カルナバル
  
[Carnaval:スペイン語 〜カーニバル、謝肉祭の意〜]

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第23章

「二人を見ててくれ!」
 バーダックは空へ飛び上がった。森の上を旋回しながらトーマを探す。やがて彼は森のはずれの大木に寄りかかるようにして気を失っている僚友の姿を見つけて降りて行った。
「トーマ!!」
 抱き起こすと、唇の端から血を滴らせながらトーマがうめいた。彼もまた腹に重傷を負っていた。

 トーマは苦痛に顔を歪めながら切れ切れに言葉を吐き出した。
「くそ……やられたぜ。バーダック、岩石人間じゃねえ……オレをやったのは……」
「わかっている。例の敵だな。今はしゃべるなトーマ」
 トーマはがっくりと首を垂れてまた気を失った。バーダックはポッドを呼び寄せると、中にトーマを入れて生命維持装置につないだ。
 敵はあともうわずかしか残っていない。だが、メンバーの半分がやられてしまったのだ。帰還するしかなかった。

 胸騒ぎがして、バーダックは元の場所へと急いだ。戻ってみると2機のポッドの脇にセリパが倒れ、ロタの周りを数十人の岩石人間たちが取り囲んで、じりじりと間合いを詰めていた。
 バーダックはロタと背中合わせに降り立った。
「セリパがやられたわ」
「嗅ぎつけて来やがったか」

 掛け声を合図に、岩石人間たちは一斉にわっと襲い掛かってきた。バーダックとロタは息の合ったコンビネーションで敵を迎え討った。
 まったくロタは戦いにおいても素晴らしいパートナーだった。次にどう攻撃し、そのために相手と連携してどう動くべきか、言葉を掛け合わずとも互いの考えていることがわかるのだ。
 これで戦闘力がバーダックと互角にまで釣り合えば、トーマと組むよりも目ざましい戦果が上げられるかもしれない。

 岩石人間たちは二人の攻撃にバタバタと倒れてゆき、中の何体かは粒子となって風に四散した。残るはあと二人。
(いける!)
 一気に片をつけようと前に進み出た時、ロタが警告の叫びを上げた。
「バーダック!!」
 気づいた時には既に彼のすぐ左前方まで、ジグザグに走る青白い光が迫ってきていた。その光は左の大木の陰に立っている岩石人間の両手から発せられている。

(畜生!! もう一人隠れていやがったか)
 やられる。そう思った瞬間、ロタの背中が前に飛び込んできた。激しい衝撃音がして、彼女の撃ったエネルギー弾が敵の電撃弾と空中でぶつかり合ったのがわかった。青白い光と白金の光、二つのパワーの塊はどちらも一歩も譲らず、激しくスパークを繰り返している。

 やがて、じりじりとロタのエネルギー弾が優勢になり、凝縮したパワーの一撃をさらに彼女が叩き込むと、輝きを増した白金の光は加速しながら青白い光を押し返してゆき、周りの木々ごと敵を跡形もなく吹き飛ばした。
 力を使い果たしたロタが、がくりと片膝をつく。そこを狙いすましたように残った二人の敵が襲い掛かってくる。

「オレが相手だ!!」バーダックは叫んだ。ロタの体力が少しでも回復するまでの間、敵を二人とも食い止めておければ……。
 しかし、敵の行く手を封じながらでは思うような攻撃が出来ない。ついに一人がバーダックを回りこんでロタに突進した。
「しまった!!」

 だが、彼は振り向かなかった。瞬時に頭を切り替え、目の前の敵に集中する――それがベストの選択であると本能が教えてくれる。
 助けに向かえば、その一瞬の隙をついて二人ともやられてしまう。後はロタの運に任すしかない。戦闘の場においては、情よりも戦士としての本能で体が動くのがサイヤ人の習性だった。

 やっとの思いで敵を倒し、振り向くとロタはまだ闘っていた。バーダックが加勢に向かおうとしたその時、敵の手がロタの尻尾を掴んだ。
 小さく悲鳴を上げ、ロタの全身から力が抜けてゆく。バーダックの接近を威嚇いかくするように、敵はロタを羽交い絞めにして盾にした。手はしっかりと彼女の尻尾を握り締めている。

「バーダック、撃って! 私ごと撃って。早く!!」
 ロタが声を振り絞って叫ぶ。バーダックは歯を食いしばった。
 敵の体を取り囲んで小さな稲妻が走り始めた。電撃弾を撃つために電気エネルギーを貯めているのだ。
 躊躇ちゅうちょしている時間はない。彼は片手にパワーを集めると、ロタを狙ってエネルギー弾を放った。

 バーダックが撃ったエネルギー弾はロタに突き刺さる寸前で鋭く曲がり、彼女の尻尾を根元から切断した。反動で敵は後ろへ弾き飛ばされ、ロタは前に倒れた。
 大きく跳躍して一気に敵の目の前に出ると、バーダックはエネルギー弾で岩石人間の頭を吹き飛ばした。

 胴体だけになってもさらにまだ向かって来ようとする敵に、体勢を立て直したロタがとどめのエネルギー弾をぶち込む。慣性の法則で2、3歩歩いたあと、岩石人間は膝を折ってその場にどうと倒れ伏し、パッと粒子に変わって風に散った。
「終わった……」
 バーダックは息を長く吐き出した。セリパの介抱をロタに頼み、空高く舞い上がりスカウターでぐるりを見回して、敵の生き残りがいないか調べた。
 スカウターは反応しない。どうやら今のが最後の敵だったようだ。

 ――いや、まだ残っている。目に見えない敵だ。やつは彼らの息の根を止めようとこの星のどこかに潜んでいるはずだった。バーダックは更に念入りにあたりを見回した。
 いない。どこへ消えた……。暗雲が胸に広がってゆく。それはかつてLA10BKポイントで感じたと同じ種類のものだった。戦士としての本能が激しく彼に警告しているのだ。危険――危険だ――油断するな――と。

 とりあえずは負傷者を連れて惑星ベジータに帰還せねばならない。彼は下を見下ろした。そして、驚愕に目を見張った。
 信じられないものを彼の目は捉えていた。震える手で彼はスカウターを押さえた。
(嘘だ……そんな……そんなバカなことが……)

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