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Cool Cool Dandy2  〜Summer Night Festival〜

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第31章

 そのあと、ヤムチャはすぐに北の都へと飛んだ。不慣れな土地で、しかも夜だ。寮を探すのは骨が折れた。ようやくたどり着いた時には午前0時を回っていた。
 どうやってマリーンに会えばいい? 寮というからには寮母か寮長か、とにかく監督者がいるはずだ。まともに行けば追い返されるに決まっている。

 悩みながら建物の周りをゆっくりと漂っていると、3階の窓にマリーンの姿が見えた。ガラスに額を押し当て、夜景でも眺めているのだろうか、さっきからじっと動かない。
 ヤムチャはなるべく驚かさないようにと思いながら―――実際それは無理な話だが―――マリーンのたたずむ窓に近づいて行った。

 彼に気づいたマリーンが、口を開け、目をいっぱいに見開いてこっちを見ている。クレセント錠を回し、大急ぎで窓を開けながら彼女は叫んだ。
「ヤムチャ! あんたそんなとこで何してるのよ!?」
「ご挨拶だな。はるばる中の都から会いに来たってのに」

 部屋の中へ飛び込んできた彼を、マリーンは腕組みをして冷ややかに眺めた。
「あんた遠征中じゃないの。夜中にこんなところまで来たりして。あたしが観客なら金返せって言うわね」
「怒ってるのか。当然だよな。見たんだろ、あの記事。でも信じてくれ。あれは―――」
「事故だって言いたいんでしょ。聞き飽きたわよ、そのセリフ。アツアツの婚約者サマと結婚でも何でもすれば」
「本気で言ってるのか」

 マリーンはフンとそっぽを向いた。「あんた女性恐怖症だったんだってね」
「アロマが言ったのか」
「初耳だわ、そんなこと」
「言う必要なんてないと思ってた。実際、オレはそんな過去のこと忘れてたんだ」
 マリーンは唇を噛んだ。
「婚約者を名乗ったのはストーカー男を諦めさせるためだったんだ。アロマだって今に落ち着けば、オレなんかより他の男に目を向ける余裕が出てくると思う」
「本気でそんなこと言ってるの。あんたって女心がちっともわかってないのね」
「オレが?」
 ヤムチャは心外だった。女性恐怖症をめでたく克服し、晴れて恋愛経験豊富とまで言われるようになったこのオレが、女心をわかってないだって?

「そんなことより、西の都を1年も離れるって本当か?」
「アメリアに聞いたのね。まだ言わないでって言っておいたのに」
 この際、アロマから聞いたとは言わない方が無難だろう。
「どうしてオレに黙っていた」
 マリーンはチラッとヤムチャをうかがってから目をそらした。「あたしの問題だもの」
「オレには関係ないってのか!? オレはきみにとってその程度の存在か。まさか――まさか北の都にはザカーラがいるから承知したんじゃないだろうな。オレ見たんだ。おととい、きみの家からあいつが出てくるところを」

 一瞬、マリーンの瞳にひるむような色が走った。それがヤムチャを刺激した。あっと思った時にはもう彼女の体はベッドの上に押し倒されていた。
「なにする気よ!」
 マリーンは起き上がろうと必死でもがいた。力を入れているようには見えないのに、彼の太い幹のような腕に押さえつけられた両手首はぴくりとも動かない。
「あいつのことが好きなのか」
「彼はいい友達よ。それよりこの手を放して」
「いやだ」

 腕を押さえつけたまま、ヤムチャはじっとマリーンを見下ろした。呼吸と共にかすかに上下する胸。ボタンを二つ外した襟元からは、暖かく甘やかな匂いが立ち上ってくる。
「オレをあんまり見くびるなよ。これでも男なんだぜ。いつまでもお預け食ってる犬みたいに扱われてたまるか」
 彼は身をかがめ、マリーンの首筋にくちづけた。
「よしてよ! 力ずくでこんなことするなんて見損なったわ」

 ヤムチャの腕からふっと力が抜けた。つかんでいた手を放し、体を起こすと彼は背を向けてつぶやいた。
「結婚もNO、オレのものになるのもイヤ、か。きみの人生もきみ自身も、オレには委ねられないってことなんだな」
 何か言おうとするマリーンを制して彼は言った。
「わかった。オレが悪かったよ。どうかしてたんだ。……忘れてくれ」
 ヤムチャは入ってきた窓から再び空へ飛び出して行った。


 宿舎に戻るともう午前1時だった。開けておいたはずの窓が閉まっている。悪い予感を感じながらヤムチャは非常口に回った。そっと中に入り、扉を閉めて顔を上げると、そこには鬼のような形相のコーチが仁王立ちしていた。
「この期に及んで門限破りか。おまえ、ほんっとにいい度胸してるな」
「すみません。どうしても行かなきゃならないところがあって。罰則は覚悟してます」
 コーチは腕組みをし、凄みのある顔で笑って見せた。
「罰則? それには及ばんよ」
「えっ、それは……」
 おとがめなしってことですか、と出かかった言葉をヤムチャはあわてて呑み込んだ。コーチはぐいと顔を近づけ、一語一語区切って言った。
「二軍へ行け」

 最後通告だ。

 とっさにはその言葉の意味が理解できず、ヤムチャはコーチの顔に目を当てたまま立ちつくしていた。


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