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Cool Cool Dandy2  〜Summer Night Festival〜

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第39章

 その夜の7時頃。マリーンが部屋でひとりでいると、玄関でチャイムの音がした。彼女は立っていって勢いよくドアを開けた。
「アメリア、早かったじゃ―――」
 言いかけてその先を呑み込んだ。ドアの外にいたのは緊張した面もちのザカーラだった。
「どうしたの?」
 とまどうマリーンの表情に促されるように、熱っぽいまなざしを彼女に当てて彼は一気にしゃべった。
「明日の試合……僕にとっては20勝を賭けた大事な試合なんだ。ぜひ見に来て欲しい。きみのために全力で投げる。そして20勝を勝ち取ってみせる」
 マリーンは言葉を失ってザカーラを見上げた。20勝というのが投手にとってどんな価値があるのか、野球オンチの彼女にはわからなかったが、達成するのがとても困難な記録なのだということだけは伝わってきた。その記念すべき試合を、この男はマリーンの為に捧げると言うのだ。
「あたし……」
 心が揺れているのが自分でもわかった。何か言わなければと思うのだが言葉が出てこない。

「ヤムチャさんは明日復帰するらしいよ」
「え……?」
「球団から情報が入った。明日付けで一軍へ戻るってさ」
 ヤムチャが二軍に落ちたのはマリーンもスポーツニュースを見て知っていた。
「僕は彼に勝つ」
 ハッとしてマリーンは顔を上げた。ザカーラはいたずらっぽい笑みを浮かべていた。が、その目には固い決意の光が揺らめいていた。
「絶対にヤムチャさんには打たせない。完全に抑えて見せる。きみはそれをスタンドで見届けてくれ」
 マリーンの手にチケットを握らせると、ザカーラは「じゃ、明日」と軽く片手を挙げて去っていった。

 居間に戻るとマリーンは溜息をついた。手の中のチケットに目を落とし、改めてそこに書かれている文字を読んだ。
 北都ポーラスターズ対西都タイタンズ戦。西都スタジアムで8月31日18時開始。席はバックネット裏。

 その時、いきなり鳴り出した電話のベルにマリーンの心臓は飛び上がった。ある予感にふるえる指で受話器を取る。
「はい」
 流れ出た声は、彼女の予感が間違っていなかったことを告げていた。
「オレだ。最後まで聞いてくれ。明日の試合、いつものようにレフトスタンドで見ていてくれないか。きみが来てくれればオレはすごいパワーが出せそうな気がするんだ。頼む」
 返事を待たずに電話は切れた。
 明日――――。
 マリーンは受話器を握りしめたまま、もう片方の手の中のチケットに目を落とした。


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