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Cool Cool Dandy2  〜Summer Night Festival〜

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第24章

「ヤムチャ!」
 あんたどうしてここに……と言いかけて、マリーンはアロマに気づき、こわばった顔で口をつぐんだ。今のですっかり酔いは醒めてしまったらしい。
 ザカーラも驚いてヤムチャとアロマを見比べている。まずいところに居合わせたかな、と、彼の目が言っていた。
「僕が誘ったんです。きのうスタジアムの前でマリーンさんにばったり会って、落ち着いて食事出来るところを教えてもらって……。雨が降ってたからそのあと宿舎まで車で送ってもらったんです。今日はそのお礼のつもりで……」
 ザカーラは他人の恋人を酔っぱらわせてしまったことで、明らかにバツの悪い思いをしているようだった。

 ヤムチャは彼に向かって言った。「おまえ、彼女が未成年だって知ってて酒を飲ませたのか」
「未成年!?」ザカーラは慌ててマリーンの方を見た。「そんな……僕と同じ新入りだって言うから、てっきり同い年だと」
「悪かったわね。高卒ルーキーで」
 マリーンはじろっとザカーラを見上げた。次いで、ヤムチャが自分を怖い顔で見ているのに気づき、あわてて目をそらせた。

「どういうつもりだ」ヤムチャはマリーンに目を据えて言った。「きみは前にもそうやって酒を飲んでひっくり返ったことがあったよな。あの時はオレが一緒だったからよかった。今夜もひっくり返ってこいつに介抱してもらうつもりか!?」
「ヤムチャ……」だんだんと大きくなっていくヤムチャの声を気にして、アロマがそっと後ろからたしなめた。ラウンジの客が何事かとこちらを注視している。
 フロントマンがやってきて柔らかな物腰で言った。「お客様、恐れ入りますが、他のお客様のご迷惑になりますので……」

「出よう」と、ヤムチャは促した。気まずい雰囲気で他の三人は彼に続いてホテルの外に出た。出がけにマリーンはアロマにちらっと目をやり、その唇にかすかに笑みが浮かんでいるのに気づいた。
 そう、彼女にとってはヤムチャを自分のものにするために、これはまさに願ってもない状況だろう。


 球場の駐車場横にある公園へ誰ともなく足が向いた。試合が終わり、観客もみんな帰ってしまったあとの球場周辺は、人影もまばらで車の通りも途絶えてひっそりしている。
 今夜は街灯もいらないくらい、満月が冴え冴えとあたりを照らしていた。月の光の下で見るマリーンは神々しいまでに美しく、ヤムチャは焼けつくような胸の痛みを覚えた。
(オレのためにそんなに着飾ってくれたことなんて今までないよな。みんなザカーラのためなのか……)

「ヤムチャさん」と、真摯しんしな口調でザカーラが言った。「マリーンさんを怒らないで下さい。僕が軽率でした。彼女といると時間を忘れてしまうくらい楽しくて……それでつい。決して下心があって誘ったわけじゃありません」
「やめてよ、そんなふうに言うの。それじゃまるであたしがヤムチャの所有物みたいじゃない。それに」と、マリーンはキッとアロマを見て続けた。「ヤムチャにはあたしのことをとやかくいう資格なんてないわ」
「これには事情があるんだ。きみが勘ぐるようなことは何もない」
「事情って何よ」
「それは……」と、ヤムチャは口ごもった。『別れた男につけまわされているなんてみっともない話、絶対に誰にも話さないでね』と、アロマから再三にわたって口止めされていたのだ。
 そのあとをアロマが引き取って言った。「ヤムチャはこれからわたしと大事な用があるのよ。ね、そうでしょ」
「……ああ」
「……そう。よくわかったわ」
 マリーンは硬い表情でヤムチャに背を向けた。彼は急いで言った。
「後で電話するよ」
 しかし、彼女は振り向きもしなかった。
「僕が彼女を送ります。ヤムチャさん、構いませんね」
 やや挑戦的な口調でヤムチャに告げると、ザカーラはマリーンの後を追った。

 彼らの姿が木立の向こうに消えたあと、アロマは腕時計を月明かりにかざした。もう11時を回っている。
「あいつとうとう来なかったわね。怖じ気づいたのかしら」
 彼女がそう言ってヤムチャを見上げた、その時―――。
「オレならここにいる」
 木立と植え込みの暗がりから男の声が聞こえた。アロマのすぐ後ろだ。振り返る間もなく、男が飛び出して来た。

 鋭い女の悲鳴。公園の駐車場でエアカーのカプセルのボタンを押して、投げようとしていたザカーラとマリーンは顔を見合わせた。
「公園の方だ! きみはここにいろ!!」ザカーラはカプセルを投げ捨て、飛び出て来たエアカーをそのままにして駆け出した。
「あたしも行く!」
 一瞬立ち止まって彼はマリーンの顔を見た。説得など受け付けないとその瞳が言っていた。
「それじゃ僕の後ろから離れるな」
 そう叫ぶなり彼は再び駆け出し、マリーンはその後について走った。


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