Michael Franksのアルバムを聴こうと思ったのは、居酒屋クルセイダーズで、お客様の不惑こえたベーシストさんや、
カールトン夫人の話柄にのぼったからで、アドリブ誌のクルセイダーズ特集で、Michael Franksのアルバム「Sleepig Gypsy」
に「Chain Reaction」に詞をつけて歌った曲が収録されていることを知ってもそれほど食指は動きませんでした。
それまでこの御仁の存在さえ知らないほど奥手だったわけで、居酒屋クルセイダーズでお客様の薫陶を受けたことになり
ます。そういった意味では、やはり縁のなせる業だったのでしょう。
ただ、アルバムを購入してから傾聴するまでには、いささか日数を要しました。本でいうところの「積んどく」状態
にあったわけです。というのも、あのマイケルさんのソフトな歌声にちょっぴりアレルギー反応を起こしたのです。
「闘魂」演奏組と甘いマイケルさんの歌声という不思議なパズルのような組み合わせに、まるでエアーポケットにストン
と落ち込むような温度格差を感じてしまい、どうも、いわゆる「起ち」がわるいのです。慣れるには「ゆとり」が
必要でした。
やっと機が熟したとでもいうのでしょうか、今回は本腰をいれて聴けました。
とにかくメロメロになるとはこういった状態かと自覚できるほどJoe SampleやLarry Carltonの演奏が素晴らしい
。細部にわたって冴えわたり、透明度がきわだっています。ふっと浮かんだ言葉が「水晶の夜」。あの
ユダヤ人虐殺の引き金となったナチス突撃隊のユダヤ人住宅への襲撃放火事件、その際砕け散った窓ガラスの
破片が月明かりに照らされて輝くさまを比喩して言われた言葉。そのクールな響き。目前の
悲惨な光景とは裏腹のクールで透明な文字通り水晶の夜と呼ぶにふさわしいたたずまい。
情に厚いWilton Felderの仕込杖のベースといい、「JIVE」で見せるMichaelBreckerの骨太のテナーといい、
ご両人が見せる男振りがこのアルバムに侠を添えます。
最後の「MR.BLUE」には鳥肌立つほど陶然となりました。Michael Franksの甘いテイストが闘魂組演奏とみごとに融和し、
哀切なメローディーとなって結実しています。この味、やはりお茶を飲み心和ませる「ゆとり」が必要な
ようです。
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