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Cool Cool Dandy2  〜Summer Night Festival〜

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第52章(最終章)

 その日は爽やかな一日だった。半袖の腕をすり抜けて行く涼風にも、雲の合間に見える青空のたたずまいにも、そこかしこに秋が見え隠れする。
 アメリアはピッコロと並んでいつものようにケヤキの木の下に座っていた。夏祭りでの事件の顛末てんまつを話す彼女の声に、ピッコロは黙って耳を傾けている。

 カークとイザーセのふたりを警察に突きだし、彼らのアジトに監禁されていたチャイブは無事救出された。マジョラムたちは仲間を人質にされ、脅迫されていたということでおとがめなしだった(その分、こっぴどく説教はされたものの)。
 子どもを自由の名のもとに放任していた彼らの親はさすがに驚き、他に向けていた関心の何分の1かを子どもに向けるようになった。それにより、劇的とは言えないまでも彼らの親子関係は改善された。
 そしてそれはマジョラムとて例外ではなかったのである。

 西都警察署の少年課の一室で、神妙な顔をしてうつむいていたマジョラムは、廊下の騒々しさに怪訝そうに顔を上げた。逆上してひっくり返った女の声が聞こえる。
「マッ、マジョラムは――――うちの娘が怪我をしたって――――どこですか!? どこ!?」
 と、同時に息せき切ったライムが飛び込んできた。娘の無事を認めるなり、「マジョラム……」というつぶやきと共に肺から全ての空気を洩らしながら、その場にへたへたと座り込む。

「お母さん、落ち着いて。怪我をしたのは犯人の男の方です。今頃警察病院に送られていますよ」
 刑事になだめられ、ライムは床にペッタリと腰を下ろしたまま、子どものように両方の拳を目に当てて泣き出した。Tシャツによれよれのコットンパンツ、寝癖のついた髪にはカーラーがひとつ。その足元に目をやったマジョラムは思わず吹き出した。
「カリスマ美容家が台無しね。なあにその格好」

 言われてライムも涙を拭って自分の姿を見やり、左右ちぐはぐなサンダルをつっかけているのに気づいて「あらやだ」と苦笑した。お互いに相手の屈託ない笑顔を見るのは久しぶりのことだった。なんのてらいも遠慮もなく、母と子は顔を見合わせていつまでも楽しそうに笑いつづけた。失った日々を取り戻そうとするかのように……。

 カークが白状したおかげで取引相手のシャブーも捕まり、西の都に本拠地を置くマフィアの一味が芋づる式に逮捕された。氷山の一角ではあるが、これで街は少し浄化されたわけだ。
 徐々にではあったが、マジョラムたちが問題を起こすこともなくなり、彼女は仲間たちよりもディルと過ごすことが多くなった。その瞳からすさんだ光はいつの間にか消え、穏やかで暖かな色が宿るようになった。


 アメリアはちらりとピッコロを盗み見た。彼の目は岩山の頂上に独り棲む鷹のように鋭く、下界の遠く遙かな地平線に向けられている。
「悪い人をやっつけて、わたしたちを助けてくれたのはピッコロさんでしょう?」
「出し抜けに何だ」ピッコロは頭を巡らしてアメリアを見た。
「あの男を診た警察病院の先生が言ってたんですって。急所をわずかに外しただけの見事な一撃だった。よほどの武道の達人によるものだろうって。ディルにはそんなことは出来ないもの」
「知らんな」
 アメリアは苦笑した。ピッコロが素直に認めるとは思っていなかったが……。

 彼女は話題を変えた。
「ヤムチャさんとマリーンね、マリーンが研修から戻ったら結婚するんですって」
「ふん。これであの野郎のノロケを耳が腐るほどまた聞かされるというわけだな」
 容赦ない悪態にくすくす笑ってから、アメリアは真面目な顔つきになって尋ねた。
「ピッコロさんは結婚しないの?」
「オレが……何だと!?」
「だからその……結婚」
 恥じらっている少女を見下ろし、ピッコロは自分が雌雄両性体であることを説明すべきかどうか迷った。

 そうだ。今こそこの娘の誤解を解く時だ。愛だの恋だの結婚だのという対象に、オレを引っぱり出すなと釘を刺しておかねばならん。

「オレたちナメック星人は結婚というものはしない」
「独身主義者なんですか」
「いや、タマゴを産んでえるからそんな必要はないのだ」
「タマゴ!?」
「そうだ」ピッコロはおごそかに言った。「オレたちは口からタマゴを産む」

