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Cool Cool Dandy2  〜Summer Night Festival〜

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第8章

 日曜の夜、マリーンとアメリアはTVでナイター中継を見ていた。南都スタジアムで行われている西都タイタンズ対南都トロピカルズの試合は、7−5で迎えた9回裏、一死一三塁からトロピカルズの4番、バーラが打席に入った。
『ここでバーラの一発が出ればトロピカルズ逆転のチャンスです』
 トロピカルズの応援団は一段と気勢を上げた。カウント2−2からの第5球、高めのボール球をバーラは思い切り叩きつけた。弾丸ライナーがレフト−センター間へ飛んで行く。

 あわや抜けるかと思われたその球を、横っ飛びにヤムチャのグラブがキャッチした。倒れ込むヤムチャ。すぐさま起きあがって投げた球は、キャッチャーミットに一直線に突き刺さる。タッチアップの三塁ランナーとキャッチャーが交錯した。球審の右手が挙がった。
「アウト!!」

「やったあ!!」
 マリーンとアメリアはTVの前で抱き合って喜んだ。アナウンサーと解説者が興奮して口早に言い合っている。
『さすが強肩です。レフトのヤムチャ。解説のフケッカーさん、すごい球でしたねえ』
『まるで内野手の送球でしたね。ドーンという捕球の音がここまで聞こえて来ましたよ』
『彼はこの試合、一人で4点をたたき出しています。正に打ってよし、守ってよしの選手ですね』

「狂犬? もっと他に言いようはないのかしら」
「肩が強いって意味の強肩じゃないかしら。外野手の必須条件よ」
 アメリアが訂正すると、マリーンは目を丸くして言った。
「なんだ。『狂犬ヤムチャ』ってキャッチフレーズかと思ったわ。ダイレクトに投げるのがそんなにすごいの?」
「相変わらず野球オンチね。マリーン」
「ふ、ふん。ストライク3つで三振、アウト3つでチェンジってことだけ知ってりゃいいのよ」
 マリーンの強がりにアメリアは苦笑した。野球に無関心だった彼女がナイター中継を一生懸命見ているさまが、アメリアには微笑ましくてならない。

「いよいよ明日、ヤムチャさんに会えるわね。眠れなくても早く寝なきゃダメよ。きっと朝早く来るだろうから」
「しょうがないわね。せっかくの休みだってのに朝寝坊も出来やしない。やんなっちゃう」
「もう、素直じゃないんだから。でも羨ましい。相思相愛っていいな」
「相思相愛ねえ……それが問題なのよ」
「どうかしたの? マリーン」

 溜息混じりでマリーンは打ち消すように片手を振った。
「あんたに聞かせるにはまだ早いわ。それより、あんただってピッコロさんと相思相愛じゃないの」
「ピッコロさんはわたしのこと何とも思っていないわ。わかるもの。……悲しいけど」
 寂しげなアメリアの微笑にマリーンは神妙な顔になった。
「そういや、アメリアの想い人にあたしは一度も会ったことなかったわね。どんな人なのかしら」

 アメリアが目を輝かせた。
「会ってくれる? きっとマリーンも一目で好きになるわ。でもどうしよう……ヤムチャさんを失恋させることになっちゃったら」
「うーん、どうかしら。それはないと思うけど」
「あら。どうもごちそうさま」
 にやにやするアメリアにマリーンは赤くなり、慌てて言った。
「べ、別にそういう意味じゃ……。ヤムチャに言わないでよ。いい気になるから」
「ほんとにマリーンって意地っ張りね」
 アメリアはクスクス笑った。


 翌朝、アメリアの言った通り、早くにヤムチャはマリーンのアパートに向かった。遠征から帰ったばかりで疲れており、昼まで寝ていたいところだったが、今日は二人とも一日中フリーという、めったにない休日なのだ。時間を無駄にする気にはなれない。
 ドアを開けてくれたのはアメリアだった。
「いらっしゃい、ヤムチャさん。マリーンがさっきからお待ちかねよ。朝起きた時からそわそわして落ち着かないの。遠足前の小学生みたい」
「余計なこと言うんじゃないの」
 奥からマリーンが出てきてアメリアの頭をこづいた。それからヤムチャの顔を見て、ちょっと照れくさそうに笑った。

「傷、目立たなくなったじゃないか」
「まあね」
 あまりその事に触れて欲しくなさそうだったので、ヤムチャはそれ以上言うのをやめた。それに、あの日のことを蒸し返せば、アロマのことをマリーンに思い出させてしまうだろう。彼としてもそれは避けたかった。
(なるべく早くアロマに電話しなくちゃいけないな。なんか切羽詰ってたみたいだったし)
 人のいい彼は親切心からそう思った。

「どうせ朝ごはん食べずに来たんでしょ。そう思ってあんたの分も作ってあるわよ」
 ダイニングテーブルにサラダの皿を並べながらマリーンが言った。アメリアは手早くベーコンエッグを作って、それぞれの皿に入れている。
「サンキュー、いつも悪いな」
 3人で食卓を囲む風景にも、いつの間にか慣れてしまった。
(プーアルのやつもそのうち連れてきてやろう。そうだ、いっそ4人で一緒に住むのもいいな。……と、それじゃあのマンションだと狭すぎるか。郊外に一軒家でも借りて……。いや、その前に結婚だ。結婚)

 際限なく広がってゆく空想から我に返り、ヤムチャは食後のコーヒーを手に、目の前の恋人を見つめた。難攻不落の城に住む姫君は、唇にわずかに微笑みを浮かべ、美しいヘーゼルの瞳でこちらを見つめ返している。
 マリーンこそ神が作り給うた片割れのはずだ。彼女がいない人生など、ヤムチャにはもはや考えられなかった。


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