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Cool Cool Dandy2  〜Summer Night Festival〜

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第2章

 おーっという観客のどよめきにヤムチャはハッと我に返った。バッターボックスのルティネスがひっくり返って尻餅をついている。カウント1−1から内角ギリギリを攻めた投手ザカーラの球が、あわやデッドボールかというコースだったようだ。起きあがっていったん打席を外したルティネスは、マウンドのザカーラに射るような視線を注いでいる。

 仕送りをしている彼にとって怪我をすることは、自分だけでなく故郷の家族の生活をも脅かすことになる。だから彼はデッドボールには人一倍怒りをあらわにするのだ。
 巨漢ルティネスの威嚇いかくに動じるさまも見せず、プレイの声がかかると、サウスポーのザカーラは淡々と投球モーションに入った。彼は野球の名門、北の都のノースシティ大学を卒業して入団後、いきなり一軍入りした22歳のスーパールーキーである。

 シーズン前半で10勝を上げ、7月は防御率1.60、奪三振24で月間MVPを受賞している。売り物は180センチの長身から投げ降ろす150キロの剛速球。だが、力だけで押すタイプではなく、実に頭脳的なピッチングが出来る。その上ルックスもよく、育ちもいいとあって、女性ファンの多さでも他の選手を圧倒していた。

 デッドボールを恐れて今度は外角を攻めてくると読んだルティネスのバットは空しく宙を切った。続けざまに内角ギリギリへ渾身のストレート。巨躯きょくがバットと共に再び空を舞い、球審が三振をコールした。
(3球続けて内角攻めか。当たってりゃ満塁だぞ。そこへ要求する捕手もすごいが、平然と投げるヤツの方もいい度胸してやがるぜ。新人のくせによ。……さて、次はオレの番か)

 ヤムチャはヘルメットをかぶり直した。邪念を払うようにバットを握りしめ、右側のバッターボックスに立つ。いつもポーカーフェイスのザカーラが珍しく口元に笑みを浮かべているような気がした。
 野球用具メーカーの懇親会で彼とは一度だけ会って話したことがある。礼儀正しく、嫌味のない好青年だった。
(いいカモだと思ってんだろうな。もしかして満塁にしてもオレなら楽勝だと思ってルティネスを攻めたんじゃないだろうな。くそ……マウンドを降りるといいヤツなんだけどなあ。ボールを握ったとたんにこの世で最もイヤなヤツに変わるんだよな)

 今までの対戦成績を思い出し、ヤムチャは憂鬱になった。彼にとってザカーラは天敵なのだ。いくら配球を読んでもことごとく裏をかかれてしまう。どうにも相性が悪いらしい。今日も3打席目の今まで、バットはボールにかすりもしなかった。このままでは4番バッターとしてのメンツが立たない。
(負けるわけにいかないんだ。何たって今日はマリーンが見に来てるんだからな。ぶざまな姿をさらしてたまるか!)
 しかし―――結果はカーブを引っかけて3塁ゴロ。レフトスタンドで嘆くマリーンの顔が目に見えるようだ。


「もうっ、見てらんないわ。行くわよ、アメリア」
 マリーンが憤懣ふんまんやるかたないといった表情でバッグを持って席を立った。
「行くって……まさか」
 大股で歩きながら振り向きざまにマリーンは言った。「そう、バックネット裏よ。今度の打席は何がなんでも打ってもらわなきゃ」
「ああ〜、またなのぉ」
 アメリアは泣きそうな声を出した。いつもはレフトを守るヤムチャの姿がよく見えるよう、スタンドに陣取るマリーンだが、今日のように彼のバットが冴えない時は、わざわざバッターボックスの近くまで移動して声援するのだ。そのたびに連れ回されるアメリアはたまったものじゃない。
「最初からあそこにいればよかったのに。チケット持ってるんだから」
「イヤならあんたはここにいれば」
 マリーンは後も見ずにさっさと行ってしまう。アメリアは急いでその後を追った。
「待ってよ、マリーン。あーあ、こんなことなら神殿に行ってピッコロさんのそばにいればよかった」

 突然マリーンの足が止まった。つんのめって彼女の背中に顔をぶつけたアメリアは、鼻を押さえてマリーンを見上げた。
「どうしたの?」
「…………」マリーンは険しい顔をしてスタンドを振り返っている。
「また、さっきの視線?」
「何なのよ、一体」
 振り切るようにマリーンは小走りに通路に出た。


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