大好きなアルバムについて語ることは嬉しいことです。縹渺とした幸せな気持ちになります。
実は、広瀬隆著『漢方経済学』を読了したばかりでした。
書中に暴露された政治家・企業家・官僚・学者・提灯持ち評論家の
金と利権がらみの腐りきった世界と、あの破綻した夕張の状況が今すぐそこにまで迫っている当地の地方行政のはざ間で、
何とも遣りきれない気分になっていたのです
が、夜分全曲バカラックのカバーのDAVID.T.WALKERの「BELOVED」を聴いていると胸のつかえが取れたように
気持ちが安らぎ、何とも心地よい安息を得たような気分になっていくのでした。
それにしてもグッドタイミングでした。既に廃盤に等しく、四方八方探せど見当たらなかったこの玉手箱のようなアルバム
を、居酒屋常連のおやぢさんに送っていただきました。欣快これに過ぐるはありません。おやぢさんに感謝します。
ところでバート・バカラック、時経ても、いささかも色あせない瑞々しさに満ちています。バート・バカラックを知ったのは、
高校生の頃読んだ雑誌「スクリーン」の映画『明日に向かって撃て』の音楽コラムでした。くどいくらいに「水平思考」という言葉
が使われていたのを今でも思い出します。既成の音楽構成に囚われない自由な発想で作曲活動をするのがバカラックの作法
といった意味のことも記されていました。確かに、そこには油っぽさとは無縁の、
あっさりした浮世絵の「水平のエロティシズム」にも似た和の感触を覚えます。
そのバカラックの曲を、アルバム全体に亘って、
ひげのファンキーおじさんが奏でると聞けば、食指が動かないはずがありません。
しかもこのアルバムを企画したのは日本とのこと、その慧眼は素晴らしく、
DAVID.T.WALKERが日本人好みであるのも頷けます。
柑橘系で洒脱なバカラックの妙味とDAVID.T.WALKERの情の綴れ織とが、まるで映画「シェルブールの雨傘」の背景色
と色とりどりの雨傘の彩りのように絶妙のコントラストと調和を生み出していて、その雰囲気に陶然と酔いしれてしまいます。
「What The World Needs Now」も、「The Look Of Love」も、マァどの曲も、聴くほどに愛しさが増します。このアルバムは、ハートの引き出しに
そっとしまっておきたい宝物です。
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