Cool Cool Dandy2 〜Summer Night Festival〜
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第13章
その頃、神殿ではマリーンが物珍しそうにあちこちを見て歩いていた。その後をヤムチャが退屈そうについて歩く。 「なあ、もういいから帰ろうって。きみがそんなに信心深いとは知らなかったな。今度から賽銭箱を置いとけってデンデに言っておくよ」 再び瞑想に入ったピッコロの背中を遠くに見ながらマリーンは声をひそめて言った。 「ねえ、ピッコロさんはアメリアのこと、どう思ってるの?」 「だから前に言わなかったか? あいつら恋愛をしないなんていう、おっそろしく無味乾燥な種族なんだ。オレだったら発狂しちまう。アメリアに忠告してやれよ。夏祭りを最後の想い出にして、いいかげん周りの男に目を向けろってな。それがあの子の幸せのためだ」 「ふぅーん、やっぱりあの子の言った通りだったのね」 「何が」 「ううん。何でもない」マリーンは口早に言うと、少しだけ声を張り上げた。「ちょうど夏祭りの実行委員の中にあの子の好みのタイプがいるらしいのよ」 「好み?」 「今はまだ、好きとかそういうレベルじゃないみたいだけど、家で話題にするくらいだから、かなり意識してるのかもよ、その男の子のこと」 空中に浮かんだピッコロの背中がかすかに身じろいだ。それを確認してマリーンはニッと笑い、ヤムチャを振り返って言った。 「お待たせ、ヤムチャ。さ、帰りましょ」 「え? ……あ、ああ」 ヤムチャは何だかよくわからないまま、こちらに差し出されたマリーンの両手を握った。デンデとポポに別れを告げて神殿を飛び立ち、西の都を眼下に見おろすところまで来たあたりで、彼女はけらけら笑い出した。 「どうしたんだよ」 「ピッコロさん、今頃焦ってるわよ、きっと」 「じゃ、さっきの……」 「ピッコロさんはすごーく耳がいいんだってアメリアに聞いてたから、ちょっと脅かしてやったのよ」 「おまえって……悪いヤツだなー」 「ああいうじれったいカップルは、少々引っかき回してやった方がいいのよ」 マリーンは笑いながら気持ちよさそうに風に目を細めた。 マンションのベランダに降りると、ヤムチャは窓の鍵を確かめた。プーアルがいれば開けてもらえるのだが、彼は今日は西都保育園で保育士をやっているのだ。 「ラッキー! 開いてるぞ。閉まってたら風呂の窓から入らなきゃいけないところだった」 「その時は玄関に回れば簡単なんじゃないの」 「それもそうだな」 窓を閉め、エアコンをパワフルにしながらマリーンが言った。 「エアカーになんて乗らないで、いつもこうやって飛んで行けば?」 「簡単に言うけどな――――コーヒーでいいか?」 「うん」 ヤムチャはバーテンダー時代を思い出させる手さばきでアイスコーヒーをふたついれて、リビングのテーブルに置きながら続けた。 「今日は晴れてるからいいけど、雨や風の時は大変なんだぜ。その上、虫や鳥はぶつかってくるし、飛行機とはニアミスするし。最近の飛行機はエンジン音が小さい上に、一般人の気って弱いから、こっちがスピード上げてると、そばまで飛んで来られてもすぐに気づかないんだよな。きみが思ってるより空は危険がいっぱいなの。 それにオレは普通の人間でいたいんだ。空を飛んでるところを見つかってみろ。いろいろ世間がうるさいじゃないか。」 「でも、タイタンズのヤムチャ選手としては、空が飛べることを公表した方が好都合なんじゃないの。フェンス際で思い切ったファインプレーが出来るじゃない」 「空を飛んでボールを捕ったってなあ……反則っぽいだろ」 「それもそうね。あんたがそれでエラーしなくなったら、あたしとしてもヤジる張り合いがなくなっちゃうし」 「言うよな」 笑いながら会話を交わしていたふたりの視線がふとぶつかった。ヤムチャが真顔になる。部屋の空気の色がとたんに変わった。 マリーンはその空気を断ち切るように明るい声を出した。 「髪を切ってあげる」 「何だよ。急に」 「前から気になってたのよ。ちょっと伸びすぎだわ。まあ任せて。ピッコロさんに負けないくらいダンディにしてあげるから」 マリーンはプーアルが変身用に使う大きな姿見を椅子の前にセットし、バッグの中から銀色に光る小さなカプセルを取りだした。 「いつもそんなの持ち歩いてるのか」 「当たり前でしょ。あたしの商売道具よ。命の次に大事なんだから」 「命の次に大事な道具で命より大事なオレの髪を切ってくれるってわけか」 「ややこしいこと言ってないで座って」 マリーンは嬉しそうにヤムチャの髪を切り始めた。 「新米って最初は子どもと学生しか触らせてもらえないのよ。大人の男なんて初めてなんだ」 「オレは実験台か!?」 思わず振り向きかけたヤムチャの頭をグイッと押さえつけ、彼女は低い声で凄んだ。 「動かないで。耳が半分になるわよ」 「大丈夫かよ」 「死刑囚みたいな顔しないでよ。失礼ね」 しばらくマリーンの手つきをおっかなびっくり見ていたヤムチャは、やがて観念したように肩の力を抜くと、鏡の中の恋人に向かって改まった口調で尋ねた。 「なあ……オレたちいつになったら結婚出来るんだ?」 「またその話? いつって……せめてあたしが一人前になって、店で一番多く指名がもらえるようになってからね」 「何年経てば一人前になれるんだよ」 「個人差もあるけど……5年くらい」 「5年!? そんなに待てないぜ。なあ、なんで今すぐじゃダメなんだ? 自慢じゃないけど、オレの稼ぎだけでも充分きみたち二人を食わせていけるんだ。アメリアだってきみだって本業の他にバイトをする必要もなくなる。未成年のきみはアメリアの親になるわけにいかないけど、オレと結婚すれば彼女をオレたちの養女にして法律的にも守ってやれるだろ。いろいろ考えてるんだぜ。これでも」 「わかってるわ。わかってるけど……。あたし、男に寄りかかって生きるのはイヤなの」 「寄りかかれなんて言ってない。きみだって働いてるんだし」 「でも、結果的にはそうだわ」 少しためらってからマリーンは口を開いた。 「あのね、ヤムチャ。あたし……」 「うん?」 言いかけて彼女は口をつぐんだ。「何でもないわ――――ほら、出来たわよ」 「サンキュー。おっ、なかなかのもんだな。これで女性ファンが3万人は増えた」 「後にあんたの背番号を刈り込んであげようか。大きく“0”って。それでプラス2万人は行くわよ」 「遠慮しとくよ。これ以上ファンが増えたら、球場に入れなくなって暴動が起きる」 鏡の中で顔を見合わせてふたりは笑った。 |