如初聽楚歌時。滔滔逝水流今古,漢楚興亡兩丘土。當年遺事久成空,慷慨樽前爲誰舞。」とある。 ・所向:向かうところ。漢魏・蔡文姫の『悲憤詩』に「漢季失權柄,董卓亂天常。志欲圖簒弑,先害ゥ賢良。逼迫遷舊邦,擁主以自彊。海内興義師,欲共討不。卓衆來東下,金甲耀日光。平土人脆弱,來兵皆胡羌。獵野圍城邑,所向悉破亡。」とある。 ・靡草:〔びさう;mi3cao3●●〕風が草をなびかせる。徳の広くゆきわたる喩え。また、枝葉の細かい草。なずなの類。ここは、前者の意。草については幕末〜維新・雲井龍雄の『釋大俊發憤時事慨然有濟度之志將歸省其親於尾州賦之以贈焉』に「生當雄圖蓋四海,死當芳聲傳千祀。非有功名遠超群,豈足喚爲眞男子。俊師膽大而氣豪,憤世夙入祇林逃。雖有津梁無處布,難奈天下之滔滔。惜君奇才抑塞不得逞,枉方其袍圓其頂。底事衣鉢僅潔身,不爲鹽梅調大鼎。天下之溺援可收,人生豈無得志秋。或至虎呑狼食王土割裂,八州之草任君馬蹄踐蹂。君今去向東海道,到處山河感多少。古城殘壘趙耶韓,勝敗有跡猶可討。參之水 駿之山,英雄起處地形好。知君至此氣慨然,當悟大丈夫不可空老。」とある。
※威信普加欧羅中:威厳と信望がヨーロッパにあまねく加わった。 *前出・江戸・大槻磐溪の『佛郎王詞』に「半生威武遍西洋,青史長留赫赫名。一自功名歸太帝,無人艷説歴山王。」とある。 ・威信:威厳と信望。 ・普:あまねく。 ・欧羅:〔おうら;Ou1luo2○○〕「欧羅巴 」〔Ou1luo2ba1〕のこと。ヨーロッパ。
※元主西征不足道:元(げん)(⇒モンゴル帝国)の国主(⇒カアン)の西方侵出は言うまでもなく。 ・元主:元(げん)の国王。(元(げん)の国主(こくしゅ)。「主」「国主」は、「王」「国王」よりも一段と劣った者、としての意味を込めた表現。蛇足になるが、漢字文化圏では「皇帝」「天皇」は、更にその上の位を謂う。参照:『皇帝たちの中国』岡田英弘著 原書房)。ただし「西征…」の表現から考えるに、元(げん=中国王朝)時代と謂うよりも、その以前の中央アジアのモンゴル帝国の創始者チンギス・カン以降数代のモンゴル皇帝(カアン、大ハーン)を指そう。当時、領土を甚だしく拡張し(≒「西征不足道」)、西は東ヨーロッパまで、南はアフガニスタン、チベット、ミャンマーまで、東は中国、朝鮮半島までと、ユーラシア大陸を横断する大帝国を作り上げた。ここではモンゴル帝国初期のモンゴル皇帝を中心にした時期を謂う。 ・西征:西に軍兵を向けること。ここでは「西」とは東ヨーロッパを指す。 ・不足-:…におよばない。…にたらず。 ・道:言う。
※豊公北伐何得同:(更に)豊臣秀吉公の北(朝鮮)への征伐と、どうして同列であろうか。(そのどちらよりも、ナポレオンの方が規模が大きいのだ)。 ・豊公:豊臣秀吉。 ・北伐:軍を北進させて伐つ。ここでは豊臣秀吉の朝鮮征伐(文禄の役・慶長の役)を謂う。
※人生得意多失意:人生には、目的を達して満足する場合もあるが、望みが遂げられずに落ち込むこともある。(その失意の時とは…)。 ・人生:人が生きる。人が生まれる。人生。盛唐・李白の『將進酒』に「君不見黄河之水天上來,奔流到海不復回。君不見高堂明鏡悲白髮,朝如青絲暮成雪。人生得意須盡歡,莫使金尊空對月。天生我材必有用,千金散盡還復來。烹羊宰牛且爲樂,會須一飮三百杯。岑夫子,丹丘生。將進酒,杯莫停。與君歌一曲,請君爲我傾耳聽。鐘鼓饌玉不足貴,但願長醉不用醒。古來聖賢皆寂寞,惟有飮者留其名。陳王昔時宴平樂,斗酒十千恣歡謔。主人何爲言少錢,徑須沽取對君酌。五花馬,千金裘。呼兒將出換美酒,與爾同銷萬古愁。」とある。 ・得意:自分の気持にかなうこと。目的を達して満足していること。意を得る。また、自分の気持を理解する人。ここは、前者の意。盛唐・王維の『送別』に「下馬飮君酒,問君何所之。君言不得意,歸臥南山陲。但去莫復問,白雲無盡時。」とあり、盛唐・李白の『將進酒』に「君不見黄河之水天上來,奔流到海不復回。君不見高堂明鏡悲白髮,朝如青絲暮成雪。人生得意須盡歡,莫使金尊空對月。天生我材必有用,千金散盡還復來。烹羊宰牛且爲樂,會須一飮三百杯。岑夫子,丹丘生。將進酒,杯莫停。與君歌一曲,請君爲我傾耳聽。鐘鼓饌玉不足貴,但願長醉不用醒。古來聖賢皆寂寞,惟有飮者留其名。陳王昔時宴平樂,斗酒十千恣歡謔。主人何爲言少錢,徑須沽取對君酌。五花馬,千金裘。呼兒將出換美酒,與爾同銷萬古愁。」とあり、中唐・孟郊の『登科後』に「昔日齷齪不足誇,今朝放蕩思無涯。春風得意馬蹄疾,一日看盡長安花。」とある。
