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Cool Cool Dandy2  〜Summer Night Festival〜

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第40章

 明けて夏祭り当日。実行委員たちは早朝から体育館に集まり、本番にそなえて最後の打ち合わせを行っていた。夏休みの間中ずっとさぼっていて一度も準備に参加しなかった者も、さすがに今日のミーティングだけは真面目に顔を出している。改めて全員集まると、こんなにいたのかと驚くほどの人数だった。

 アメリアは後の方で壁にもたれて所在なげにしているマジョラムの方をそっとうかがった。彼女を取り巻く仲間の中に小太りの少年チャイブの姿は今日もない。どうやらアメリアが気づく2、3日前から彼は中学に来なくなっていたらしい。
 てっきりサボリを決め込んだのだと思った生活指導の教師が、夏祭りの準備を手伝いに来るようチャイブの家に連絡すると、なんと彼は学校で姿が見えなくなって以来、家にもずっと帰っていないことがわかった。驚く教師に電話に出た母親は、「あの子の無断外泊は今に始まったことじゃないですから」と実にあっけらかんと答えてさらに教師を呆れさせたという。これらのことは教師同士のぼやきを漏れ聞いたミントからの情報だった。

 アメリアにはおととい見たマジョラムの血相を変えた表情が気がかりだった。「命が惜しかったら」と彼女は言った。もしかしたら街で見かけた人相の悪い男たちがチャイブの失跡に関わっているのではないだろうか。
 どうしよう、ディルに言った方がいいのかしら。でも、正直な話、ディルでは少々頼りないのだ。だからあの男たちとマジョラムとのことを、アメリアは今まで彼に話しそびれていたのだった。ディルに告げ、ディルがマジョラムに何か言ったところで彼女は聞く耳を持たないだろう。それなら余計なことを教えて、いたずらにディルの気を揉ませない方がいいのかもしれない。

 本当は優しい心を持っているのにそれを認めようとしない意地っぱりのマジョラム。彼女を放ってはおけない。たとえお節介と言われようと。
(だってマジョラムは昔のマリーンに、知り合ったばかりの頃のマリーンに似ているんだもの)
 姿かたちが、ではない。とんがった口調や態度の間にかいま見える、どことなく寂しげな表情や雰囲気が、当時のマリーンからアメリアが感じとったものと同じなのだ。
 アメリアという理解者を得るまでのマリーンは、親に捨てられたという負い目を背負い、自分で自分の価値を見い出せずに苦しんでいた。

 マジョラムにもそういった負い目があるのだろうか。彼女が荒れだしたのは中学に入ってからだ。その頃に何かきっかけになる出来事があったのか……。ディルはもしかしたら何か知っているのかもしれない。
 アメリアはそっとディルの方を見た。鍵を握っているはずの少年は彼女の思いに気づくはずもなく、実行委員長の話に一生懸命耳を傾けている。


 体育館の舞台では何度もリハーサルや打ち合わせが行われ、グラウンドの夜店では開店準備に大わらわするうちにいよいよ夏祭りの開始時刻になった。実行委員長が舞台で高らかに開催の宣言をすると同時に夜店がオープンし、生徒や保護者、地元住民がどっと繰り出してくる。

 正門を入ると桜や金木犀といった木々の間にサツキや南天などの植え込みがあり、それらを両脇に見て10メートルほどの距離を歩けば正面右に5階建ての校舎、左に体育館がある。両者は1階の部分が屋根つきの渡り廊下でつながっており、夏祭りの時は人々はここを横切って校舎の向こう側にあるグラウンドへと出るのである。

 祭のフィナーレを飾るダンスパーティーがグラウンドを広く使うため、店はすべてグラウンドのこちら寄りに2列に設置されている。そうした方が体育館の出し物を見たり、夜店を冷やかしたりといった客に都合がいいためでもある。焼きとうもろこし、綿菓子、お好み焼き、ジュース、かき氷、ヨーヨー釣り、射的など10店舗が生徒主催によるもので、あとの夜店は業者が出店していた。
 最初のうちは教育上の観点から業者の参入を許可していなかった学校側も、夏祭りが地域住民にとっても毎年の恒例行事になっていく過程で認めざるを得なくなったのだ。そのおかげで、中学の夏祭りは今や娯楽の少ないこの田舎町では、夏の終わりを告げる一大イベントと化していた。

 さまざまな扮装に身をやつした人々がにぎにぎしくやってくるのもこの祭の特徴だった。特に世界的英雄であるミスターサタンのコスプレをした連中が一番多く、実物よりも精悍なサタンから、よちよち歩きのサタンまで、おなじみのモジャモジャ頭にヒゲ面が、まるで間違い探しの絵のようにそこここにあふれ返っていた。
 その中でサタンの引き立て役として、セルやピッコロ大魔王の扮装をした悪者たちが正義のヒーロー・サタンに闘いを挑み、あっけなくやられるパフォーマンスは見物人の喝采を浴びていた。

 アメリアはそんな人々の間をかいくぐり、期待と不安に胸を高鳴らせつつピッコロを探していた。昨日神殿に行って「明日は絶対に来てね」と念を押しておいたものの、渋っていたピッコロの態度を思い出すにつれ、土壇場になって彼の気が変わるのではないかとの懸念はだんだん大きくなってくる。
 開催と同時に門をくぐった人々の中に彼の姿はなかった。


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