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Cool Cool Dandy2  〜Summer Night Festival〜

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第1章

 夜空を真昼のように明るくカクテル光線が照らしている。5万3千人がつめかけた西都スタジアム。北都ポーラスターズ対西都タイタンズの試合は、2−0でポーラスターズがリードしていた。
 6回表、ポーラスターズの攻撃。2死1、2塁から6番打者の打った球は、一直線にヤムチャのいるレフトへと飛んできた。ほぼ定位置で難なく取ってスリーアウト。
 ヤムチャはボールを握ったままレフトスタンドを振り向いた。こっちへ投げてくれと叫ぶ声があちこちで聞こえ、観客の伸ばした両腕が花のようにスタンドに咲いている。スリーアウトの球は観客席に投げ込んでくれる彼のサービスをみんな知っているのだ。

 そんな中で、彼は最前列にいる少女二人に目がけて球をほうった。ひとりはあどけない顔に海の色の瞳が印象的な、栗色の髪を顎までのボブにした少女。もうひとりはきりっとしたヘーゼルの瞳と同じ色の長い髪をポニーテールにした少女。ボールをキャッチしたのはポニーテールの方だった。
 捕り損ねた他の観客が「あーあ」と失望の声をあげて元いた場所に座り直す中、その少女は大事そうに両手でボールを握りしめたまま、ヤムチャにニッと微笑んだ。ヤムチャも帽子のひさしにちょっと手をやって微笑み返すと、小走りでダッグアウトへと戻って行く。

「他のお客さんにもあげればいいのに……」海の色の瞳の少女―――つまりはアメリアが、隣のマリーンに小声で囁いた。「ヤムチャさんたら、わたしたちが見に来る時はいつだってこっちに向かって投げるんだから」
「ふふふ。これでいくつ貯まったかしら。あいつにサインさせて売れば儲かるわよ」
「マリーンったら!」
「冗談よ」
 ポニーテールを揺らしながらマリーンはすました顔で答えると、ボールを近くにいた小学生の男の子に渡した。男の子は嬉しそうに目を輝かせ、父親らしい男と一緒にマリーンに礼を言った。それに微笑み返しながら座り直そうとした彼女は、ふと動きを止め、怪訝けげんそうにあたりを見回した。

「どうしたの? マリーン」
「なんか視線を感じるの。悪意のこもった目で誰かがあたしを見てる」
「きっとわたしたちがボールをもらう常連だって気づいた人がいるのよ。熱心なファンは毎試合見に来るんだもの。反感買ってるのかも」
「ふん。いい度胸だわね。あたしにケンカ売るつもりなら買ってやろうじゃない」
 マリーンは挑戦的にゆっくりと周りに顔を巡らせた。依然として刺すような視線は感じるものの、それがスタンドのどこから送られてくるのやらわからない。彼女はあきらめて前を向いた。背中にじりじりと感じるむき出しの敵意は、その後もしばらくの間続いた。

 試合は6回裏タイタンズの攻撃に移った。1死1、2塁と逆転のチャンスだ。バッターボックスに向かいかけた3番のルティネスが、ネクストバッターズサークルのヤムチャを振り向いて言った。
「今日も彼女、来てるのか。いいなあ。オレも郷里からカミさん呼ぼうかな」
 冷やかしというより、その口調にはほんのわずかだが切実さが混じっていた。愛妻と年老いた両親や弟妹を故郷の村に残し、彼が西の都へ出稼ぎに来て2年になる。
 彼がタイタンズに入団して以来、村の子どもたちは貧困から脱出する栄光の職業として、プロ野球選手を夢見ているらしい。小学校教諭の妻はそんな子どもたちを教え導く仕事を誇りに思っていて、夫について西の都へ来るのを拒んでいるという話を、彼自身の口から聞いたことがある。

 ルティネスはごつい体といかめしい顔に不釣り合いのつぶらな黒い瞳をくりくりさせながら、にやにやして続けた。
「終わったらデートに直行か? 明日も試合はあるんだぜ。朝帰りはダメよん」
「あほう。三振してこい」
 豪快に笑いながら陽気な僚友りょうゆうはバットをかついでバッターボックスに向かい、ヤムチャは小さく溜息をついてサークルの中で力任せに素振りを始めた。
(人の気も知らないで勝手なこと言いやがるぜ。念願の朝帰りが出来るんなら、試合なんて1回くらいフイにしたって……)
 熱血漢のスターノ監督に聞かれたら、ぶん殴られそうなことをつい考えてしまう。
 それというのもマリーンのガードが堅く、二人の仲がいつまで経っても進展しないからだ。何度かそれとなくほのめかしてみたが、ある時はやんわりと、ある時はきっぱりと拒絶されて、どうしても先へ進めない。今までいろいろなタイプの女の子とつき合ったが、こんなにガードが堅いのは初めてだった。
(ピッコロにえらそうに講釈たれたりしたけど、正直言って女の考えてることなんて、今もってオレにはさっぱりだ)


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