熊本市のレコードショップもめっきり少なくなりました。老舗といわれていた二店舗はいずれも閉じました。
閉店した老舗のひとつ
「マツモトレコード」はクルセイダーズのアルバム在庫にかけてはおそらく南九州随一と思っていただけに
残念でなりません。
それでも出張した折などは、時間に余裕があれば自然とレコード店に足が向かいます。といっても
前述したような状況ですから、向かうのは某中古ショップ。上通り町のはずれにあり、古本屋と対面するその店は、
レコード、CD、ミュージックビデオなど結構品揃えも豊富で、店内を
巡っているだけでも楽しくなります。
もちろんそんな店に寄るのも毎度のごとくクルセイダーズ関係の掘出し物を見つけるためですが、残念ながら
発見できることはほとんどありません。それでも未練がましく
店を訪れるのは、クルセイダーズに惚れた誼で淡い期待があるから。
過日、立ち寄り、CD棚のクルセイダーズインデックスの箇所を見ると、3枚しかありません。目新しいものはない。
予期していたことですから
別に落胆することもなく、こんな時、次に自然に視線が向かうのがSAXのコーナーで、Wilton Felderのところ。一枚も
ありません。そしてこれが縁なのでしょうね、ハエが美味しい果物にとまるように一枚のCDに視線が釘付けになりました。
Barney Wilenの「ふらんす物語」です。
1989年に発売されたらしいこのアルバムは「ジャズ・サックスのすべて」で知り、当時、垂涎の的でした。
その頃はまだネットも盛んではなくレコード店を捜し回った記憶があります。でもどの店舗にも置いて
なく、やがて時の経過とともに忘れ去っていました。それがあの「シェルブールの雨傘」の恋人のように偶然に再会
したのです。
おそらくフイルムノワールと称する犯罪映画や、仏映画に興味のある御仁は間違いなくこのアルバムに食指が動く
でしょう。収録された7曲は「ふらんす物語」のタイトル通り仏スクリーンミュージックの名曲ばかり。
Barney Wilenは一度も聴いたことがありませんが、
そのバタ臭い名前が喚起するイメージに妙に惹かれます。経験上こんな時は不見転で買ってもハズレは少ないもの。
そして思ったとおり、「アタリ!」でした。思うにアルバムには一冊の短編集、一本の映画、そして熱の伝わる
ライブもの、個人的にはこの三種類があると推察しています。この「ふらんす物語」はまぎれもなく一冊の
短編集です。Barney Wilenのサックスの織り成す一曲一曲にそれぞれ異なった色合いと味わいがあり、
目を閉じて聴くと、それぞれの曲に陶然となる物語が浮かんできます。モノクロのジャケット写真に映えるピンクの字体の
ようにシャレていて、艶っぽい。
またしてもクルセイダーズが、さそい水となりました。
|