カルナバル
  
[Carnaval:スペイン語 〜カーニバル、謝肉祭の意〜]

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第9章

 それから新しい任務が与えられるまでの5日間、バーダックたちはたっぷり休養を取り、下級戦士用のトレーニングルームで汗を流して過ごした。完全な休みは月に2日あるかないかの彼らにとっては、まさに異例のことだった。
「レベルAだって!?」
 召集をかけられ、トレーニングルームに仲間と共に集まったセリパは、思わず叫び声をあげた。次の戦地は上級戦士の中でも生え抜きのチームしか行かされることのない、NW−37星域の難関と呼ばれる区域の中にあった。
「ムチャクチャだ」パンブーキンが青くなって頭を抱えた。
「オレたちも買いかぶられたもんだな」
「ふざけてるんじゃないよ、バーダック。これはあたしたちへの死刑宣告だ。だから言っただろ、モンバームを怒らせて無事でいたやつなんていないって」
「そう悲観的になるな。まだオレたちが全滅すると決まったわけじゃない」
 バーダックが手にした命令書を引ったくると、セリパは読み上げた。
「BK−5281Kを制圧すべし。重力、質量――惑星ベジータとほぼ同じ。気候――寒冷。文明レベル――B。サイヤ人よりやや劣るってことかい?。住民――人間型。戦闘力200……」
「戦闘力200? レベルCじゃないか」
「先を読んでみろ。やつらはオレたちと同じ変身型の生物だ。変身形態、変身後の戦闘力ともに不明」
「不明?」
「返り討ちにあってそれ以上データ収集が出来なかったってことだろう」
「それでレベルAか。イヤな予感がしてきたぜ」パンブーキンが肩を落として言った。
 何か感じているのかいないのか、トテッポは相変わらず無表情でスナック菓子をムシャムシャやっている。
 バーダックはロタに目を留めた。
「どうした。顔色が悪いな。おまえも怖気づいたのか」
「いえ、別に……」
「ならいいが」

 仲間に向き直るとバーダックは言った。「出発までまだ時間がある。それまでにフォーメーションをやり直そう。トテッポ、おまえはトーマの代わりをやれ。トテッポの位置にパンブーキン、パンブーキンの抜けたところにロタが入る。セリパ、おまえはいつも通りでいい」
 瀕死の重傷から蘇ったロタの力は今やパンブーキンに迫り、セリパとの差は開く一方だった。セリパは一瞬唇を噛んだが、黙ったままロタの後ろについた。
 バーダックはトレーニングルームの操作盤のボタンを押した。収納庫から訓練用のエネミーロボットが次々に飛び出してくる。戦士たちはただちにそれぞれの位置から攻撃にうつった。
「トテッポ、パンブーキン、動きが鈍い! セリパ、回り込むのが遅いぞ。ロタ、ぼんやりするな!」
 フォーメーションのタイプを変えてトレーニングを繰り返すうちに、やがて出発の時間が迫った。

