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Cool Cool Dandy2  〜Summer Night Festival〜

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第48章

 8回表に追加点を上げ、2−0でポーラスターズが依然リードのまま、ついに9回裏、タイタンズ最後の攻撃となった。これまで打撃ではヤムチャがひとり気を吐いていたものの、他の選手は好投のザカーラにぴしゃりと抑えられ、1塁も踏めないありさまだった。
 しかしこの回、打ち取ったはずの打者を味方のエラーで出してしまったおかげで、ザカーラは一塁に走者を背負い、2アウトで3番のルティネスをバッターボックスに迎えた。もしここでルティネスにヒットが出て、次のヤムチャにつなぐことができたら、試合はどう転ぶかわからない。タイタンズの応援席はがぜん盛り上がった。

 打席に向かう前、ルティネスはネクストバッターズサークルにやって来たヤムチャに言った。
「オレはボールに食らいついてでも塁に出る。おまえは必ずオレをホームに帰せ。わかったな」
「いいのか。オレの4番の位置が不動になっちまうぜ」
 ルティネスは左腕を曲げてヤムチャの前に掲げ、全快した肘を見せた。
「おまえには借りがある。あの妙ちきりんな豆のお陰で選手生命を絶たれずにすんだ」
 大きな肉厚の手でヤムチャの肩をポンと叩くと、ルティネスは愛嬌のある目でウィンクして笑ってみせた。
「彼女の前でヒーローになれよ」
 ヤムチャはレフトスタンドを見上げた。いつ来たのか、鮮やかなエメラルドグリーンのワンピースに身を包んだマリーンが長いヘーゼルの髪をなびかせて最後列の真ん中に立っている。
(マリーン……!!)
 体中に力がみなぎるのがわかった。
 約束通りヒットでルティネスが塁に出たおかげで、9回裏2アウト一、二塁とお膳立ては全て揃った。
 オレは打つ――――バットに祈りを込め、ヤムチャは打席に立ってザカーラを見据えた。

(ヤムチャさんは必ずホームランを狙ってくる。――――打たせるものか)
 マウンドのザカーラは慎重に足元をならし、帽子をかぶり直して捕手のラッターの手元を見た。
(なんだって!?)
 サインの意味に気づくと、彼はベンチに目を走らせた。監督が厳しい顔で念を押すように同じサインを送ってくる。
(敬遠だと!? この期に及んで何を言い出すんだ!)
 ザカーラの動揺ぶりにラッター捕手があわててタイムを要求し、マウンドに走ってきた。

「抑える自信はあります。勝負させて下さい」
 息巻くザカーラに女房役のラッターは温厚な顔を引き締めながら諭した。
「おまえの気持ちはわかるけど、相手はあのヤムチャだぞ。ここは満塁にして、次のバッターを抑えて勝ちに行くんだ。
 まったく、今までの苦戦ぶりが嘘のように今日のあいつは打ちまくってるじゃないか。よほどファームでの調整がうまくいったんだろうよ。この打席まで大きな当たりは出ていないが、それはたまたま運が悪かったからだ。勝負の女神は気まぐれだからな。いつまでもおまえに惚れてくれてるとは限らないぜ」

 ザカーラは悔しさにぎりぎりと歯噛みした。他の選手にならどんな手を使って勝ってもいい。だが、ヤムチャにだけは正々堂々と自分の力をぶつけて勝ちたかった。帽子を脱ぐや、彼はそれを力任せにマウンドに叩きつけた。満場の観客がどよめく。
「マウンドを降ります」
 ベンチに向かって歩きかけたザカーラをラッターが体を張って止めた。
「バ、バカなまねをするな! せっかくここまで来て……。完投するんだ。20勝だぞ。自分の手で勝ち取りたいとは思わないのか!?」

 そこへベンチからピッチングコーチが伝令に走って来た。
「そうまでしてヤムチャと対決したいなら好きにしろ。この試合はおまえにくれてやるとさ。監督の温情を仇にするなよ」
 コーチは右手の親指を立てて突き出し、「勝ってうまい酒を飲もうぜ」と言ってベンチに戻って行った。ラッターがザカーラの帽子を拾い上げ、土を払って目が隠れるほど深く相棒にかぶせて笑った。
「世話の焼ける坊やだぜ。さあ、ちゃっちゃっと片づけてしまうぞ」

 タイムが終わり、ラッター捕手は自分の位置に戻ると、ザカーラと慎重にサインの交換を始めた。
(そう、それでいい。敬遠なんてされてたまるか)
 ヤムチャはバットを構えたまま不敵な笑みを浮かべ、マウンド上のライバルを見た。


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