※大雪翻手朔北風:(ロシアでの)大雪は、北風に手のひらを返して(情況をひっくり返してしまい)。 *1812年のナポレオンによるロシア遠征の失敗を謂う。フランスの60万の大軍は冬将軍のために敗退し、帰還出来た者はわずか5千であったと謂う故実を指す。 ・翻手:手のひらを返す。手をひっくりかえす意。 ・朔北:〔さくほく;shuo4bei3●●〕北。北方。朔方。北方の辺境。ここではロシアを謂う。
※帝王事業雖未終:(フランス皇帝によるヨーロッパ統一と謂う)帝王の事業は、全(まっと)うできなかったとはいうものの。(帝王の事業の後半分は)。 ・帝王事業:蕃地の平定徳化。ここではナポレオンのヨーロッパ統一を指す。 ・雖:…ではあるが。…とはいうものの。…(と)いへども。
※収為我将応有庸:我が(日本)軍の将官にとりこめば、おそらくもちいるだけのものがあろう。 ・収:とりこむ。おさめる。 ・為我将:我が軍(日本軍)の将官とする意。 ・応-:きっと…だろう。まさに…べし。 ・庸:〔よう;yong1○〕もちいる(もちふ)。人をあげもちいる。
※世人心竅小於豆:世間の人の肝っ玉は、豆よりも小さく。 ・心竅:〔しんけう;xin1qiao4○●〕心と人体にある穴。 ・小於豆:マメよりも小さい。【形容詞+於+A】「Aよりも…い(/だ)」。比較する対象を導く形式。例えば、「甲大於乙」では、「甲は、乙よりも大きい」という意味になる。中唐・白居易の『太行路』借夫婦以諷君臣之不終也に「太行之路能摧車,若比人心是坦途。巫峽之水能覆舟,若比人心是安流。人心好惡苦不常,好生毛羽惡生瘡。與君結髮未五載,豈期牛女爲參商。古稱色衰相棄背,當時美人猶怨悔。何況如今鸞鏡中,妾顏未改君心改。爲君熏衣裳,君聞蘭麝不馨香。爲君盛容飾,君看金翠無顏色。行路難,難重陳。人生莫作婦人身,百年苦樂由他人。行路難,難於山,險於水,不獨人間夫與妻,近代君臣亦如此。君不見左納言,右納史。朝承恩,暮賜死。行路難,不在水,不在山。只在人情反覆間。」とあり、晩唐・杜牧の『山行』に「遠上寒山石徑斜,白雲生處有人家。停車坐愛楓林晩,霜葉紅於二月花。」とある。
※齷齪寧知英雄胸:こせついてばかりで、英雄(という大人物)の胸の内が分からない。 ・齷齪:〔あくさく(あくせく);wo4chuo4●●〕(本来は、)歯並びの細かいさま。転じて、事が細かく狭いさま。おしせまるさま。こせつくさま。あくせくする。また、不潔である。汚い。ここは、前者の意。 ・寧:〔ねい;ning4●〕なんぞ。むしろ。いづくんぞ(…や)。どうして。どちらかといえば。いかんぞ。否定の反語の形式。また、まさか。よもや。前出・孟郊の『登科後』に「昔日齷齪不足誇,今朝放蕩思無涯。春風得意馬蹄疾,一日看盡長安花。」とある。 ・寧:どうして…か。なんぞ。いずくんぞ。唐・李白の『把酒問月』故人賈淳令余問之に「天有月來幾時,我今停杯一問之。人攀明月不可得,月行卻與人相隨。皎如飛鏡臨丹闕,拷喧ナ盡C輝發。但見宵從海上來,寧知曉向雲陝。白兔搗藥秋復春,姮娥孤棲與誰鄰。今人不見古時月,今月曾經照古人。古人今人若流水,共看明月皆如此。唯願當歌對酒時,月光長照金樽裏。」とある。
※自奮能成遠大計:自ら奮起(さえすれば)、将来まで見通した大きな計画(でも)成し遂げられる(ものなのだが)。 ・自奮:自ら奮起する意。 ・能成:成し遂げられる意。
