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Cool Cool Dandy2  〜Summer Night Festival〜

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第30章

 ロイヤルズとの3連戦は勢いに乗ったタイタンズが3戦とも圧勝で終わった。ヤムチャは連日ベンチ入りはしたものの、ベンチを温めているだけで一度もお呼びがかからなかった。
 ヤムチャの代わりに4番に入っているルティネスの怪我は一向によくなる気配がない。周りには関節痛とか筋肉痛で通しているようだが、監督やトレーナーも薄々気づき始めたのではないだろうか。もはや気力だけでもっているという感じで、さすがにこの頃では打率がジリジリと落ちてきている。

「オレは別におまえに4番を返してもらいたくて言ってるんじゃない。見てられないんだよ。意地張ってボロボロの体で野球を続けているおまえが。このまま選手生命が終わっちまってもいいのか!?」
 ヤムチャは中の都の宿舎でルティネスの部屋を訪ね、治療に専念するよう説得したが、彼は頑として聞き入れようとしなかった。
「余計なお世話だ。そんなことより自分の身を心配しろ。誰かにポジションを取られたまま、戦列を離れて復帰できなかったやつはごまんといるぜ」

 そうだ。ルティネスもそれを恐れているのだ。一度でもポジションを譲るということは、誰かにチャンスを与えるということだ。その誰かが自分の代わりに活躍すれば、自分の出番が二度と巡って来ないことだってあり得る。だからやつは執拗しつようなまでに自分のポジションにしがみついているのだ。
「頑固者め」
 捨てゼリフを吐いて彼の部屋を後にしたものの、家族のために自分の体を犠牲にして働くルティネスに、ヤムチャは同情の念を禁じ得なかった。

 自分の部屋に戻り、窓を開けると彼は夜空に飛び出した。神殿までひとっ飛びに飛んで、ピッコロの部屋のドアをノックする。
「きさまか。何だ、こんな夜更けに」
 ドアを開けたピッコロは不機嫌そうに言った。もう寝るところだったのか、マントもターバンも外し、白っぽいシンプルな部屋着に着替えている。
「まだ宵の口だぜ。夏祭りに行くんなら夜更かしの練習をしておけよ」
 憎まれ口で応酬してから、ヤムチャは初めて見るピッコロの部屋の中を物珍しそうに見渡した。

 作りつけのクロゼットとベッドと机に椅子、それにぎっしりと書物の詰まった大きな本棚があるきりの、そっけないほど生活感のない部屋だ。ただ、神殿にふさわしく重厚な造りの調度に、木の温もりがある種の趣を与えていて殺風景な印象は受けない。
 部屋の灯りは絞られ、卓上スタンドの灯りだけが机の周辺を浮かび上がらせている。机の上には分厚い本が幾冊も広げられており、その前に何かを書き連ねた紙と万年筆が置いてある。本棚に並べられた本も全て百科事典のような装丁の難解そうな本ばかりだ。文庫本だの雑誌だのの類はひとつもない。

「ナメック星人の民族史をまとめていたところだ」ヤムチャの視線に気づいたピッコロが言った。「ネイルのライフワークだそうだ。もっともオレはそんなものには興味はないがな」
「前の神様も読書家だったそうじゃないか」
 ピッコロは口の端をわずかに上げて笑った。「ふん。愚にもつかん趣味だと思っていたが、心を落ち着けて書物に向かうのも悪くはない。―――なんだその目は。オレが本を読むのはおかしいか」
「いや、おまえがこの頃いい感じになって来たなと思ってさ。人間に深みが出て来たって言うのか……顔つきだって変わって来たよな。アメリアのことをオレは悪趣味だと思ってたけど、案外あの子は見る目があったってことか」

 一瞬、ピッコロは息を詰まらせたような表情になった。急いでヤムチャに背を向けると、穏やかな口調から一転してつっけんどんに言った。
「そんなくだらんことをくっちゃべりに来たんなら帰れ。オレは忙しい」
「おっと、用件がまだだった。なあ、仙豆、まだ余ってるか?」
「余分に持って行けとカリンが言ったから2、3粒もらってあるが。何に使うつもりだ」
「ちょっとな」

 ピッコロは仏頂面のまま机の引き出しから袋を出し、仙豆を一粒取ってヤムチャに放った。
「サンキュ」右手で受け取って、ヤムチャはニッと笑った。「ライフワークもいいが、恋愛小説のひとつも読んでおけよ」
「やかましい。さっさと行け」
 ピッコロに蹴り出された後、そのまま宿舎に戻ろうとして神殿の縁に立つと、西の都のやや海岸寄りに蛍の光のように淡い光の群が見えた。

 おととい、マリーンのアパートから回れ右をして戻って以来、彼女に連絡を取りそびれていた。彼が退院したことは知っているはずなのに、マリーンの方から何も言って来ないのが引っかかる。やはりもう手遅れなのか……。
 くじけそうになる気持ちをヤムチャは奮い立たせた。
(このまま終わりになんてしない。させてたまるか)


 ドアを開けたアメリアにヤムチャは言った。
「ごめんよ、こんな遅くに。マリーンいるかい? ちょっとだけ話したいんだ」
 パジャマの上にカーディガンを羽織った格好のアメリアは、目を見張って言った。
「ヤムチャさん、知らなかったの? マリーンは今、北の都よ」
「何だって!? もう研修に行っちまったのか?」
 やはりアロマが言ったことは本当だったのか……。
「マリーンに聞いたのね。ショックでしょ。でも、1年なんてきっとあっと言う間よ。それに今回のは違うの。4日間だけの特別講習なんですって。ちょうど今日の午後発ったのよ」
「そうだったのか」

 アメリアにマリーンが泊まっている寮の所在地を聞き、ありがとうとおやすみを言ってドアを閉めようとした時、思い切った様子で彼女が声をかけてきた。
「ヤムチャさん、わたし、ヤムチャさんのこと信じてるから……」
 アメリアはひたむきな瞳を真っ直ぐにヤムチャに向けている。彼女もあの記事を見たのだ。そして彼のふがいなさに心を痛めているに違いない。
「ごめんよ、アメリア。きみにまで心配かけちまって」

 アメリアはやさしく微笑んで言った。
「でも、ヤムチャさんだけ責めるのは酷ね。マリーンにだっていっぱい悪いところはあるもの。彼女の最大の欠点は、意地っ張りで本当の気持ちをヤムチャさんに言わないことよ」
 首をすくめて彼女はつけ足した。
「マリーンにはこんなこと言わないでね。帰ったら四の字固めかけられちゃう」


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