 ショックを受けて黙り込んでしまったアメリアが、しばらくして何やらブツブツ独り言を言っているのにピッコロは気づいた。そっと聞き耳を立ててみると、彼女はこうつぶやいているのだった。
「タマゴを口から……ピッコロさんと結婚すればわたしにも出来るようになるのかしら」

 ピッコロは頭を抱えた。どうやら当分はこの娘の恋愛ごっこにつき合ってやらねばならないようだ。
 でも、それはピッコロにとって耐えがたいことかと言えば、実はそうでもないのである。
 自分に注がれた視線に気づき、アメリアは顔いっぱいにこぼれるような笑みを浮かべ、ピッコロを見上げた。
 そう、実際、この笑顔を失うことなど、ピッコロにはもはや考えられないことなのだった。


(おしまい)


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<あとがき>
 まずは、この長い長い話を第1章から第52章まで通して読んでくださった方に心より感謝を捧げます。
 「Cool Cool Dandy2」はもともとDB文庫というDB小説投稿サイトの長編リレー小説のコーナーで、一旦完結した「Cool Cool Dandy」の続編として書かれたものです。一作目を終了させた時点では、私は続きを書くつもりはありませんでした。いろんな人が交代で書く趣旨のコーナーなので、誰か他の人が別の話で後を続けてくれるだろうと思っていました。

 ところが、前作の結末でオリジナルキャラへの引け目から、二つのカップルの行く末を「別離もあり得る」と暗示する形で中途半端に終わらせたのがかえって仇になり、完結した後もまだ、私の頭の中ではヤムチャとマリーンの物語が続くことになってしまいました。

 そのうちそれを書きたい衝動が抑えきれなくなり、続編としてヤムチャのラブストーリー&球界編を書こうかと思ったのですが、いくら前作の続きとはいえ、ピッコロがメインのコーナーでヤムチャがメインの話を書くわけにはいきません。

 DB文庫の管理人さんにお願いして、ヤムチャがメインのコーナーを作ってもらおうかとも考えましたが、「Cool〜」の外伝とも言える話を別のコーナーで書くのもおかしいし、さんざん迷った末に、「Cool〜」の続きとして書くしかない、そのためには無理にでもピッコロとアメリアの話を作って2本立てにしよう、ということになりました。

 そう、この物語のピッコロとアメリアに関する部分は、私がヤムチャとマリーンの話を 書きたいがために急遽作ったお話だったのです。もし私が自分のサイトをその頃持っていれば、ピッコロとアメリアの続編は永久に書かれることはなかったでしょう。そう思うと不思議な感じがします。

 私の書く「Cool Cool Dandy」シリーズはこれで完結ですが、代わりにこの物語の続編になる素敵なお話を書いてくださっている方がいます。この後もなお4人に会いたいと思ってくださる方は、こちらの作品を読んでくださいね。

★「ウィークポイント」  「Someday……Take Your Hand」 
by さくやさん (この2作は、さくやさんのサイト「ドラ☆メタ!」にあります)

 さくやさんにはどんな感謝の言葉を並べても足りないくらいです。オリジナルキャラをこんなに可愛がっていただいて、本当に執筆者冥利に尽きます。どうもありがとうございました。

 最後に、プロ野球に関する記述は出来る限り文献を当たりましたが、間違いや勘違いなど多々あると思います。かなり非科学的で無理があることも自覚しています(^^;) そういう点にお気づきの際は遠慮なく指摘していただけるとありがたいです。
(参考にした・引用した資料)
・勝負の方程式/落合博満 小学館
・'99元祖プロ野球100の謎/二宮清純 KSS出版
・イチローのすべて/朝日ソノラマ編
・ゴジラの青春/松井秀喜 学研
・私の真実/東尾修 ベースボールマガジン社
・友情/水野雄仁 ザ・マサダ
・松坂大輔  伝説への飛翔/三木重信編 日本文芸社
・科学する野球 打撃編 /村上 豊 ベースボールマガジン社
・バッティングの正体/手塚一志 ベースボールマガジン社

(蛇足)
 オリジナルキャラの名前は次のようにして命名しました。
 アメリア……リナリア(金魚草)+雨=アメリア (ナメック星人の好きな植物と雨から)
 マリーン……海 (前回のシリーズのモチーフのひとつが海だったので)
 ザカーラ……松坂+上原  (ははは(^^;))
 アロマ……ヤムチャを惑わす色っぽい芳香という感じで。
 ディル、マジョラム、ミント、ライム……ハーブとか柑橘類とかから。アメリアに合わせて植物系で。
 カーク、イザーセ、シャブー……覚醒剤とかシャブとか(^^;)

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