※自屈難樹廓清功:自ら卑屈になれば悪いものを除き清める(こと)を樹立させることは、難しい(ものだ)。 ・自屈:自ら屈服する意。前出・「自奮」の対としての表現。 ・難:難しい。…しにくい。かたい。 ・樹:たてる。 ・廓清:〔くゎくせい;kuo4qing1●○〕悪いものをすっかり取り除くこと。除き清める(こと)。後世、日本・三上卓は『青年日本の歌(昭和維新の歌)』で使う。
※安得起君九原下:墓場の下から、なんとかして、あなた(=ナポレオン)を起こすことができて。 ・安得:どうして…を…ことができようか。なんとかして…することができて…したいものだ。どこかに…を手に入れて…させたいものだ。いづくんぞ得んや。反語の形式。漢・高祖(劉邦)『大風歌』「大風起兮雲飛揚。威加海内兮歸故ク。安得猛士兮守四方!」 とあり、漢・武帝の『落葉哀蝉曲』に「羅袂兮無聲,玉墀兮塵生。虚房冷而寂寞,落葉依于重扃。望彼美之女兮,安得感余心之未寧。」とある。 ・九原:春秋時代の晋の卿(けい)・大夫(たいふ)の墓場の名。転じて、墓地。黄泉路(よみじ)。あの世。
※同謀戮力駆奸兇:はかりごとを共にして、力を合わせて、悪人を追いたてよう。 ・謀:はかりごと。 ・戮:〔りく;lu4●〕あわせる。力を合わせる。また、殺す。ここは、前者の意。 ・駆:駆(か)る。(馬に鞭打って速く)走らせる。かりたてる。追う。追いたてる。せまる。 ・奸兇:わるもの。悪人。=奸凶、奸賊。
※終巻五洲帰皇朝:ついには世界各地を皇国(=日本)の朝廷でまとめて。 ・終:ついに。 ・巻:たばねる。とりこむ。まるめる。おさめる。まく。 ・五洲:五大州。世界各地。地球上の五つの大陸。現代では具体的に、アジア、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリア等とするが、それとはあまり関わりがなかろう。≒五洲四海。現代・。毛沢東の『滿江紅』『和郭沫若同志』に「小小寰球,有幾個蒼蠅碰壁。嗡嗡叫,幾聲凄氏C幾聲抽泣。螞蟻縁槐誇大國,蚍蜉撼樹談何易。正西風落葉下長安,飛鳴鏑。 多少事,從來急;天地轉,光陰迫。一萬年太久,只爭朝夕。四海翻騰雲水怒,五洲震盪風雷激。要掃除一切害人蟲,全無敵。」とあり、同・毛沢東の『七絶 人類今嫺上太空』一九五八年十二月に「人類今嫺上太空,但悲不見五洲同。愚公盡掃饕蚊日,公祭毋忘告馬翁。」とある。 ・帰:あつまる。おさまる。…のものになる。所有物となる。…に帰す(る)。 ・皇朝:日本の朝廷。皇国の朝廷。本朝。また、その時の朝廷。当代の朝廷。ここは、前者の意。
※皇朝永為五洲宗:皇国(日本)の朝廷が、永遠に全世界の第一人者となるのだ。 ・宗:〔そう;zong1○〕おおもと。本源。第一人者。おさ。族長。むね。
***********
◎ 構成について
韻式は、「AAAAAAAAAAAAAAAAA」。韻脚は平水韻上平一東(雄翁窮衷東童戎聡中同風(終)功)・上平二冬(宗庸胸從兇)。この作品の平仄は、次の通り。
○●○●○○○,(韻)
○○○●○●○。(韻)
●●●○●○●,
○○●○○●○。(韻)
●●●○○●●,
●○●●●○○。(韻)
○○○●●●●,
●○○●●○○。(韻)
●○●●●●●,
●●○●●○○。(韻)
●○●○○○●,
●○○○○○○。(韻)
○○○●●○○,
●●●○●○○。(韻)
●○●●○○●,
●●○●○○○。(韻)
○○●●○●●,
○●●○○○○。(韻)
●●○○●●●,
○○●●○●○。(韻)
○○●●○●●,
●●○●●●○。(韻)
●○●●○●○,
○○●◎○●○。(韻)
●○○●●○●,
●●●○○○○。(韻)
●●○○●●●,
●●○●●○○。(韻)
○●●○●○●,
○○●●○○○。(韻)
○●●○○○○,
○○●○●○○。(韻)
平成26.8. 9 8.10 8.11 8.12 8.13 8.14 8.15 8.16完 平成27.5. 5補 |
トップ |