カルナバル
  
[Carnaval:スペイン語 〜カーニバル、謝肉祭の意〜]

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第22章

 視界いっぱいに銀河が広がっている。草むらに並んで横たわり、汗が引くにつれてだんだんと呼吸が落ち着いてゆくのを感じながら、バーダックはロタに尋ねた。
「おまえに訊きたいことがある。―――1年前、おまえとモンバームがいた辺境惑星だが、名は何という?」

 フリーザ軍の極秘事項を探っていることがバレたら命はない。出来ればロタを巻き込みたくなかったが、八方塞がりの今、残された手段はそれしかなかった。
「識別名はSOL13E。名前はソレル。惑星ソレルよ」
 バーダックは頭の中に星図を描いた。名前だけは知っている。フリーザ軍の勢力範囲の北限にある惑星だ。そこには確か軍の基地があるはずだった。

 瞳で問いかけるロタに、彼はトーマと探っている事柄について打ち明けた。1年前にモンバームが着任して以来、八つのチームが不審な形で全滅していること。それにどうもやつが関与していたような疑いがあること。だが、経歴を調べても特に気にかかる点は見当たらないこと。

「モンバームはそのソレルとかいう惑星で何か手柄を立てて、惑星ベジータへ凱旋してきたという噂がある。おまえはそれについて何か聞いたことはないか」
 ロタは「いいえ」と首を振った。
「だろうな。おまえがポッドで星を脱出した後のことだ。……やはり別の方向から攻めるしかないか」
「どういうこと?」彼女はそっと身を起こした。

「極秘事項なんだ。上級戦士の中のエリートですら、その情報にアクセスできない。つまり、オレたちサイヤ人に知られれば困ることがその星で起き、フリーザ軍はそれを隠そうとしている」
「バーダック」眉を曇らせて、ロタはバーダックの胸に顔を埋めた。「危ないことはしないで。お願い」
「ああ」彼は彼女の背中に右腕を回して抱き寄せると、気持ちを引き立てるように言った。「ここへ来る前に許可が下りた。無事帰還したら一緒に暮らそう」
「そうね……」ロタはか細い声でつぶやくと、男の胸に頬を擦りつけた。

 夜明けと共に敵の襲撃が始まった。森を囲んでときの声が上がる。メンバーそれぞれが何十人かの敵を受け持ちながら、バーダックたちは隊形を拡げていった。
 バーダックは森の奥深くまで敵を誘い出した。襲い掛かってくる電撃弾の網の目をくぐり、空からエネルギー弾を雨のように降り注いで次々に敵を倒してゆく。残り数人になったところで地面に降り、地形を利用して防御しながら、今度は接近戦に持ち込んでひとりずつ倒していった。

 そして、ついに敵は最後のひとりとなった。
 岩石人間が両手から発する電撃弾の殺傷力はなかなかのものだった。今では戦闘力が7000に達しているバーダックですら、迂闊うかつに食らえば致命傷を負う。
 相手の腹に力いっぱい拳をぶち込んで、ようやくその固い岩盤のような体に亀裂を入れた。ガラガラと雪崩が起きるように岩石人間の体が崩れ落ちる。やがてそれらは細かい粒となって風に散っていった。

 バーダックは構えていた拳を下ろした。流れる汗もそのままに、放心したように荒い呼吸を繰り返す。
 と、その時、全身を鷲づかみにされるような殺気に、彼の戦士としての本能が反応した。凄まじいスピードのエネルギー弾が背後から襲ってくる。
 反射的に体をひねって横っ飛びにかわす。同時にそこにあった木々や繁みが激しい爆発音と共に一瞬にして消滅した。

 敵は攻撃の手を休めなかった。繁みの向こうから息つく間もなく連射されるエネルギー弾を紙一重の差で次々にかわしながら、バーダックは発射点を狙ってエネルギー弾で反撃した。
 だが、着弾した時には既に敵は逃げていくところだった。繁みの隙間に見えるその影に彼は咄嗟とっさにスカウターの照準を合わせた。

 7000――!?

(バカな。ここの連中はどんなに頑張っても5000止まりだ。オレと対等の戦闘力だと!?)
 それにあのエネルギー弾。あれはジグザグに空中を走ってくる岩石人間の電撃弾とはまったく違う。むしろサイヤ人に近いものだった。

――――他に敵が潜んでいたとしか考えられん。

 トーマの言葉が蘇った。見えない敵――LA10BKポイントと同じだ。
 ここにも陰謀の影が?

『バーダック! トテッポとパンブーキンがやられたよ』
 思考を破り、スカウターにセリパの緊迫した声が響いた。
「なに!?」
『別々にいたところをどちらも後ろから撃たれたのさ。ひどい怪我だ』
「わかった。すぐ行く」

 駆けつけてみると、バーダックのいたところから北東へ行った森の中で、セリパとロタが血まみれのトテッポとパンブーキンをひとつ所に集めて介抱していた。
 傷をひと目見るなりバーダックは言った。「遠隔操作でポッドを呼べ」
「だってバーダック。敵に感づかれるよ」
「セリパ、運んでいる時間はない。わかるな」
 セリパの顔が蒼白になった。「そんなにひどいのかい」
 鮮やかな手口だった。どちらも後ろから心臓を狙われている。運良くわずかに外れたため即死は免れたが、プロテクターをも易々と貫くような恐るべきエネルギー弾の一撃だった。
 バーダックはスカウターの照準をロタとセリパに合わせてみた。ロタの戦闘力は5700、セリパは4900。正しい数値だ。測定器は壊れてはいない。では、あの敵の7000という戦闘力も本物なのか。
「おまえたち、敵を見なかったか。この星の住民じゃない。それとは別の敵だ」
「別の敵……」
「どういうことだい」

 そこへ遠隔操作で呼んだポッドが2機、空から降りてきた。
「いやいい。今はこいつらに生命維持装置をつけるのが先だ。敵がここへ来ないうちに急げ。一時退却しよう」
「惑星ベジータに戻るのかい。せっかくあと少しってとこで」言いかけてセリパはロタに目をやった。「ま、無理はしない方がいいか」

 ポッドの中にトテッポとパンブーキンを入れ、生命維持装置を作動させて、バーダックはスカウターに呼びかけた。
「トーマ、一時退却だ。トテッポとパンブーキンがやられた。戻ってこい」
 応答はない。
「トーマ?」
 バーダックの表情を見て、セリパが金切り声で呼びかけた。「トーマ! トーマ? 返事をしなよ。トーマ!!」

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