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Cool Cool Dandy2  〜Summer Night Festival〜

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第17章

 その夜、ヤムチャは絶好調だった。東都サンライズとの試合は、西都タイタンズの投手マーサが立ち上がり制球の悪さを叩かれ、初回に4点失ったものの、その裏の攻撃でヤムチャの走者一掃のタイムリー三塁打が出て一気に3点返したことでチームが活気づき、その後は毎回のように得点を重ねて5回裏には7−4とした。

 守備でもヤムチャの好守が光った。3回表、無死満塁の場面でレフトオーバーの大飛球を、彼は信じられないスピードで落下地点まで全力疾走して追いつき、振り向きざまに捕ると同時に三塁へ返球した。ボールはすぐさま二塁へと送られ、トリプルプレーでこの危機を乗り越えることが出来たのである。

 アナウンサーは感極まって言った。
「いや〜、ヤムチャの守備は穴がありませんね。どうですか解説のルーグスさん」
「ちょっとでも早くボールの落下地点に入るには、打球が上がった瞬間には落下地点を予測し、目を切ってそこまで全力疾走しないといけない。ボールを目で追いながら走ってたんでは間に合わないわけですね。
 名手と呼ばれる野手はみんなそうやってますが、彼の場合、打者のフォームと打球音だけで判断して走りますからね。それにあの俊足でしょ。だから普通の野手にはとてもじゃないけど追いつけないような球でも捕れるわけです」
「上げれば捕られる、転がしても強肩で併殺打にされる。レフトにはうかつに打てませんねえ、サンライズの選手は」

 実際、東都サンライズの監督は選手を集めてこう言ったのである。
「いいか、今後レフトへは打つな。センター返しか右狙いだ。いいな」
 しかし、その頃には投手マーサの調子は戻ってきており、要所要所でピシャリと抑えられて、サンライズの打線はだんだん湿ってきた。
 そして回は6回裏を迎えた。5回を終わったあたりでしょぼしょぼと降ってきた雨がだんだんと強くなってきた。

「観客の声援が一段と高まって来ました。さあ、ツーアウト満塁の絶好のチャンスでいよいよヤムチャの登場です。前の打席ではノーアウト一、二塁の場面で彼を敬遠したサンライズですが、果たして―――」
 アナウンサーはそこで回されてきたメモを見た。
「5回までのヤムチャの成績です。1回に三塁打、2回に二塁打、4回に本塁打……おっとこれは。この打席でシングルヒットを打てばサイクルヒットの記録が成立しますね」

 サンライズベンチの指示はやはり敬遠だった。観客席からブーイングの嵐が起こる。立ち上がった捕手のミットめがけて投手が中途半端にウエストしたボールを投げた、その時。
 ヤムチャは伸び上がるようにしてバットを振った。態勢を崩しながらバットの先で引っかけたその打球は、右中間にポトリと落ちた。

「ヒットだ。ヤムチャ、サイクルヒット達成です!」
 興奮して叫ぶアナウンサーの横で解説者がクールに言った。
「ウエストするなら思い切ってはずさないといけないという見本ですね」
 野手がもたついている間に二塁走者のガシーデが俊足を活かして生還し、西都タイタンズは9−4と東都サンライズを突き放した。

 結局それが決定打となり、タイタンズはサンライズとの第一戦を勝利で飾ることが出来たのである。ヒーローインタビューは攻守に活躍したヤムチャだった。
「6回のポテンヒット? 別に狙ったわけじゃないんですが、結果的にはサイクルヒットになりましたね」
 降りしきる雨の中、上機嫌で彼はインタビューに答えた。


 ヤムチャが西都スタジアムで大活躍していた頃、マリーンは仕事を終え、家路につこうとしていた。今日は週に一度の勉強会の日で、午後7時に店を閉めた後、みんなで最新の技術や流行などについて勉強していたのである。
 エアカーの時計を見ると9時を回っている。アメリアには先に夕食を済ませるよう、出がけに言っておいたから、自分を待っていることはないだろう。マリーンは車を西都スタジアムへ向けた。
 そろそろ試合が終わる頃かもしれない。ヤムチャに会えるという保証はなかったが、一目遠くから顔を見るだけでもよかった。

 駐車場にエアカーを止め、そのまま置いておくと駐車違反になるので、車をカプセルに戻してバッグにしまった。田舎ならともかく、西の都のように人と車であふれ返っているような大都市では、駐車場は飽くまで車を乗り降りする時に、一時停めることの出来るエリアとして存在する。
 マリーンは傘をさして西都スタジアムを見上げた。ライトが煌々こうこうと点き、応援のかけ声や歓声が聞こえてくる。まだ試合は終わりそうにない。
(ヤムチャに言わなきゃ。研修で西の都をしばらく離れるって……)

 断ることなど出来なかった。あんなことをしでかしてライムの顔に泥を塗った自分に、ライムは見切りをつけるどころか、反対にチャンスを与えてくれたのだ。その期待に応えなければ、今度こそ自分は見放されてしまうだろう。
 ヤムチャのことを考えると心が揺れた。ひとりで残して行くアメリアも心配だった。
 でも……。
(こうするのが一番いいんだ。このままヤムチャといたら、あたしはダメになってしまう……)
 一生懸命自分に言い聞かせながら、彼女はいつまでもスタジアムの灯りを見上げていた。


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