カルナバル
  
[Carnaval:スペイン語 〜カーニバル、謝肉祭の意〜]

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第17章

 ジャングルの中をバーダックたちは突き進んでいた。かなたで雷鳴のような音が轟いている。上級戦士のチームのうちのひとつが、そこで戦っているはずだった。
 暑く湿った空気の中をわずかな風に乗り、血の匂いが流れてきた。
「バーダックだ。これから加勢に向かう」バーダックはスカウターに向かって短く告げた。
『何だと、きさま、持ち場はどうした』
「とうの昔に片付けたさ。少々手こずったがな」

 通信器の向こうで相手が絶句するのがわかった。
「オレたちが行くまで持ちこたえられるか」
『当たり前だ! 下級戦士が生意気な口をきくんじゃねえ!!』
 荒々しく通信は切れた。
「この期に及んでまだエリート風を吹かせてやがる」トーマが苦笑した。

 NK−7星での戦いは予想通り熾烈を極めた。敵は黒髪に褐色の肌の見かけこそ非力な普通の人間だが、超能力を操る。戦いのさなかに幻影で惑わされたり、力を封じ込められたりして、サイヤ人たちは苦戦を強いられていた。
 おまけに、敵の超能力を宇宙征服に利用するため、全滅させずに何人かを生け捕りにせよというフリーザの命令も彼らの足枷になっていた。

 その中で、ひとつだけ気焔きえんを上げていたのが上級戦士のチームではなく、バーダックのチームだった。
 斥候せっこうに使われたり、上級戦士の盾にされたりと、常に汚い仕事を押し付けられていたが、彼らは任務を確実にこなしてゆき、今やその実力は完全に上級戦士と逆転しているのが誰の目にも明らかだった。

 もしもモンバームが本当に何らかの陰謀に加担しており、この任務に乗じてバーダックたちを消そうとしていたとしても、彼らなくしてはもはや勝機は見出せない。戦いが終わるまでひとまずは安全と言えた。

 バーダックはちらりとロタを盗み見た。相変わらず表情が読めない。
 惑星ベジータでの暗殺は困難を極めても、ここは戦場だ。モンバームが不慮の死を遂げたとしても、いくらでも理由はつけられる。
 やつを仇と狙う彼女なら、このチャンスを無駄にするはずがなかった。

 今回の任務が決まった時に、バーダックは彼女にそれとなく探りを入れてみた。だが、そっけなくはぐらかされただけだった。
 何としてもロタをやつにひとりで立ち向かわせてはならない。勝ち目がないのは火を見るより明らかだった。

 スカウターに反応が現れ、突然ジャングルが開けた。
 エネルギー弾の乱射によって焼き払われ、むき出しになった地面にいくつもの大きなクレーターが出来ている。
 その周りでは大木が倒れ、繁みのあちこちから青白い煙が細くたなびいていた。草が生焼けになった臭いが鼻につく。

 上級戦士のうち、最初に抜擢されたチームが戦っていた。トーマに足を引っ掛けたやつらだ。総勢6人のうち、既に2人が地に倒れ息絶えている。
 裸の上半身の肩から色鮮やかな帯を何本も垂らし、膝までの布を腰に巻いた敵の戦士たちが、倒れた大木の上に立ち、呪術をかけるように両手の指を組んで何か一心に唱えている。

 残りの上級戦士4人が一丸となって空中から放ったエネルギー弾の束が、そいつら目がけて飛んでいく。と、それは敵に当たる寸前で空気を震わせながら四方に弾け散った。

 加勢にきた下級戦士の姿を認めた上級戦士たちの目に、安堵と屈辱がない交ぜになった色が浮かんだ。
「行くぞ、フォーメーションBだ」
 バーダックは戦況を見極めながら次々と攻撃を展開してゆく。機動力を活かし、敵の注意をうまく逸らせてバリヤを破ると、その裂け目から容赦なくエネルギー弾を撃ち込んだ。
 敵はじりじりと追い詰められて行く。

 と、その時。
「バーダック、敵の援軍が」ロタが叫んだ。
 ジャングルの奥から続々と敵が現れた。半端な数ではない。このままでは形勢が逆転する。
「本拠地にはまだ敵がいるんだったな」
「ええ」素早くスカウターにデータを表示させながらロタが答えた。「約200残っています」
「ってことはここは全滅させてもいいってことだ。派手にやるか」