 自分の腹も司令官室の壁と同じ目に遭わされてはたまらないと思ったのか、今回の整備士の仕事は完璧だった。ざっと調べて異状がないのを確認すると、バーダックたちはめいめいポッドに乗り込んだ。発着場のゲートが開き、5個のポッドが宇宙めがけて射出されてゆく。
 数日後、彼らは目的の地BK−5281Kの上空4万メートルに到達した。操縦席のスクリーンには緑の海に浮かぶ大きな大陸が映っている。
「さあてと、派手におっぱじめるとするか」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ、バーダック。いきなり行くのはヤバイぜ。荒野にでも降りて、まずは様子を見たほうがいいんじゃねえのか」
「変身型生物ってのも気になるしね……」
「へっ、何を怖気づいてやがる。サイヤ人と文明レベルが似たり寄ったりってことは、たとえコソコソ荒野に降りたところですぐ捕捉されるってことだ。大都市のど真ん中に奇襲をかけて、まずは先制攻撃で突破口を開く」
「待って」
「何か異議があるのか、ロタ」
「奇襲はわたしも賛成です。でも、やみくもに攻撃しても効果は期待できない。敵の中枢部を叩き、通信網を断つのが先決です」
「どこが中枢部かなんてどうやったらわかるんだい。人口でも数えてみるのかい」皮肉っぽくセリパが応じた。
「映像を送ります」
 5つのポッドのスクリーンが一斉に切り替わり、下界の地図を加工した画像が映し出された。
「大陸の中央にオレンジ色の部分が見えるでしょう。二酸化炭素の排出量を示しています。このオレンジ色が集中している部分、これが敵の政治・経済の中心だと思います。ここを叩けば……」
「なるほどな」
「あんた、こんなデータいったいどこから引っ張り出してきたんだい」
「右側のコントロールパネルを開いてください。小さなモニターがあります。その下に映像からデータを解析するためのコンピュータが搭載されています」
「驚いたな」パンブーキンが大声で言った。「ポッドにこんなもんがついてたなんて、初めて聞いたぜ」
「オレたちが今まで戦った相手は、そこまでする必要がなかったからな」バーダックは何かを考えるようにつぶやくと、更に言った。「よし、着陸点は北緯25度東経156度だ。着陸と同時にフォーメーションBを展開。用意はいいか。――行くぜ」

 奇襲は成功した。ロタの言った通り、オレンジ色の集中した部分はまさに都市の中枢部だったのだ。戦士たちは自分の力と技を生かして十二分の働きをした。
 怪力のトテッポは重戦車のように軍と通信の重要施設を破壊して反撃のチャンスと意欲を失わせ、パンブーキンとセリパはそれぞれ敵の一個師団と対等に渡り合い、これを壊滅した。
 ロタはここでも見事な戦いぶりを見せた。自身も敵の戦闘機を叩き落しながら、戦闘そのものについ夢中になって回りが見えなくなるパンブーキンとセリパの援護をし、その一方で全体の統率をとるバーダックの補佐もこなすという、八面六臂はちめんろっぴの活躍ぶりだった。

 戦闘が3時間を越える頃、頭脳を失った都市は機能を停止し、住民たちはパニックに陥っていた。変身型生物というのは果たして本当だったのか、敵はその片鱗へんりんを見せる暇もなく、あっけなくバーダックたちに制圧された。
「もういいだろう。オレたちの任務はこの星の破壊ではなく制圧だ。損害の少ないうちにフリーザ軍に引き渡そう」
 バーダックはスカウターで仲間を呼び寄せた。
「へっへっへ。もう終わりかよ。物足りねえな。下級戦士のオレたちがレベルAを陥れたとあっちゃ、上級戦士のやつらども、慌てふためくぜ」
 パンブーキンは行きがけの駄賃とばかりに手当たり次第に残っていた軍の施設を破壊し、軍艦と戦車を片っ端から鉄の塊に変えた。

 その時、上空に銀色に輝く細長い物体が見えた。なまじな銃器などきかない人間兵器のようなサイヤ人に敵も捨て鉢になったのか、民間人がいるというのに街なかにミサイルを撃ちこんできたのだ。
「けっ、こんなオモチャでオレたちにかなうと思ってやがるのか! 木っ端微塵にしてくれるぜ」
「パンブーキン! それに触れてはいけない」

 ロタが叫んだが時すでに遅く、パンブーキンの両手からエネルギーの塊が上空のミサイル目がけて発射された。次の瞬間、激しい炸裂音と共に爆風と破片が彼を直撃した。
「ぐあっ」
「パンブーキン!」

 かろうじて飛び散る破片をよけたバーダックは、キリモミ状態で瓦礫がれきの山目指して落ちてゆくパンブーキンを空中で捕まえた。
 なおも勢いづいてミサイルの雨が降ってくる。トテッポがたくましい腕を振りかざし、ミサイルの発射地点に手当たり次第にエネルギー弾をぶち込むと、ようやくあたりは死の静寂に包まれた。

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