プレイヤーにCDをセットすると哀愁のギター旋律が流れ、「おかえり、おかえり」と繰り返すChi-Bさんの
歌声が子守唄のように聴く者をやさしく包み込みます。ギターの音色とボーカルが絶妙にマッチしながら安息の眠りに
誘ってくれる。「もう何も考えないで そっとオヤスミ」で、赤子のように寝入ってしまい・・・
そう、寝ながら英気を養い、やがてナニワの肝っ玉おっ母ぁといっても良いようなChi-Bさんの腹が据わったボイスに
不思議と元気になりながら目を覚ます。
これはもう感心するほど寸分のブレもないChi-Bさんの闘魂ボイスがアルバム全体を一本気で貫いています。
確かに、走馬灯のような傑作アルバム「OSAKA」には、「知らんぷり」とか「かげろう」とか
「夢破れ」とか「風車カラカラからまわり」とか「着信拒否」とか一見挫折感にも似たペスミスティックな歌詞やタイトルが
星屑のように散見されるのですが、だからといってタップするわけじゃござんせん、
そこはどっこいChi-B &masta.Gさんの愛してやまない大阪のバイタリティーとでもいうのでしょうか、
ネガティブな言葉同士が相乗効果をあげてポジティブに転じ、聴いているうちに七転び八起きの調子で元気になってくる。
まるでこの逆転の消息をポジとネガとが反転した銅版レリーフにも似たCD盤のデザインが象徴的に物語っているようです。
サウンドにふとかいま見るmasta.Gさんの横顔は、
瞼が腫れ上がり、鼻血を滴らせた満身創痍のボクサーが、
試合後対戦相手を称えて抱擁するような男らしさに満ちています。だから熱くなる。だからファンキー。
「黄昏偲び草」には目頭が熱くなる。
谷崎潤一郎の小説「金色の死」のタイトルを彷彿させる「金色の月」の独特の情感。ここで必ずや鳥肌立つ瞬間が訪れます。
masta.Gさんの隠し持った匕首で一突き
される衝撃波「着信拒否」。冥界から地響きのように怨念の叫びが聞こえてくるよう。
平和なうたた寝に警鐘のような溜息ラッパを吹き鳴らす「平和RAPPA」。
この走馬灯のような映画のエンディングは、「Do it」とアジテートする重たいフックの「Bのグルーブ」。
聴いてて気がつけば、「知らんぷり、知らんぷり」と両肩を左右にゆすりながら前へ前へと歩き出していました。
サァ、元気に始まりです!
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