カルナバル
[Carnaval:スペイン語 〜カーニバル、謝肉祭の意〜]
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第12章
目覚めるとゴツゴツした岩の天井が目に飛び込んできた。まわりは薄暗く、背中にはひんやりとした土の感触、そして苔の匂い。どうやら洞窟の中に寝かされているらしい。 バーダックは首を横に傾けてあたりの様子を見た。中はサイヤ人5、6人が車座になって座れるくらいの広さがあるが、この天井の低さではトテッポなら頭がつかえてしまうだろう。マイホームにするには少々住み心地が悪そうだ。 少し離れた入り口から弱い光が射し込んでいる。バーダックは耳をそばだてた。敵のいる気配はない。負傷した右の脇腹から左肩にかけて軽い圧迫感がある。左手で触れてみると、きっちりとテーピングがされていた。傷口はほぼふさがったようだ。サイヤ人の体は少々負傷してもすぐに血管が収縮し傷口がふさがるようにできていた。 疲労が抜けているところを見ると、2、3時間は眠っていたのかもしれない。 その時、外で人の気配がした。バーダックは音を立てずに飛び起きると身構えた。 入ってきたのはロタだった。手にコップのようなものを持っている。 「気分はどうですか」 「上々だ。今すぐにでも戦える」 ロタからコップを受け取りながらバーダックは尋ねた。 「みんなは」 「獲物を獲りに行っています。トーマのポッドにあった食料だけでは足りないので」 さっきのことをまだ怒っているのか、ロタの口調はいつにも増して事務的だった。 「私たちのポッドはどうやら敵に捕獲されたか破壊されたようです。遠隔装置で呼んでも反応しません」 「パンブーキンはどうした」 「トーマのポッドに入れて生命維持装置をつけています。あと数日はもつでしょう。ポッドはここから少し離れたところに隠してありますが、見に行きますか」 「いや、今はいい。それよりここはどこだ。気温がさらに寒冷になったような気がする」 コップの液体をぐっとあおって、バーダックは顔をしかめた。「イモリヒキガエルを煮詰めたような味だな」 「近くの森の木から採ってきた樹液です。水も足りないので……。ここは北部の山岳地帯です。あのままあそこにいるよりは安全だろうと、あなたとパンブーキンを連れてみんなで移動してきたんです」 バーダックは空になったコップをロタに返すと、洞窟の外へ出た。ゴツゴツした岩肌がむき出しの 休息をとれるのはありがたい。だが、また夜がくる。どうやって戦えばいいのか。モンバームのやつがオレたちを殺すつもりで送り込んでいるのなら、この星を征服せずして帰還は許されまい……。 悶々と考え込んでいると、トーマたちが戻ってきた。手に手に食料になりそうな小動物や果実を抱えている。拾ってきたたきぎで火を起こして暖を取りながら、セリパとトテッポが獲物の皮をはぎ、枝に刺した肉に手をかざして彼らの天然のバーナーで焼き始めた。 「ロタ、変わったことはなかったか」 彼らの間ではすでに挨拶がすんでいるのだろう。トーマがロタに声をかけた。はいとロタが答えると、トーマは最初に焼きあがった肉をバーダックに手渡しながら言った。 「傷の具合はどうだ」 「ああ、大丈夫だ。世話をかけたな。おまえこそもういいのか」 「そのことなんだが」 声をひそめて言いかけ、他の仲間に目をやって、トーマは思い直したように打ち消した。 「いや、帰ってから話そう。それより、勝算はあるのか」 「せめてオレたちも変身できればな」 セリパがみんなに焼けた肉と果実を配った。トテッポの焼く肉はうまい。さすが食い意地が張っているだけあって、この男は食材の扱いに長けていた。食うことだけが楽しみの戦場では、そういう能力も士気を高める要素になる。馬鹿力とは別に彼が戦士として認められるゆえんだった。 さして実のある作戦も立てられないまま、とりあえずは夜に備えて彼らは仮眠をとった。時折、偵察機と見られる飛行機やヘリコプターが上空を飛んでいった。彼らが森を離れ、北へ移動したことを突き止めたのだろう。だが、山岳部の洞窟に隠れたことが幸いして、敵に発見される危険性はほとんどなく、彼らは日暮れまで休息をとることができた。 そして、夜が来た――。 遠くから地響きが聞こえてくる。殺意と憎悪の念が彼方より押し寄せ、あたりの空気を染め上げてゆく。闇を透かし、金色に光る無数の目がどんどんこちらへ近づいてくる。山々を砕きながらまたぎ越し、地面に足をめり込ませながら、やつらはすぐそばまで迫ってきていた。 このまま洞窟に隠れ、息を潜めていればまた朝が来る。そうやって敵をやり過ごし、獣や果実で食いつなぎながらひっそりと生き延びる道がないではない。しかし、それは戦闘民族サイヤ人の生き方ではなかった。 「行くか」トーマがバーダックを振り向いた。 「ああ」 「待って」 ロタが仲間を呼び止めた。 「ひとつだけ、ひとつだけ勝てる方法があります」 バーダック、トーマ、トテッポ、セリパ、ロタの5人は、ポッドに入って生命維持装置につながれたままのパンブーキンから離れた方へと敵をおびき寄せながら空を飛んだ。 ロタの言った方法は今まで聞いたこともない方法だった。果たしてそんなことが出来るのか、誰もそれを見たことがなかった。 「ここでいい。始めよう」 バーダックの合図で、天空高く舞い上がった彼らは、そのまま広がって円になった。中心を向いてそれぞれが両手を前にかざす。 「用意はいいか。――行くぜ!」 一斉に彼らの両手からエネルギー弾が円の中心に向けて放出される。全身の力を最大限に引き出した、誰も今だかつて経験したことのないような強力なエネルギー弾だった。円の中心でそれはじりじりと大きな光の球になってゆく。 ロタが叫んだ。「こんなのじゃダメです! もっと集中して。大きさじゃない。凝縮されたパワーが必要なんです」 歯を食いしばり、汗を 鼻っ柱に巨岩をまともに食らったトテッポは怒り狂って復讐に転じ、投げたやつにエネルギー弾の連続砲をお見舞いし、血祭りに上げた。そのあおりを食って、彼らの作っていたパワーボールはバランスを失い、一気に消散した。 「バカ野郎! 気を散らせるな!!」 バーダックは一気にトテッポのもとへ飛ぶと、その横っ面を殴り飛ばした。 「ロ、ロタ、ほんとに……こんなの…で……大猿に変身できるのかい」セリパが 「出来ます。私を信じて。理屈はさっき話した通りです。限られたエリートサイヤ人にしか作り出せないパワーボールですが、全員の力を合わせればきっとできる。あなたたちならできる」 戦士全員の力を合わせて強力なパワーボールを作り、この星の酸素と混ぜ合わせることで、1700万ゼノを超えるブルーツ波を生み出す光の球、つまり満月を作り出すことができる――そうロタは言ったのだった。 再び彼らの生死を賭けた挑戦が始まった。敵の妨害を受けないようこれ以上高く上がると、今度は酸素が薄くなって充分なパワーが出せない。妨害されても気を削がれないよう精神統一を図る以外になかった。 やがて、目も 「弾けて混ざれ!!」 パワーボールは一気に砕け散り、酸素と混ざり合って輝く大きな球体となり、地を照らした。 彼らは歓声を上げた。目から吸収されたブルーツ波が尻尾に反応する。心臓が破裂せんばかりに高鳴り、体が震え、変身が始まった。 「さあ、反撃だ!」 大猿となったバーダックは人工の満月に向かい、力の限り |