よりによって洪水の危険が迫り避難勧告が出た日にJoe Sampleのニューアルバム「Feeling Good」が
届くなんて、何と不安と嬉しさが入り混じった禍福は糾える縄のごとき状況なのでしょう。
というより、いかにもそれはクルセイダーズ的で劇的な取り合わせというべきか。しかもアルバム名までもが
「Feeling Good」。
まるで「Rio De Janiero Blue」を歌うRandyのボーカルが、Joe sampleのクリスタルタッチ
が、水位の増す濁流に慄く人心をあざ笑う天の声となってハートを直撃します。
Randy Crawfordの歌声の何とも野性的で艶やかなこと。独特の震えるようなビブラード
が官能的なアクメの色合いで男心をそそります。エロティックでパワーフル。男を胎児のように包み込む母なる
大地の包容力。そしてこの全身ボーカリストを盛り立てるために、わがマイスターJoe Sampleが巧妙に
仕組んだ舞台装置。めくるめくのめりこんでしまう、これがJoe Sampleの侠のマジック。
鍵盤の響きが力強くもハートを狙撃する上手さは絶品です。
絶妙のタイミングで流れ出す、映画「真夜中のカウボーイ」の主題歌「噂の男」。
映画のラスト、憧れたマイアミ行きのバスの中で眠るように息を引き取ったダスティンホフマン。
ふとテレビジョンに映し出される大洪水に目を移すと、「噂の男」がレクイエムのように被さり、
警鐘にも似た神々の「Feeling Good」を聞く思い。
このアルバム、洪水の最中に聴いても、心にしみる傑作です。
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