 バーダックは離れたところに浮かんでいた上級戦士のリーダーの方を向き、大声で叫んだ。
「オレたちを援護してくれ。これから満月を作る」
「なにぃ? 正気か、きさま。こんな月のない星で満月だと?」
「だからこれから作るって言ってんのさ。つべこべ言わずに協力しな」セリパが怒鳴った。
「きっ、きっ、きっさまあ……」
 額に青筋を立てて怒りに震えている男の腹に、敵のESPビームがもろにぶち当たった。男はもんどりうってジャングルの繁みの中に突っ込んだ。

「お間抜けな野郎だね」
「セリパ! 急げ」
 新たな敵が合流し、こちらにESPビームの一斉攻撃を仕掛けてくる。下級戦士どもを援護する気などなかったものの、残った3人の上級戦士は必要に迫られて応戦しだした。
 バーダックたちは円になると、気持ちを集中させて中央にパワーボールを作り始めた。
 最初に作った頃から彼らの戦闘力は飛躍的に上がっている。あっという間にパワーボールは完成した。

「いいもの作ったじゃねえか……」
 繁みの中で気を失っていたリーダーの男は、這い出してくるなりそう言うと空中に躍り上がった。両手を高々と掲げたその間に、巨大なエネルギーの球が膨れ上がる。
「きさまっ、何をする気だ」バーダックは叫んだ。
「知れたこと。その球にオレの球をぶつけてまとめてやつらにお見舞いしてやるのさ」
「や、やめろ。オレたちまで巻き添えになる」パンブーキンが青ざめて言った。
「運が悪かったなあ」男は凄みのある笑みを浮かべた。「その球離すなよ」
「くそっ、逃げろ! みんな!!」
 バーダックが叫ぶより一瞬早く、男の手から巨大なエネルギー球が放たれた。わっと叫んで3人の上級戦士たちが空高く逃げていく。
「くらえーーーーっ!!」

 男が放った目も眩むばかりのまばゆい球は一瞬にしてパワーボールと融合し、巨大な光の塊となって敵の只中へ突っ込んだ。
 が、次の瞬間、それはバリヤーによって弾き返されてきた。
 男は跳ね返されたエネルギーの塊をよける間もなく、一瞬にして蒸発してしまった。何もない空に男の断末魔の叫びが尾を引いてゆく。

 エネルギーボールの融合の際に吹っ飛ばされたバーダックたちは、衝撃波が体を撃つ寸前に受け身を取り、放射状に広がってゆく爆風に体を委ねながら体勢を立て直した。
 向こうに見える山を目がけてエネルギーボールが飛んでゆく。バーダックは仲間に向かって叫んだ。
「あのボールを制御しろ! 空に打ち上げて満月を生み出すんだ」
 彼らは次々に両手を構えると、渾身の力を込めてエネルギーボールをコントロールし、空へと放った。
「弾けて混ざれっ」

 大猿化した攻撃が奏効して戦況はこちらへ有利に傾いてきた。大打撃を受けた敵は停戦を申し出てきており、もはや降伏するのも時間の問題だろう。
 生き残った戦士は上級戦士のチームその1が3名、その2が5名、バータックのチームが6名。戦死者は5名。全て上級戦士だった。

「よくやった。今回のこと、フリーザさまも大層お喜びだ。今、ザーボンさまの船がこちらへ向かわれている。敵に降伏か死か選ばせるためにな。3時間の休憩に入る。解散してよし」
 ご満悦のモンバームが宇宙船の司令官室へ引き揚げた。戦士たちはめいめい当てがわれた部屋へと戻り、思い思いに休みを取った。
 部屋といっても、上級戦士は2人で1部屋、下級戦士は男と女それぞれ1室ずつに詰め込まれる。執務室と寝室とシャワールーム完備の司令官室とは雲泥の差だった。

 半時間ほど経った頃だろうか、部屋でトーマたちとくつろいでいたバーダックはセリパに廊下に呼び出された。
「どうした」
「ロタがいないんだよ」
「なに!? いつからだ」
「休憩時間になってすぐ。ちょっとそのへん見てくるって言って。だけどスカウターを置いてってるし、この船にはいないみたいなんだ」
「おーい、どうした」ドアを開けてのんびりとトーマが顔をだした。「カードでもやらねえか。勝ったやつにはみんなのおごりで1杯。どうだ?」
「トーマ、モンバームのやつが部屋にいるかどうか確かめてきてくれ」
「へ? なんでまた」
「急げ!」
 トーマは何だかよくわからないまま駆け出したが、しばらくたって戻ってくると、司令官は不在だと言った。
「休憩時間になってすぐどこかへ出かけたとよ。お供も連れずにだ」
「しまった!」
「バーダック?」
「おい、どこへ行くんだよ、バーダック」
 後ろから叫ぶ二人の声は耳に入らなかった。バーダックは宇宙船を飛び出すと、空を切り裂いて飛んで行った。

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