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Cool Cool Dandy2  〜Summer Night Festival〜

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第19章

 リビングのTVでは深夜のプロ野球ニュースが流れていたが、ヤムチャの頭の中はさっき見た光景で一杯だった。
(やつは今日登板日だったはずだ。それがあんな時間にあんなところにいたということは、試合の後二人で落ち合って……? まさか、いつのまにそんな……。いや、そんなはずはない。慣れない土地に来たザカーラが、たまたま通りかかったマリーンにばったり会って道を尋ねた――――いや、それこそ非現実的だ)
 ヤムチャは振り払うようにかぶりを振った。ふと気づくと、テーブルの上の携帯電話が鳴っている。飛びつくようにして取り上げ、急いで通話ボタンを押した。

「……きみか」
 この前アロマがマンションに来た時、乞われるままに携帯の番号を教えていたことを彼は思い出した。
「当てが外れた? 切りましょうか」
「いや……ごめんよ。何だい?」
「泊めてもらってた同僚の家の回りでもあいつがうろつくようになっちゃって、今はホテルに泊まってるの。もう限界。ねえヤムチャ、明日の夜都合いい? 二度とあたしにつきまとわないように、あいつに言ってちょうだい。お願い」
「わかった。試合の後なら……。遅くなるけど終わったらそっちへ行くよ」
「ええ。待ってるわ」
 アロマは泊まっているホテルの名前と室番号を告げて電話を切った。

 ヤムチャは切ったばかりの携帯を見つめ、マリーンの番号を押そうとしてためらった。ザカーラに肩を抱かれて歩いていた彼女の姿が鮮明に浮かんでくる。
 今、電話をかけて、もし彼女が家に戻っていなかったら――――。
 指は真実を確かめるのを拒むように動かなかった。やがて彼は溜息と共に携帯電話をテーブルの上に置いた。


 翌日もヤムチャは試合の前に神殿へ行った。
「きのうの試合はここで精神統一をしたせいかな。絶好調だったんだ」
 出迎えたデンデにそう言って、荷物を置いて顔を上げ、向こうの縁で下界を見下ろしているピッコロにふと気づいた。
「何か面白いものでも見えるのか?」
 ひょいとピッコロの肩越しに覗き込むと、ピッコロはギクッとして一歩脇へどいた。
「なっ、なんだきさま、何しに来やがった」
「おまえこそ、焦りまくってどうしたんだ?」
 前に立ちはだかろうとするピッコロをかわし、下界に目をやったヤムチャは「はーん」とうなずいた。

 中学校らしい建物から出てくるアメリアが見える。大きな眼鏡をかけた頭の重そうな少年が一緒だ。
「そういうことかあ」
「や、やかましいっ。さっさとあっちへ行け」
「まだ何も言ってないぜ」
「だったら言う前にあっちへ行け」
 視界をさえぎろうと振り回す、ピッコロの長い腕の間から顔を出してヤムチャは言った。
「ちょい待ち。アメリアがピンチみたいだぜ」
「何!?」

 ピッコロは振り向いて下界に目をこらした。同じ中学の生徒らしい、いかにも不良という風体の少年が三人、少女が二人、アメリアたちの回りをぐるっと取り囲んで何か因縁でもつけているような雰囲気だ。
 そのうちに、アメリアが彼らに向かって何か言い、少年の一人が彼女の胸ぐらをつかみ、頬をひっぱたいた。
「あ、あのガキどもめが〜〜〜〜〜〜!!」
 ピッコロは両方の拳を握りしめ、ぎりぎりと歯噛みした。
「オレが行く。ピッコロ、おまえはここにいろ。カッカ来てる今のおまえじゃ、手加減出来ずに死体の山が出来ちまうからな」
 今にも飛び降りかねない剣幕のピッコロを制止してヤムチャがそう言った時、アメリアと一緒にいた少年が、彼女に狼藉ろうぜきを働いた不良につかみかかって行った。

「お、あの日陰のキュウリみたいなやつ、なかなかやるじゃないか」
 だが、不良の腕の一振りで、そのひょろひょろした少年はあっけなく吹っ飛ばされ、学校の塀を背にしてペタンと尻餅をついてしまった。
 その時、どこからかひとりの少女が現れ、二言三言何かを告げると、不良たちを率いて立ち去って行った。
「あれ……? なんだ。あいつらのボスかな。ともあれ無事で済んでよかったぜ。まったく近頃のガキはよお」
 ピッコロはと見ると、険しい顔を下界に向けたままだ。
「気にいらん」
 何が―――と訊くまでもない。そりゃそうだ。あんな頼りないうらなり坊主なんかを、アメリアのボーイフレンドとして認めたくないのは当然だ。
(早くも花嫁の父親の心境かよ。それともついにジェラシーってやつを学習したか)
 そう突っ込んでやりたいところだったが、試合前に地雷を踏むわけにはいかず、ヤムチャはおとなしく瞑想をしに戻った。


「アメリアさん、大丈夫ですか」歩きながらディルはおろおろと声をかけた。「ごめんなさい。僕、守ってあげられなくて」
 熱くなった頬を撫でながらアメリアは笑った。
「ううん。ディルはわたしのこと守ってくれたじゃない。自分の身も省みずに必死になって……嬉しかった」
 ディルは一瞬ポッと色白の顔を上気させ、しきりに頭を掻いて照れていたが、やがて真顔になり、眉を寄せて考え込んだ。
「それにしてもマジョラムのやつ、これ以上問題を起こしたら退学になってしまうのに……どういうつもりなんだ。ヤケになってるとしか思えない」
 そうね……と相づちを打ちかけて、アメリアはさっきのことを思い返した。

 マジョラムといつもつるんでいる不良たちが、たまたま通りかかったアメリアとディルを脅し、お金を巻き上げようとしたのが事の発端だった。
「こんなことして恥ずかしくないの!?」気丈にもそう言い返したアメリアに、少年の一人が手を出した。あとはピッコロたちが神殿で見た通りである。
 そこへ現れたのがマジョラムだった。
「やめなよ。こいつら貧乏だから逆さに振ったって何も出やしないわよ」
 そう言うと、彼女は仲間を引き連れて立ち去った。

(もしかして……もしかしてマジョラムはわたしたちを助けてくれたの?)
 そういえば、以前にディルと揉み合った拍子に彼の眼鏡を地面に飛ばしてしまった時、一瞬だったが彼女はすまなそうな顔をした。眼鏡を拾おうと手を伸ばしかけさえしたのだ。
 案外、ディルの想いはちゃんとマジョラムに通じているのかもしれない。同じかなわぬ恋をする身として、アメリアはいつしか彼に共感を覚えていた。
 彼女は言った。精一杯の祈りをこめて。
「ねえ、ディル。いつかマジョラムにもあなたの想いが届くわ。きっと」


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